第13話 敵対的転生者と出会う

海波は今いる寂れた廃工場までまっすぐ目指してくる人間がいる事に対して疑問を持っていた。

海波の魔力探知はあちらの世界でも秀でたくらいの距離で探知することが出来ていた。その範囲外からこちらを探す事が出来る……そこから判断すると、何かしらの「ギフト」を使っていることが容易に想像できた。


「尾行されている感じはしなかった……転生者の能力……それともこの世界にも『宝探し』のギフトと同等の何かがあったのか?」

「……怖いこと言わないで……あのギフトがあればどこに隠れても見つかるじゃない? 平穏な日々がなくなる……」

「……『宝探し』のギフトなんて、夢があるね!」

「え、ええ? あんた……ポジティブでいいねぇ……」


紅華が、前世でもレアで便利すぎるギフト『宝探し』の存在に絶望をした表情をする。あまり緊張感のない蓮輝は危機感を覚えず、海波のつけた仮面のデザインに注目していた。


「ねぇ、その仮面付けて戦ったの? 視野が狭そう……見えてるの?」

「問題ない。感じるんだ。空気を」

「映画に出てくるお師匠様的な感じだね!」

「……どんだけ達人なの……あんた……それにその声……別人の声みたい……」

「魔力を使った声変えだな。君たちも使えるはずだ」


海波は二人を先に逃がそうとしたが、集団の中の五人ほどが人間離れをした速度で、海波達の周りを囲む様に距離を詰めてくるので諦めて迎え撃つ形で待ち構える。


先行してきたベネチアンマスクを着けた五人が木や物陰に隠れるようにして逃げ道を塞ぐ様に周囲に立ちはだかると、その後ろの道からゾロゾロと二十人くらいのヤクザ者が遅れて連れ立って歩いてくる。明らかに堅気な人間ではなかった。

(完全に囲まれているね……手前の五人は魔力持ちみたいだけど大丈夫?)

(そうだな。相手のギフトの種類による。だが、魔力量はそこまで高くない様だ……)



ヤクザ者のリーダー格が一人前に歩いて来て海波に話しかける。


「やり合うつもりはない! 交渉に来た!」


「それだけの人数をそろえて交渉とは、お笑い種だな」


ヤクザ者のリーダー格は聞いていた情報通りに、まったく動じないのを見て子分たちに確認をする。あまりにふてぶてしいので若干狼狽していた。


「……お、おい、おまえらをやった声の主か? すごい変な声だぞ?」

「あ、はい、兄貴、多分……そうです、おそらく。仮面も同じですし……背格好も同じだと」

「ふざけた仮面だな……まぁ、いいか」


ヤクザ者のリーダー格は仕切り直して凄みを出して威圧をはじめる。


「おめぇらの能力は知っているつもりだ! 俺たちに協力をしてくれると助かるんだが……どうだ?」


「おまえたちに協力をすると何が起きるというのだ?」


「……ちっ、やりにくいな……」


リーダー格の人間は人数に恐れをなして交渉が順調にいくものと思っていたが、気押されることもなく普通に振る舞われて、かなり調子が狂っていた。


「あー、そうだな。それなりの金と、この街での平穏な暮らし……かな? 君たちの能力を我々の仲間として役立ててくれると大変ありがたいんだが……」

「それで、彼らは今現在、役に立っている感じか……」


海波は周囲を見回し、おそらく転生者、魔力持ちかギフトを使えるであろう人間たちを順に見て力を測っていく。仮面を着けているので顔の識別までは出来なかったが魔力の質に違和感を感じ、ある女性に目を止める。


(あの女性からだな、異質な魔力の波を感じる……)

(メトロノームみたいだね。ソナーなのかな?)

(ソナー……)


「……なるほど、俺たちを探知したのはおまえか……」


ガァァン! ガーン!! ドーーン!!!


