第6話 現代の盗賊退治?をしてみた
番田達不良グループは、カメラの無い死角になっている路地裏の袋小路になっている場所へと海波を連れてくる。そこにはガラの悪そうな生徒が数人と、どう見ても堅気じゃない本職のヤクザっぽい人間も何人か混じっていた。二人が空き地の中心に来ると、出入り口を本職っぽい人間が逃げられない様に塞ぐ。
「番田ぁ、そいつか?」
「……なんか……違うんじゃないか? 弱そうなんだが……」
「先輩……最後に一緒にいたところを目撃されたのはこいつっす。宗麻達の話も、何言ってんだかわからないくらいだったし……今は連絡つかないのでわからないっす」
本職っぽい人間のリーダーが海波を見て、明らかに普通で無力な、敵になるような人間じゃないと判断し、あからさまにやる気がなくなっていた。
海波はそこにいる人間に対して魔力感知を使ってみる。
殆どが相手にならないくらいの強さとわかるが、後ろで静かに見守っている男性の色だけが少しだけ変わって見えた。
おそらく彼だけが他よりは強い感じなのがわかり、立ち振る舞いからも彼が用心棒的な扱いなのがわかった。
(あいつだけが少し強いな……)
(め、めちゃくちゃ強そうじゃないか……人を殺してそうだ)
(あの目は殺しではなく、恐喝くらいしかしていない目だな)
(そんなのわかるの?)
(……長年の勘だ)
海波はどうやって現代の「白波海波」としての能力を実験しようか迷っていたが、目の前のトラブルを利用するしかないと考えていた。
(ラッキーだな……こいつらならば気兼ねなくいろいろと試せそうだ……警察に駆け込む事も無いだろう……)
(……あ、そうか、ヤクザ達が警察に助けを求める事なんて無いか……って本気でやるの? 母さんに報復……なんてされないよね?)
(大丈夫だ……任せておけ……)
(……ほんとに……ほんとに大丈夫?)
海波が頭の中で二人が会話をしている途中で、本職っぽいリーダーは脅すような低い声で海波に話しかけてくる。
「あーっと、カイハ君だっけか? おまえ知ってんだろ? 宗麻達に何があったか?」
「俺から「お小遣い」をもらうために「格闘ごっこ」をしてた事か?」
海波が恐れを全く感じず、あまりに普通な感じな上「ため口」で話すので、その場にいた全員がぎょっとした感じになる。彼らの経験上、この人数で囲むと萎縮して声が震えたり、黙り込むのが当たり前だったからだ。
(……やっぱりみんなドン引きしてるよ……)
(これくらいで驚いているとは……どう言う事だ?)
(僕から見るとすごい怖いもの……ビビッて喋れないよ……敬語でしゃべると思うし……)
(……そう言うものか……)
「……あ、ああ、そうだな……その後だな」
本職っぽい人間たちも、若干「何だこいつは?」と言った表情になる。
海波は変わらない表情ですましていたが、首に腕を回された状態だったので段々とイライラしていた。
(そういや、番田も「格闘ごっこ」に参加してたな……)
(ああ、いいね。君の「怒り」が俺にも伝わってくるぞ……)
(ち、違う……これは怒りじゃ……)
(君は押し隠すのが癖になっているのだな。心を共有している俺から見ると丸わかりだぞ)
(……そうだね、ゼフには隠せなかったね……)
海波は番田のベルトやチャックの金具やボタン等を『物質を粉に変える』能力で粉に変えてしまう。彼が能力を使った事に誰も気が付かなかった様で、「魔力」に対して反応を見せる人間はいなかった。
すると、番田のズボンが突然ストンと落ちて間抜けな状態になってしまう。
番田は海波から腕を離し、落ちたズボンを慌てて腰まで持ってくる。
「え、おっと、ちょっと……あれ? なんでベルトが? ボタンまで? 壊れたのかこれ?」
「……なにやってんだ番田……んで、カイハ君? ソーマ達と別れた後の事を話してくれるかい?」
本職っぽいリーダーが圧をかけながら話しかける。
が、海波はそよ風の様に圧を受け流し、いつも通りの口調で答える。
「俺は気絶していたからわからないな」
「……ん?」
「……ふてぶてしいくらいだな……怖くないのか?」
「嘘ついているようにも見えないし……わからないな……」
「ん~念のため、体に聞いてみるか? やってくれ」
海波の恐れを全く見せない反応に若干イラつきを見せた本職のリーダー的存在が、顎で用心棒らしき人物に向けて合図をする。
「わかった……あまり気乗りしないな……」
海波が相手の力を測ったときに一番強いと思った用心棒が前に出て、目の前に直立して威嚇をしてくる。
(ちょ、ちょっと……でかい! 目つきもやばい! 大丈夫なの??)
