第7話 転生者に初めて会った
海波は現世の「白波海波」の記憶を探ってみる。
中学時代の同級生でクラスメート。
男子とは思えない美しい容姿と、女性のような美しい動作。荒事やスポーツはせずに文芸をたしなむ……少々変わった性格の人物だった。
「やっと魔力の波長がある人を見つけたと思ったら海波君だったとは、なんと言うめぐりあわせだ!」
「ちょっと待て、声が大きい」
「あ、ごめ……魔力使える人少ないみたいだものね、この世界」
「だから……ちょっと……こっちこい」
「あ、そうだね、ごめん。ちょっと興奮しちゃって……それでさ、やっぱりギフト……グブッ!」
海波は興奮してさらにしゃべり続けようとしていた蓮輝の口をふさぎながら、商店街にある人気の少ないコンビニの前に移動する。
(こんな性格だったっけ? テンションが高すぎなんだけど)
(魔力を使える人間に会ったのと、君に会えたのがうれしいんだろう。どう見ても)
(それだけじゃない気がするんだけど……)
海波は静かに胆力のある声で蓮輝の耳元で周りに聞こえないように諭す。
「魔力とかギフトとか、ばれたらまずいだろう? 俺たちは存在を知らなかったんだ……つまりこの世界には「あちらの世界の力」は存在していないはずだ」
「……むぐっ、むぐぐ……はなひ……むぐぅ……息が……」
「あ、すまない……」
「はぁ、はぁ、ひどいよぉ、海波君」
苦しそうにする蓮輝に気が付いた海波は慌てて手を離す。海波は男ながらに変な色気を持っている蓮輝の表情を見て若干引いていた。
「ふぅ……あ、そうだよね! ごめん、僕も昨日突然思い出したから……テンション上がっちゃって!」
「もう少し声を抑えて……」
「わかった……色々謎が解けたんだ……知りたい?」
「その調子、そのくらいの声で……」
海波は周囲を気にしながら、落ち着きを取り戻していた。
冷静に蓮輝の魔力を測ってみると、そこまで強大な力を持っているわけでは無く、あちらの世界だと普通くらいの力量に思えた。
(ギフト……と言っていたから、彼もギフトをこの世界でも引き継いだのか? あちらの世界でも「ギフト持ち」は珍しかったのだが……)
(そうなの? 君の知り合いはみんなギフトを持ってただろ?)
(ああ、仲間には多かったが……普通の街にいた人種はあまりもっていなかったな)
(人種……本当だ、君の記憶をみると色々な人がいるね……)
(こちらの世界は同種のみだから珍しいだろうな)
蓮輝は胸に手を当て深呼吸をして心を落ち着ける。だが、海波を見ると目が興奮の色に包まれてみるからにテンションが戻っていくのがわかる。
「ああ、なにから言えばいいんだろう……ほら、僕ってさ、なんだか小さいときからナヨナヨしてるとか、女っぽいとか言われてたでしょ? そのせいで……」
海波は小学生時代は蓮輝のことを最初は女の子と思っていた事を思い出していた。
「……そうだったな……」
「あの時は本当にありがとう、あの時は、ほんと死のうかと思ってたくらいで……」
蓮輝は目を潤ませながら、海波の手を両手で握りしめながら熱い目で海波を見てくる。
彼は見た目は女性っぽい美しさをもっている上、所作が女性っぽくてからかわれる対象となり、それがエスカレートして「いじめ」に発展していく経過を見ていた。
海波は、蓮輝がソーマ達に過度に絡まれているのをみかねて注意してから、彼らの気に障ったらしく、徐々に海波がターゲットになった事を思い出していた。
「白波海波」の過去を思い出すと、どんなギフトを継承していても、おそらく海波と敵対しそうにないと判断し、警戒を緩めていった。
「あー、なんか、熱いところすまないが……なにが解けたんだ? 謎?」
「あ、そうそう、やっぱりと思ったんだけど、僕は前世で女の子だったんだ!」
「ブハッ!」
ギフトや魔力についての話が始まるかと思いきや、突然のカミングアウトに海波は思わず吹き出してしまう。
「なんか違和感があったんだよね、小さいときから。他の乱暴な男の子となじめないっていうか、これは魂が違ったからだったんだね!」
「……な、なるほど……そうか、そう来たか……そう言う場合もあるのか……」
「あ! 勘違いしないでね、今はちゃんと男の子が好きだから!」
「ブフッ!」
「え? あ! 違う、女の子が好きだから! 言い間違えただけだよ!」
海波は、蓮輝の勢いに思わず身を引いてしまう。この性別を間違えた無駄な可愛さも相まって、道をたがえそうな気がしていた。
