第5話 学校に行ったら番長にからまれた
翌日、海波は筋肉痛に悩まされながらも、いつも通りに高校へと通う。
教室につくと、一瞬教室全体のざわめきがなくなり、海波の挙動に注目が集まっている感じだった。
(この感じは……何かしらバレている感じ?)
(心を落ち着かせてくれ……こちらにも影響が出る。何食わぬ顔をしていれば大丈夫だ)
クラスメイトの中では割と話すことが多いが、そこまで仲が良いとは言えない男子が話しかけてくる。
「おはよう。なぁ、白波、大丈夫だったんだな? よかったわ」
「おはよう。どうしたんだ?」
「あ、なんと言うか、おまえを、その、「構っていた」やつらの家で警察沙汰の事件が起きた……らしいんだ。なんか家に警察とかがたくさん来てたって……」
脇から話に入りたがっていた女子達が唐突に会話に入って来る。
「召田君とか、この時間は学校にいつもならいるのに、まだ来てないしさ……」
「提子もなんか、連絡入れても既読付かないしさ、なんか知らない?」
期待と疑いと好奇心に満ち溢れた目で海波はクラス中の注目を集めてしまう。心の中では二つの心がせめぎ合っていた。
(ど、どうしよう……)
(落ち着け、知らぬ顔をするだけだ……おまえが落ち着かないと俺にも影響が出る)
(わ、わかった、頑張るよ)
「ん? 特には知らないな……」
「そうなの?」
「まじ?」
「……ってことは、学校帰りに何かあったとかか? 白波君もケガしてないみたいだし……」
「なんもなかったのか?」
「ああ、どうしたんだ? 警察がなにか?」
「そっか……ってことは、そのあとに何かあったのかもね」
「知らないかぁ、残念」
海波は昨日のことを思い出していた……
クラスメイトの一部は、海波を連行するように連れ出すところを見ていた訳だから、疑いの目がかかるのは当たり前だと理解した。
以前の「白波海波」だったら、このような会話をしたら挙動不審になってばれてしまう感じだっただろうが、現在、海波の表に出ているのは前世の転生前の「ゼフ」の性格だった。
命がけの修羅場をくぐり抜けてきたので、このくらいの事では動じずに落ち着いていつも通りに振舞っていた。
多少、冷静すぎて無反応すぎるきらいはある様に見えたが。
それからしばらく会話をするが、クラスメイト達からは、口数も少なく、平然とした様子から何も知らなさそうと判断された様で、散り散りになって噂話の続きを始めていた。
海波は周りを気にしながら席に着き、教科書などを机の中に入れながら聞き耳を立てる。
転生前の目覚めた力のせいか、随分と遠くまで聞こえるように思えていた。
「なんか、体育のジャージで家に向かっているのを見たとか?」
「あ、俺見たかも。なんか線路わきを歩いているのを見た。……多分、電車にのれなくて……定期がない状態だよな。持ち物なくしたのかな?」
「校舎で裸で走ってる豪利君がいたとか?」
「まじかよ……あれか? 真っ最中に持ち物持ってかれたとか?」
「ああ、あり得るな……痴情のもつれとかなのか?」
「提子が宗麻にべたぼれだからそれはないだろう……」
「んじゃぁ、白波君はやっぱ関係ないのかな?」
「分かるわけないっしょ……」
海波はクラス内はおろか、隣のクラスまで聞き耳をたてて噂話を残さず拾い、情報を頭の中でまとめる。
(なるほど、あの後、あいつらは、体育のジャージに着替えて家に帰ったのか……)
(てっきり裸で帰ると思ってたが……)
(それはないでしょ……それだったらカーテンや保健室のシーツにくるまるだろうし……)
(この世界には布が多いのだな……服には不自由しない世界だったな)
(そうだね、寒くてひもじい思いはしないね……君の記憶……本当にキツイ事が多いよね)
(そうだな……)
海波は転生する前世の記憶の優先度が高くなり、現世の人間よりかなり想像力が働かない人間になっていた。
(家に帰れたのなら……反抗しないように釘を刺しておかないとな……)
(え? これ以上なにかするの?)
(ああ、ああいう輩は気持ちをそがないといつまでも反抗してくる……ついでに金を持ってないか……親からまた貰ってはずだ……それを頂けば返してもらったことになるのか?)
