第15話 これからのことを考える

海波達四人は場所を変えて、人の往来が少ない帰り道にある公園の休憩所に来ていた。よくある木製のイスとテーブルがある場所に思い思いに座ったりして休んでいた。

街に向かう途中にサングラスにマスク姿だと目立つ……ので持ってきたカバンやリュックに変装道具をしまっていた。


「本当に海君だったのね……」


海波が奇妙な道化の仮面を外し顔を見せると、瑠衣が懐かしむような悲しむような……かなり複雑な表情を見せた。


(頭痛がひどいな……)

(まさか……政所まんどころさんまで……転生者だなんて……)

(君が彼女のことを考える度に激しい頭痛がするんだが……ぐっ……君の思いが強すぎる……)


紅華が何とも言えない空気の中、誰に話しかけるともなく話し始める。


「まさか瑠衣ちゃんまで転生者だったとはねぇ」

「それだと……あなた達、三人とも前世の記憶があるの?」

「そうだけど……あれ? なんかその感じだと、記憶無しとかもいるの?」

「あ、え、ええっと……あなた達の、今の状況が分からないから、あまり話せないかも……」


海波は先ほどから頭痛が酷く、移動の会話の途中で何度も口を挟もうとしたが中々できずにいた。が、これ以上こちらの情報を話すと問題があると思った。


「……どこまで話せる? 先ほどの転生者、ギフト持ちとは仲間では無いんだな?」

「……うん。この町のチンピラ達とは付き合いは無いかな……」


「なるほど、他にも転生者グループはいるのは確定か……」

「え? なんで今のでわかったの?」

「俺たちの様に、昨日目覚めた様な場当たり感が無いからな。あの場にいても驚いてる感じはなかった。それに澱みなくこの世界の人間と魔力の強さを同じにして、いつでも戦える状態になっている。要するに、彼女は記憶と能力に目覚めてかなり時間が経っていると言うことになる」


蓮輝と紅華が感心して「はえーそうなんだぁ」となる中、瑠衣は海波の「話し方」を聞いて少々考え込んでいた。


「……俺……か……。その話ぶりだと、目覚めたのは最近なのね」

「うん! そうだよ! それにしても中学のクラスメートが四人も転生者なんて! すごい確率だね!」

「そうだよねぇ、もしかしたら、あのクラスの全員が転生者だったり?」

「それもすごい……けど、それだと大変な事になりそうだね……」

「……あ、そっか、あいつらもあちらの世界の能力に目覚めたりしたら……面倒だね」


その場の雰囲気が一瞬にして暗くなる。話さなくても「召田宗麻」達の素行など、過去の嫌なことを思い出している感じだった。

瑠衣が、言いにくそうに視線を乱しながら海波に質問をする。


「あ、その……元気だった?」

「元気……だと思いたいが、今ものすごい頭痛が……君を見ていると「白波海波」の記憶がすごい勢いで頭を駆け巡る……」

「……え?」


海波の主語がおかしな発言に、その場にいた全員が思わず彼の方を見る。


「もしかして、記憶を取り戻したら、あっちの人になっちゃったとか?」

「あ、でも僕の事も紅華ちゃんの事も覚えているし……昔の話も普通にできたし……」

「前世の記憶もなんか私たちより思い出している感じだもんね、割とあやふやなんだけど、あたし」

「うーん、そう言われると、僕もそこまでは思い出せてない感じかなぁ……」

「中二病じゃないよねぇ……白波はわりとオタク系じゃなかったと思うし……」

「でも口調はちょっと大人びた感じになってるよね」

「声とイントネーションは同じなんだよねぇ……」


蓮輝と紅華がいろいろと推察する中、不安そうな表情をした瑠衣が海波に質問をする。


「ね、ねぇ、私の……名前はわかる?」

「……ああ、大丈夫……わかる。政所まんどころ……瑠衣……「白波海波」が……ぐっ……頭が……割れそうだ……」


「あ……ちょっと……待って……!」


瑠衣が海波に対して魔力がこもった目で見ると、何かを発見して驚いた表情をする。

「……魔力の流れ……悪いから治すね……」

「すま……ない」


瑠衣が心配そうに、泣きそうな目をしながら海波の後頭部にやさしく手を添える。彼女の手から優しい魔力が流れると、痛みが弱まった海波がほほ笑む……と、同時に瑠衣の方に崩れる様に倒れてしまう。


「ちょ、ちょっと大丈夫?」(なんか昔見た記憶があるんだけど……なんだっけ)