(僕の謎も解けたよ……女子と会話がすごい合っていたし、ふるまいも上品だったし……なるほど、そう言う事か……)
(やはり前世の魂は引き継がれるのか……俺もそうなのか? その割には「白波海波」は……)
(ごめんね……弱くて……)
(いや、弱いとは言っていない。面倒ごとに顔を突っ込む性分は引き継がれたようだな)
(面倒ごと……見過ごすことができないのは君も同じだったね……)
(押しは俺より弱すぎるがな……)
(……う……)
オーバーに恥ずかしがっていた蓮輝だったが、気を取り直してテンションが元に戻ったまま質問、と言うよりカミングアウトが続く。
「それで、海波君は、前世なんだったの? 僕は製薬会社で働いていた錬金術師だったよ」
「製薬会社! ……魔法の薬を作っていたのか……今もできるのか?」
「……わかんない。少しは覚えているけど、素材が全然違うもの、この世界に「叫び声をあげる根っこ」とか「満月の夜だけに光る草」なんて無いでしょ?」
「……残念だな、一儲けできるかと思ったのだが……」
「だよねぇ、僕もそう思った、で海波君は?」
「俺は……」
海波は、ここで盗賊稼業、裏稼業、暗殺稼業、傭兵稼業、便利屋稼業……どれを言えばいいか迷っていた。
(傭兵稼業か便利屋……かな)
(裏家業は隠した方が無難だな……)
「便利屋……だな……」
「あ、あれだね、ラノベで出てくる冒険者みたいなやつだね! いいな〜。色々世界を見て回れたんでしょ? 憧れだったよ!」
「そこまで良い仕事ではなかったな。街にいた方が雨風がしのげるし、安心して生活が出来る……それにつらくない、肉体的にきつかった記憶しかない……」
「そうなのかぁ……僕も貴族の四女とかだったけど、あっちでの暮らしは不便だったもんね、狭い街での暮らしだったし、娯楽が少なくてつまらなかった記憶が多いよ」
「貴族か……どんな生活か想像できないな」
「江戸時代の侍っぽい感じだったような? 魔法もあったからちょっと違う感じだったかも……あ、同じ世界から来たのかな、僕たち?」
「さぁ、それは分からないな……魔力を持っているのは確かだが……それで、ギフトはなんだった? これは話さない方がいいのか?」
「ああ、そうだね、ギフトは話さない方が良い感じだったね。あ、僕は物体の検出と抽出さ!」
「……今、話さない方が良いって言ってただろうに……」
「ああ、ちょっと待てって……」
海波のツッコミをまるで気にすることもなく、蓮輝が嬉しそうにきゃぴきゃぴとした感じでコンビニに入って、スポーツドリンクを急いで買ってくる。意識して観察をすると、彼はどう見ても女性っぽい動きをしていた。
(前世が女性なのもわかるね……よくよく考えると女の子としゃべり方が一緒かも……)
(そうだな。それに女の動きだな……骨格は男性なのに……変な印象だ……)
「見ててよ……」
蓮輝が魔力を込めると、スポーツドリンクの色が透明な箇所と白い箇所に分かれ……最終的には、白い粉と水とに分離をしていく。
「……すごいな……」
「だよね、手品としては……だよね……この世界だと……なんかあまり役に立たない感じだよね……精製技術もものすごいし、正直、どうやって石油から色々なものを作るのかわからないし……」
海波はこの世界の教科書に載っていた、モノを作る行程などを思い出していたが、アナログな感じの前世とはかけ離れすぎていることを実感していた。
魔法のあるあちらの世界で「燃える水」から服を作る……なんて言っても誰も信じないだろう。
「……ああ、確かに……」
「この力を見込まれて、製薬会社で働いてたんだよね。それなりに良い暮らしをしていたと思うんだけど」
「……その力は、個体でもできるのか?」
「あ、液体だけだった気がするよ……個体になると、検出もしづらいし、そもそも物体が液体みたいに簡単に移動してくれないから……難しかった記憶が……」
「そうか……」
「海水から塩も抽出したことあるけど、魔力コスト考えたら煮炊きした方が良いって結論になってたよ」
「……そうか……」
海波は、蓮輝の能力を使って儲ける手段を考えていたが、あまりイメージが沸かなかった。海波は自分のギフトが、この世界で活用しやすい、稼ぎやすい有用なギフトではなかった事を少々恨んでいた。
「海波君のギフトは……」
「ああ……ちょっと宗麻達に使ってしまって……ばれたらヤバイ事になるかもしれない」