(……何も感じないな……死を予感させない……)
用心棒は海波が全くひるむ様子を見せないので若干ためらうが、彼をめがけて素人向けの威力の腹パンをする。
が、海波はその腕を殴っている途中でつかんでピタリと止めてしまう。
「……え?」
「……これ、本気か?」
(え? 止めちゃった……え? 止まった? そんな……ありえない!)
(ソーマよりほんのちょっと強いくらいか……)
海波はパンチ力の弱さに驚いた感じで用心棒に問いかける。
問いかけられた用心棒もぎょっとした感じになって、自分のつかまれた腕を見た後に海波の顔をまじまじと見る。明らかに異物を見る目だった。
その瞬間、用心棒の体がくの字になって浮き上がった後に、そのまま地面へと崩れ落ちていく。
「あ……が、が……」
用心棒は苦悶の表情になり、言葉が発せられない状態になっていた。
「「「!!!」」」
その場にいる一同が呆然として様子を見る中、海波は入り口をふさいでいた本職の子分の隣まですたすたと歩いていく。
「あ、おい、逃がすな!」
「わかった、グホッ!」
一瞬何が起きたかわからず呆然としていた本職のリーダー格が声をかけると同時に、入り口をふさいでいた人間もくの字になって浮き上がった後に地面へと崩れ落ちていく。
海波は入り口をふさぐようにその場にとどまり、振り返ってその場の人間を見回す。
海波はその場の人間から視線を外し空を見て思考にふけりながら普通に話し始める。
「えーっとなんだっけ、これはどっちの言葉だっけか……」
慌てる本職っぽい人間たちだったが、あまりに非現実的な状況に、誰も現実を呑み込めていない感じだった。
「ちょっと、おまえら、そいつを逃がす、あれ、逃げてない……えっと?」
「先輩……ちょっと……」
「番田、聞いてねぇぞ! 格闘経験あるやつだったんじゃないのか?」
本職っぽい子分の一人は懐からナイフを取り出し威嚇をはじめ、不良少年達はナイフを見て腰が引けてしまう。
海波はやっと言葉を思い出した様で、その場にいた人間に向き直って宣言をする。
「やるからには、やられる覚悟はあるんだよな? だったかな?」
§ § §
裏路地の空き地は静かになっていた。
(すごいな……ここまで強いとは……僕の体なのに……)
(筋トレもしっかりしていたのだろう? 動かしやすい体だ。後はやる気と……魔力次第だな)
(魔力はずるいな……やっぱり)
(ズルくても勝てば良い……誰の言葉だったか……)
その場ではうめき声がたまに聞こえるが、海波は気にせずに家から持ち出していた使い捨てのビニール手袋をはめて、不良達や本職たちの財布や持ち物を物色していた。
指紋を残したらダメなのはわかっていたので、昨日よりは用意周到になっていた。
「ゼフ」は絡まれる事を予測して明らかに不良達を狩ってお金を取り戻そうとしていた様子だった。
(さすがは社会人だ。これで……合計3万5千円か……やはり、スマホ決済使っているのか? ヤクザは現金たくさん持ってるんじゃないのか?)
(はぁ、なんのためのビニール手袋と思ったらこのためか……)
(証拠は残さずせん滅する。これが常套手段だ)
(……なんの常套手段?)