(あんな部屋を丸ごと粉にしちゃったら……親はそれどころじゃないと思うよ……)
(足止めとしては十分……か。親からこっそり返してもらうか……)
(やめてくれ……親は悪くない……それはただの犯罪だ)
(……そう言う判断か)
(それでお願い……母さんを悲しませたくないんだ……)
(だとすると……定期的に奴らから金を巻き上げるか……)
(……なんと言えば良いかわからないよ……)
まともな現代人の思想ならば、犯罪の発覚を恐れるところだが、「ゼフ」は不良少年たちを獲物のくくりで判断をして、さらなる金をどうやって捻出させるかを考えていた。
§ § §
海波は授業中も「自分の力」を試していた。
前世でよく使っていた魔力感知を使うとモノの気配がわかったり、魔力の強さ、相手の元来の強さなどを感覚で測ることができた。
海波は、この世界にも魔力が存在している事に疑問を抱いていなかったが、魔法を使っているのを見たこともない世界で、誰もが魔力を小さく持っている事に驚きを隠せなかった。
(……この世界に魔法があったのか……ってことは使えていないだけ……何かしらの理由で魔法文明が崩壊したのか?)
(そんな歴史は習っていないよ……少なくとも科学が世界を発展させた)
(なるほど……あちらの世界にも科学があれば……もう少しまともな世の中だったのだろうな)
(魔法は便利だったみたいだね)
(そうだな。便利なものがあると「科学」は発展しないのかもしれないな……」
海波は試しに、黒板に置いてあるチョークをめがけて『物質を粉に変える』能力を発動させてみる。すると、白いチョークがただの石灰の山となる。
海波が通う学校は中程度の高校だったのでほとんどの人間が授業を真面目に受けておらず、まじめな人間は内職をしていたりで、教室内では誰にも気が付かれなかった。
(相変わらず無茶するね……)
(そうか? ……やはり誰も気づかない……感知できない状態か……)
(気付くはず無いよ……だれも魔法の事なんて話をしていないもの……)
(それか、魔力を使えるのがバレない様に黙っているか……か)
(それだとすでに魔力を使える人間がいるってことじゃない?)
(可能性として考える必要があるな)
海波は注意深く魔力で周辺を感知し、この学校内でギフトの力に誰も注目していないことを確認すると、思わず顔がにやりとしてしまう。
(これは……やり放題だな、色々と)
(……はぁ、自重してくれよ……)
§ § §
放課後、海波は帰る準備をして、これから「能力を使った実験」のことを考えてウキウキしながら下駄箱で靴を履いていると、ガラの悪い体格の良い男子生徒達が後ろから近づいてくる。
海波はなんだろうと思いながら気を抜いていると、彼の肩に腕を回し、きつめにロックする形で抱きかかえられてしまう。
「海波、ちょっと面貸せよ……」
この高校の番長的立場の番田だった。その後ろにも三人ほどの上級生が威圧する感じで海波を取り囲んでいた。
(番田先輩?? 面倒な人達が……宗麻たちの事が耳に入ったのか? どうしよう?)
(ふむ……落ち着け……大丈夫だ。)
(わ、わかった、頑張って落ち着く……)
(この世界の人間にしては鍛えているようだな……)
海波も筋トレをしたりして体格が良い方だったので、体格差はそこまでなかったが、番田は熱心にハードな筋トレをしているだけあって体が大きく、はたから見ても「絡んでいる」ようにしか見えなかった。
周りの生徒や先生達も気が付かないふりをして、そそくさとその場を離れて帰宅をしたり部活に向かう。気の毒そうな顔をして遠くから見守る人間もいたが、自分の身の可愛さゆえに手出しをしようとはしていなかった。
(はぁ、やっぱりみんな逃げるよね……そりゃそうだ……)
(町人は逃げて当然だが……教師も逃げるとは……俺の世界の教師では考えられないな……)
(君の世界と違って、「先生」と言う職業なんだよ。怪我をして退役した兵士とか魔法使いじゃないんだから……)
海波は移動している間も肩をがっしりと組んで、逃げられないようにされた状態で連行される。あまりにも海波が無抵抗でいつも通りの表情だったので、不安になった番田がたまにチラチラと海波の表情をうかがっている感じだった。
記憶を取り戻す前の海波、「白波海波」だったら、萎縮して挙動不審になっていたかもしれない。
ただ、現在の彼は表情にこそ出さないが、心の中の笑いを抑えることができなかった。
(これは……かなりの数の気配だ……戦利品が向こうからやって来る!)
(はぁ、やっぱりそうなるか……番田先輩は格闘技も習ってるらしくて……強いはずなんだけど……)
(これで強いのか? この世界はどうなっているんだ? 魔力量がかなり小さい上に筋力もそこまで高い様に見えないのだが……)
(君の世界のゴリラみたいな人種と比べないでほしいかも……)
「白波海波」は「ゼフ」の好戦的な思考に呆れ果てていた。
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