第10話 ヤクザを返り討ちにしてみた
蓮輝と紅華は建物の陰に隠れて様子をうかがっていた。
「なにあれ……どう見てもやばいやつじゃない??」
「宗麻君達って、なんかやばい先輩がいるから……手出し出来ないって話だったからね……でもあれくらいなら、今の僕らでもなんとかなりそうだね」
「あんた……強くなったのね……姉さんはうれしいよ」
「……いつ姉さんになったの? 僕の方が誕生日早いよ?」
「よしよし……」
「!!!」
二人が陰で漫才をしている間に海波を遠巻きに取り囲むように、10人くらいのガラの悪い本職っぽい人間たちが空き地に展開していく。各々が鉄パイプや金属バット、メリケンサックを持ち、中には銃をしまっている懐に手を突っ込んでいる人間もいた。
その中に以前、海波がぶちのめした顔がちらほらと見受けられた。
もちろん顔はきれいだったが……
(すごい人数……やれるの?)
(問題ない。魔力持ちがいないな……てっきり連れてくるかと持ってたが……)
(そんなのに囲まれたら危険でしょ……)
体格が一番大きく、強面のヤクザがゆっくりと海波の方へと歩みだそうとする。が、海波を足元からまんべんなく眺めると不安になったのか、この前ぶちのめしたヤクザに話しかける。
「茂原、こいつ……なんだよな? 弱っちそうなんだが……」
「大網さん、そいつっす、見た目なんて信じちゃだめっす、横芝もやられたんですから……」
「あいつ弱かったんか? あのなりで? はぁ、こんなんにやられるなんてな……」
今回のリーダーっぽい相手を見定めて海波は普段通りの声音で質問をする。
「聞いておくが……何の用だ?」
「……ほんとに肝座ってやがるな……この人数を前に。なに、ちょっとお灸をすえに来たんだよ。可愛い舎弟たちを可愛がってくれたようで……なっ!」
大網が海波にゆっくりと近づきながら持っていた鉄パイプを派手な予備動作をしながらフルスイングする。常人ではよけられないくらいの速度だったが、海波はきれいに鉄パイプを素手でボールをキャッチする様に優しく受け止める。
「「「え?」」」
その場に集まった人間が冗談のような光景に唖然としてしまう。茂原はほら見ろといった表情になりながら恐怖で逃げ腰になる。
「ああ、やっぱりやめておいた方が良いって言ったじゃないですか!」
「……ちょ、ちょっと待って……あれ、あれ?」
大網が鉄パイプを取り戻そうとするがビクともしない。体格や迫力はどうみても大網の方があるのにまったく動かないという不思議な絵面になっていた。
「そうだな……お灸をすえる……とやらをやる必要があるようだな」
「な、な、あれ、ちょっと?? ……グホッ!!」
海波は手慣れた感じで大網に腹パンを決めると、流れるように唖然として動けない取り巻きに腹パンを次々と決めていく。
「う、動くな! あれ、消えた? オグッ!」
「な、なんだ? どうなってグフッ」
「ちょ、聞いてな、ゴフゥ!!」
「ま、まって……ゲフッ!!」
海波は腹パンを決めながらも銃だけを警戒していた。銃を持っている人間が銃を構えた瞬間に海波は常人には視認するのが難しい速度で動き、腹パンを決める。
さすがに化け物じみた強さの海波を見て、残った人間が逃げ出そうとするが、海波は見逃さずに片っ端から強烈な腹パンを決めて意識を刈り取っていく。
(ちょっとかわいそうなんだけど……)
(基本的に逃がすというのは悪手だ。恐怖を植え付けなければいけない)
(……そういうものなの?)
茂原は逃げる事もせずに、仲間がのされていくのを絶望した感じで眺めていた。
「だから言ったのに……ああ、俺も……そうですよね……オフッ!!」
茂原からは戦意がまったく感じられなかったが、海波は容赦なく腹パンを彼に決めていた。
§ § §
「さてっと……戦利品っと……」
海波は少し楽しそうに本職たちの懐をまさぐり戦利品を回収していく。途中意識を取り戻し逃げ出そうとした人間には追加で腹パンを追加していく。
「やっぱり現金が少ないな……」
「戦利品」を手にした海波は内心がっくりとうなだれる。
(そりゃ……前回、全回収して警察に投げ込んだから……)
(そうか、仲間内で情報を共有して……はぁ、本当に殺せないと面倒だな……同じパターンが使えないとは……)
(……考え方が本当に物騒だね……)
建物の陰から出ることなく様子を見ていた紅華は、ヤクザ達と同様に呆然としていた。
「……ねぇ、蓮輝……あいつが一番やばくね?」
「そうなの? 便利屋ってあんな感じじゃないの? かっこいいよね。映画の主人公みたいで!」
「え? あれ……もしかして来た世界が別なのかな……あんなに強いやつは……いなかったような……」
(あれ、あたし、もしかして詰んだ? 白波から目をつけられたら終わりじゃ……)
紅華は海波の予想を大幅に上回る規格外の強さに、命と貞操の危険を感じ始めていた。
§ § §
戦利品の回収を終えると、海波は二人の元に駆け足でやってきて、本職たちの目につかないように誘導しようとスマホに地図のナビを出して帰りの道順を説明する。
「それでは、蓮輝と紅華は見つからない様にこのルートで帰ってくれ」
「わかった……随分ジグザグなんだね……ちょっと写真取らせて……それにしても、すごい強いんだね……びっくりしたよ」
「……あんた絶対堅気の人間じゃないね……どうするのよ、ヤクザに手出したら終わりじゃない!」
紅華の言葉に、海波はきょとんとしてしまう。
「? 大丈夫だ。問題ない。こう言う盗賊団の相手は慣れっこだ」
「……え? 盗賊団?」
「……え? あれ? 現代だとヤクザなのかな……」
「……違うような……」
(……僕も違うと思うよ……)
「……違ったか……似たようなものだと……」
何か言いたそうな紅華だったが、うめき声をあげながら意識を取り戻してきているヤクザ達を見て、蓮輝の服の裾を引っ張る。
「あ、それじゃ僕らは行くね。あれ? 海波君はなんかするの?」
「ああ、ちょっと野暮用だ。気を付けていってくれ。姿を見られていないから大丈夫だと思うが……」
「それじゃ! 蓮輝! 行くよ!」
ヤバさを感じて慌ててその場を立ち去る紅華だったが、もっと話をしたかった蓮輝が名残惜しそうに立ち止まっているのを強引に引っ張っていく。
(さてと、少々待つか……)
(何をする気なの?)
(獲物が巣に帰るのを利用しない手はないだろう?)
(……え? 本気?)
海波はビルの屋上まで猿の様に登っていき、ガラの悪い本職たちが目を覚ますのを待っていた。その間に海波はドン・キホーテとダイソーで安くそろえた変装道具に着替える。
(変装道具も安くそろえられるなんて……素晴らしい世界だな)
(あちらの世界じゃ……手に入れるの大変なの?)
(ああ、そうだな……こんな感じだ……)
「白波海波」は前世の「ゼフ」の記憶を見せてくれる。そこには潜入したい場所の兵士を気絶させ、みぐるみをはいでいる映像が流れてくる。
(……追いはぎじゃないか……)
(あちらの世界では服を作るのに金と時間がかかるからな……体格の同じくらいの人間から奪うのが一番だった。匂いもついてくるから一石二鳥だったな)
(うは……)
しばらくしてからヤクザたちは目を覚ますと、まだ目を覚まさない仲間を起こし、傷の具合などを確かめた後、痛む体をお互いが支え、引きずるように事務所の方に戻っていった。
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