「え、今の? 何? 海波君? え?」


蓮輝と紅華が狼狽して慌てふためいていたが、瑠衣が冷静に海波を抱きかかえ、公園の木の椅子にゆっくりと横に寝かせる。


「……怪我……してたみたい。後頭部に……大きな……」

「え? 普通に動いてたけど……」

「脳内出血??」

「魔力が……上手い事作用して動けてた感じね……」


瑠衣が優しく懐かしむように海波の頭をなでる。


「……もう大丈夫……魔力……流れを整えたから……」

「私には瑠衣ちゃんが大丈夫に見えないんだけど……」

「あ……ちょっと……いろいろ思い出しちゃって……ね」 

「……あ、そっか、そうだったね……」


紅華が本気で心配するくらい、瑠衣の目から涙があふれ、子供が泣きはらした後のような表情をしていた。


その場が重い沈黙に包まれる中、遠くから獣道を道なりにゆっくりと歩いてきた少年が四人に気が付き友好的に近づいてくる。


「あ、あれ? もしかして引呼? き、キシダさんも? 何やってんの?」 

「え? ……あ……重石君! 先週ぶり! どうしたの? 散歩?」

「あ~散歩、散歩。この辺あまり来たこと無いから迷っちゃってね、じ、GPSもなんかわからん事になってるし」

「そうなの? ここ道なりに降りていけば公園の道に出られるよ」


重石が状況を視認できる位置にまで近づいて来ると、蓮輝をジト目で見た後、非難する目で見る。

「なんだ、やっぱりおまえら付き合ってたのか……いないって言ってたくせに。ダブルデートってやつか」

「え? 誰と? 僕は誰とも付き合ってないよ? 友達だよ?」


蓮輝の無邪気な発言に紅華が一瞬にして落ち込んでしまう。重石はその場の様子を見てちょっとした異常にやっと気が付く。

「あ、ご、ご、ごめん。状況を理解してなかった……んで、なんで白波は寝てんの? あれ? 委員長までいるし? あれ? 修羅場?」


重石は後ずさりしながら、関わると面倒になると思い距離をとっていく……

「ご、ご、ご、ごめん。気配りが足りなかった、そ、そ、それじゃ僕はここで……」

「?」


蓮輝は泣きはらした目をした瑠衣と、寝ている海波、ふてくされた感じの紅華を見て重石の行動に納得する。


「まぁ、そう思う感じかなぁ……トラブルの後っぽいもんね……」

「……え? あたしのせい? 違うよね?」

「……ごめん、顔背けておけばよかった……声が気になって……」


またもや気まずい雰囲気が漂う中、海波がゆっくりと目覚める。


「蓮輝……いい対応だった。怪しまれなかったとは思うぞ」


横になって眠っていたと思っていた海波がゆっくりけだるそうに上体を起こす。


「あ、海君……大丈夫?」

「ああ、ありがとう、瑠衣。原因不明の頭痛は無くなった……が、体がものすごいだるいな……」

「……そう……良かった。力の使い過ぎで体が酷使されてるのかもね」

「なるほど、確かに、向こうの感覚で力を使っていたな……「白波海波」の体では持たないか……検証と鍛錬が必要だな……」


海波が立ち上がり、重石が遠くの方で歩いているのを確認しながら話す。


「この場から離れた方が良さそうだな。重石要おもいしかなめだったか……彼が先ほどボーラを投げつけてきた能力者の様だな」

「え?」

「へ? ボーラってなに?」

「あの重りとロープでぐるぐるするやつよ!」

「え? あの紅華ちゃんが吹き飛ばした仮面の人だったの!?」


蓮輝と紅華が素で驚いているのを見て、瑠衣が若干呆れる感じでつぶやく。


「……気が付いてなかったのね……それであの自然な対応……」

「……あ、そうか、普通はこんな公園の端っこなんて歩いてないか……」

「たしかに、あのパーカーは……見覚えが……いや、ごめん。どこにでもあるグレーのパーカーにしか見えなかったかも……」

「確かにどこの会社も似たようなデザインだもんね……」


場の空気が落ち着いてきたところで瑠衣がその場の人間に問いかける。


「ねぇ……一つだけ聞かせて。あなた達の目的はなに?」


「平穏で女の子らしい暮らし?」

「ん~海波君の安全?」

「……平和と……学費を稼ぐ……」


瑠衣の予想していなかった返答に、しばらく固まってしまい、次の言葉が中々出てこない。

「……本気?」


「本気だ」

「……え? 蓮輝の目的はそれなの?」

「え、なんで? 本気だよ?」

「あんたの望みは白波なの??」

「え? 変かい?」

「……変よ」


話がそれていくのを遮るように瑠衣が質問を続ける。


「ちょっと、いい? 例えば……魔力を使った身体強化でプロスポーツ選手になったり、ギフトを使って……普通の人じゃ考えられない手段を使って私利私欲を……犯罪しちゃうとか……とかは考えなかったんだ」


「あ~僕はできないけど、海波君だったらできそうだね。なんかもう凄い事になってるし」

「……金稼ぎの手段として考えはしたが、母親を悲しませたくないしな」

「え? 白波って、マザコン?」

「紅華ちゃん?」

「……あ、ごめん……そうだった……ほんとごめん……」


紅華は白波の家族が巻き込まれた「消失事件」と現在の家庭環境ぼしかていのことを思い出し、からかうのをやめてすぐに謝る。

瑠衣は驚きを隠せない表情で海波を一瞬凝視した後、目を伏せる。


「……そう、その辺は変わらないんだ……」


話がひと段落したところで海波が思いつめる瑠衣に問いかける。


「それで、瑠衣、君の知り合い達……仲間はどう考えているんだ?」

「……うーん、私も良くわからなくなったから……ちょっと持ち帰って仲間と考えるね……悪いようにはしないから。あ、チンピラ達とは繋がりがないし、健全だから大丈夫よ。犯罪に繋がるようなことはしてないから」


もし、海波が瑠衣の性格を知らなかったら、拘束するなり、何かしらの制約、恐喝などをかけていただろうが、「白波海波」の記憶に照らし合わせ、律儀で真面目で人を裏切らない彼女の発言を全面的に信頼していた。


「助かる」

「瑠衣ちゃんが言うなら大丈夫かぁ……あ、私は、能力者じゃないってことで……」

「……え? ずるい! 僕もそんな感じで!」


瑠衣が二人のあっけらかんとした雰囲気に肩の力が抜けていく。


「あ~善処するかな……どちらにしろ巻き込まれてるから無理な気がするけど……」

「そんな……平穏な生活が……転生してまで荒事に巻き込まれるの?」

「そっかぁ無理かぁ、残念だねぇ……もしかしてこれから冒険が始まる感じ?」

「始まったら困るんだけど……」


本気で落ち込む紅華とは逆に蓮輝はこれから新しい体験が始まりそうな予感がしてウキウキしていた。

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