「あ、それじゃ言わない方がいいね……って、僕はちょっとお喋りだからね。あ! 本当にありがとう。やっと君を助けられると思って探していたんだ。そしたら君にも魔力が! これは運命だね!」
「わ、分かった……ってことは戦闘訓練も受けていたとか?」
「基礎的なことは学校で教わったよ。それなりに魔力があるし、この世界の人間だったら……多分……ちょっとだけ強いかも?」
「……学校レベルか……」
海波の前世はガチの殺し合いの世界真っ只中にいたので、貴族の「学校出身者」が人を殺せなかったり、そもそも本気で殴れなかったりで、迷惑をかけられることがしばしばあった事を思い出していた。
「まぁ、その辺は元本職に任せろ」
「あ、うん。よく見ると、海波君はなんかすごい魔力量だし、大丈夫……だよね? やりすぎちゃだめだよ?」
「……わかった……」
「……なんか性格変わった? 随分と男らしくなった……?」
海波は第三者から言われてみて、校舎裏で前世の記憶を取り戻してから随分とふてぶてしくなり、前世の性格がかなり強く出ている気がしてきた。
(前世を思い出したからかな……蓮輝の性格もかなり変わった気がするんだけど、こんなに積極的じゃなかったような?)
(それは俺たちも同じことだろう……俺の性格が強く出ている気がする)
(そうだね……口調もだいぶ変わったね……)
「……向こうの世界の記憶に引っ張られてる感はある」
「やっぱり、僕もそうだからな……あ、他に転生者とは会った? 学校にいたりしたの?」
「いや、おまえが最初だな。最初が蓮輝でよかった……」
「え? なんで?」
「敵対していたら……すでに相手が覚醒していたら……良いように利用されたりして困るだろ?」
「あ、そっか、そこまで考えられなかった……すごいな」
蓮輝は海波よりもかなり偏差値の高い良い学校に行っていたはずだが……やはり生活している世界が優しすぎるせいか、人を疑う事が当たり前の『ゼフ』の世界とはだいぶ違う感覚の様だった。
「それじゃぁ、転生者、探し……あ、利用されたり……殺されたりするのかな……場合によっては」
「ギフトによってはそうだろうな……」
「僕ら……どうなるんだろう?」
「さぁ……わからないな……」
海波は、あまりにも少なすぎる情報で状況を判断できなかったので、とりあえずは情報を集める事を決意した。
「蓮輝、しばらく俺と手を組まないか?」
「もちろん。今の世界、情報戦だものね! それに僕は君に恩を返せていないよ!」
「よし、それじゃ、他の転生者を探しつつ能力を探っていこう。……後は金儲けの手段を考えていこうか」
「わかった! ……え? 金儲け?」
それから二人はしばらく、金儲けの手段を色々と議論をするが、現世での魂と知識、前世との常識と知識の差に苦しみ、良いアイデアが中々生れない感じになっていた。
話をしていると、お互い倫理観が前世に引きずられ、多少壊れている感じなのに気が付く。
現状だと色々と状況があまりにもわからないので金儲けのアイディアは持ち帰り案件となった。
海波は、蓮輝と高校になってから購入したスマホの連絡先を交換して、他の転生者の情報、金もうけのアイディアが沸いたら連絡をすることにしてその場を後にした。
(良かったね……協力者が増えて)
(そうだな、君がしたことが返ってきただけだ)
(ありがとう、そう言われると救われるよ……)
§ § §
海波が家に帰ると、先に帰宅していた母親が神妙な顔をしてリビングの椅子に座って待っていた。
「ただいま。母さん……どうしたの?」
「明日……学校から呼び出しが……あったの。聞き取りをしたいって……海波、あなた……何かした? 大丈夫なの?」
「……どのことで呼び出しされたかはわからないけど……俺が悪いことをしている……って事はないと思う」
「……そう……それなら何の件かしら……」
海波は表情を変えずに話していたので、母親は少しだけ安心をした。
(ば、バレたのかな?)
(確率は低いな……調査中と言ったところだろう)
(それならいいんだけど……)
海波は隠し事をしていることで胸がチクリと痛むのに驚いていた。
(……この痛みは……)
(罪悪感だと思う……君は大分薄いみたいだね……うらやましいよ……)
(……そうだな……これくらいで……と思うのは、向こうの世界の常識のせいか……)
(そうかもね……)
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