海波がこっそりとギフトを発動させて鉄骨の一部を粉に変えてしまう。すると突然廃工場の柱が倒れ、大きな音を立てて一部が崩れていく。その場にいた一同が何事かと思わずそちらの方向に目を向ける。


「え? ギッ!」


海波はその場の人間全員の気がそれた瞬間に高速で移動し、違和感を感じた女性にヘッドロックをして魔力を高め周囲を威圧する。魔力が強い人間以外は気が付く事も無く、未だに音がした方向を気にしている感じだった。


「え?」

「どうやった? 今!?」


「い、い、い、い、いつの間に……?」

「……(ウソ……注意してたのに見えなかった)」


海波の移動速度と、突然の行動に、その場にいた魔力持ち全員がついていけてなかった。ヘッドロックをされた女性もあまりの速さだったため、状況についていけてなかった。


「さて、話を聞こうじゃないか? どうやって探知した?」

「あ、う……い、痛い……ぐるじぃ……離して……」


「く、くそっ! ユキナを離せピエロ!」

「まっ、待て、歩夢! ギフトがわからん!」

「クソッ!(動きが見えなかった……どうする? どうすれば……)」


気が付いた転生者の仲間のうち二人が救出しようと動くが、海波の『瞬間移動』とも思える能力と威圧する膨大な魔力を警戒して動けなくなる。

怒鳴り声を聞いて状況に気が付いたヤクザ達も変化に気が付き目配せをしながら周囲を囲むように位置取りを変えていく。ただ、道化仮面の立ち位置が突然変わっていることに驚き、得体のしれないものへの警戒感からか動きがぎこちない感じだった。


「十秒やろう。別におまえを殺しても……構わないのだが?」


海波の強く攻撃的かつ威圧的な魔力にあてられてユキナは心底恐れをなし、解放されたいがためにすぐに答える。


「わ、わ、私のギフトよ! 探し物の方向がなんとなくわかるギフトなの!」

「なるほど……なんとなく系か……他の四人のギフトはわかるか?」

「わ、わかんないわよっ! 集められただけなんだからっ!」

「おまえの下の名前を呼んでいた様だが?」

「か、彼氏なんだから当たり前でしょ!」

「……そうか」


ユキナの発言に呆れてにじり寄っていた転生者の男性二人が歩みを止める。

関係性を知られてしまい、人質の価値があることを知られた状況に絶望してしなだれてしまう。


「ユキナ……おまえバカだろ……」

「ほんとだな……」


「え? なんで……」


一方のユキナは状況をいまだに飲み込めずにいた。

海波はユキナが理解してくれないと、今後の立ち回りが計画通りに進まないので簡単に回答する。


「おまえに人質としての価値が生まれたということだ」

「え? あ……そうか。ごめんなさい……」


ユキナを救いたい転生者の二人は海波から距離をとって後ずさりしていく。


「おい、おまえら、なんで戻ってくるんだ……」

「無理っすよ、局長さん。俺らじゃ敵わない。借金の返済……また今度で……」

「聞いていた話よりかなり強い感じです。魔力強化だけじゃなくて、ギフトももしかしたら……超レアの『瞬間移動』かもしれない」


話し込んでいる最中にもヤクザ達が少しづつ距離をつめてくる。海波はそれを嫌って転生者達に忠告を出す。


「わかったのなら下がれ、100メートルくらい離れれば解放する」

「……わかった」


すんなりと言う事を聞いてしまった転生者に、ヤクザの局長は慌てて止めようとする。


「ちょっと待て、借金は……契約は……おい、ちょっと……」

「別件で返させます。これは僕らじゃなくてもっと上級の「ギフト」持ちに頼んでください」

「すいません。あいつにちょっかい出さないほうがいいと思います……俺たちにとってはユキナの方が大事ですから……」


二人は後ろ髪をひかれながらも距離をとる。いつの間にかもう一人の転生者もその場から姿を消し、一人残された転生者はうろたえながら局長に質問をする。


「き、き、局長さん、ぼ、ぼぼ、僕はどうすれば……」

「……能力者は同数以上だったら勝てる……だったよな……あっちの弱そうな二人も能力者なのか?」

「……お、お、おそらくそうかと……」

「……おまえの能力なら捉えられるよな?」

「た、た、多分……」

「やれ、借金を多めに消しておいてやる」

「……わ、わ、わかりました」



目の前で繰り広げられる、現実離れした映画の様な成り行きを見守っていた紅華が蓮輝に耳打ちをする。


「ねぇ、ねぇ、なんか白波の方が悪役じやない? 人質とかって……」

「そうだね。なんか過激だね! カッコいい!」

「あんた……そうだったね。あんたのヒーロだった……」


二人の会話を聞いていたヤクザ幹部達が二人の存在を思い出し、ジリジリと二人に近づいていく。


「紅華、蓮輝を守れ!」

「ああ! もうっ!!」


海波の声に反応してヤクザ幹部達と、転生者の一人が一斉に紅華が蓮輝の方に襲い掛かかっていった。

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