海波は荷物を回収しながら、うずくまって、動けないフリをしている番田の腹に蹴りを入れる。
「ゴフッ!!!」
「寝ているふりは分かるんだよな……」
「か、勘弁してください……」
「確か……君も……「格闘ごっこ」に参加してたな、これからも宜しく」
「あ……」
番田は顔を上げて海波の表情を見る。そこには恨みを晴らした満足した表情でも、嗜虐心に満ちた表情でもなく、何の感情もなく淡々と番田の荷物を物色している海波がいた。
海波は学生証や免許証などを手に、どうするか迷っている感じだった。
「うーん。どうするか、あ、落とし物で届ければいいか?」
「え? 落とし物……」
「あ、おまえたちの住所なんかはもう保存しておいた。これ、もう必要ないんだよね」
海波はその場にいた不良や本職っぽい人間のお金を抜き取った財布やスマホをコンビニのビニール袋にいれると、油性ペンで「落とし物」と書いたあと、そのまま持って立ち去ろうとする。
「あ、あの、それ、金以外は返してくれると……その、嬉しいんですけど……」
「落とし物だろ? 警察に届けておく。では、また明日。寝ているみんなに宜しく」
「……」
番田は、手を出してはいけない人間に手を出したことを思い知らされていた。
§ § §
海波はカメラの死角を通りながら、一般人にも気が付かれない様に街を駆け抜けていく。
(さすがに、今日関わった人間の部屋を「粉」に変えたらバレルだろうな……)
(ばれる。と言うより同一犯になるから、今回は絶対ダメだと思うんだけど……)
(そうだな、別の人間がやったと思わせるためにも今回はやめておくか)
(……ってか、その粉にする能力あまり人前で使っちゃダメだと思うんだけど??)
(……そうだな……宗麻達をやったのがばれるな……面倒くさい世界だ……殺せれば楽なのだが……)
(だから殺しちゃダメだって……)
海波は交番が見えるギリギリの場所に立ち止まり、人の視線や監視カメラがないかを確認したあと、「落とし物」が入った袋を交番の入り口めがけて投げつける。綺麗な放物線を描き入口に吸い込まれていくように「落とし物」の袋が飛んでいく。
(この距離を……すごいコントロール……)
(投擲には自信がある)
ドン!!
「うぉっ! な、なんだ??? え? 袋??」
交番では警察官が書類整理をしていた。そこに突然かなりの重量のビニール袋が投げ込まれて驚く警察官だった。海波はそれを遠目に確認して、そそくさとその場を離れていく。
(あ、ついでだ。魔力感知しながら帰るか……)
(どうして?)
(他にもあちらの世界の力使える人間がいるかもしれないからな……)
(……だとしたらもう魔力を使ってるのがバレてるんじゃ?)
(普段はこの世界の一般人くらいの魔力まで落として気配を馴染ませている。大丈夫だ)
(そんなこともできるのか……)
(それに感知できる距離はそこまで広くない。魔力量が高ければ遠くから感知ができる感じだな)
(魔力を抑えれば……気付かれないってことか)
(まぁ、そうなる。俺は得意だから安心しろ)
(裏家業やってただけあるね……)
海波は警戒を解いて、普通の魔力の気配を消して一般人と同じように街を歩いていく。
適当に街行く人に魔力感知をしていくが、思ったより有効範囲が狭く、人ごみにでも入らないとあまり効率的に魔法を使える人間を判別するのは難しそうだった。
(全然いないな……人が多すぎて厄介だ……)
(感知を広げることは出来ないの?)
(威力を上げすぎると、こちらの存在がバレる。それに魔力感知は本来なら魔法使いの仕事だ……魔術ならバレずに広げられるんだが……)
(……この世界で複雑な魔法は使えるの?)
(わからないな……俺は簡単な魔法しか使えない……それもテストしてみないとな)
海波が悩みながら商店街を歩いていると、通りの向こうから海波の存在に気が付き、手を振りながら近づいてくる女性かと思える容姿の男子高校生がいた。
彼の周りにはうっすらと強い魔力が感じられ、海波と同じような空気を感じた。
(魔力持ち……いたな……)
(え? あれって……)
「あ! 海波君!!」
「え? 蓮輝?
「あ、やっぱりわかるんだね! 君も! 「思い出した」んだね!」
高校は違ったが、中学までは一緒だった引呼蓮輝だった。
§ § § § § § § § § § § §
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