第3話 部屋に押し入ってみた
プリントされるのを待っている間に目線だけで何気なく周りを見回してみる。
(それにしても平和な街だな……あちらの世界とは大違いだ)
(そうだね……君の記憶に比べると……)
現像された写真が人目や監視カメラに顔が映らないように、彼なりに行動に足が付かないように気を配って行動しており、転生前と転生後の知識をフル動員していた。
(現像している身としてあれだが……少々「えぐい」写真だなこれは……)
(……さすがに……ちょっとひどいと思うんだけど……)
(君の母親がやられたんだろう? 目には目をだ……目はギリギリ切ってあるから大丈夫だろう?)
(いや、それでも写っちゃいけないところもあるし……)
海波はバッグの中にあったマジックペンで写っちゃいけない場所を塗りつぶす。
(それじゃ……これでどうだ?)
(それな、まぁ……いいんじゃないかな……)
海波は心の中の「自分の声」同士で会話をするのと、会話をするたびに引き起こされる頭痛に慣れてきていた。
それから海波が不良生徒達から回収した身分証明書の住所をたよりに、召田宗麻の自宅へとたどり着く。
前世での「ゼフ」の驚異的な魔力による身体強化を使って、監視カメラの間を縫う様に移動してきたので、まるでアニメのニンジャの様に家の隙間や屋根の上を走り抜けていた。
前世の習慣のせいで足音も殆ど聞こえることもなく、家の外を散歩している猫が気付かずにスルーするほどだった。
(それにしても……町中監視カメラだらけとは……足が付きやすい世界だ……)
海波は監視カメラが空中に向いている場合がほぼ無いことを知っていたので、あえて建物の上を選んで移動をしていた。
(僕は移動速度でびっくりしたよ……こんな体験ができるなんて……あ、夕暮れ時でこの速度だったら、おそらく監視カメラには映らないよ)
(あ……そうか。カメラは移動が速いと……ぼやけて映らなかったんだっけか……)
(夜はボタンを押してから少し待たないと写真取れないからね)
海波はただ人目を避けて全力を持って走り抜ければ良かったことに気付いて若干後悔した。
海波は召田宗麻の近くの家の外から彼の部屋であろう二階の部屋を覗いてみる。一般的な中流家庭の高校生の部屋らしい部屋だった。
(監視は……)
(現代の普通の家だから警備員……衛兵なんていないよ。あちらの貴族の屋敷じゃないんだから……)
(まぁ、そうだな……いるわけないか……)
(監視カメラと警報だけ気を付ければいいけど、本気でやるの?)
(もちろんだ……たしか……警報は窓を開けなければ大丈夫か?)
(防犯センサーがついているかもしれないけど、人がいるから今は切れていると思う)
(……どう言う仕組みかさっぱりわからないな……)
(僕もよく知らないよ……)
海波は気配を消して部屋の外壁まで近づくと、玄関の監視カメラの場所を確認し、二階のベランダから音もなく侵入する。鍵が締まっているのを確認すると、どうやって侵入するか思案をする。
(まぁいい、この方法で……音が出る方がだめだな)
(ねぇ、ゼフ。君の能力って、座標指定なの? それとも触れたものだけなの?)
(何を言っている? ……ああ、座標指定……そう言う事か……)
一階からは召田宗麻の母親の気配がしていたので音が出ないように、窓のカギを『物質を粉に変える能力』で粉に変えていく。
(よし)
(やっぱりできたね)
(ガラスを破壊せずに「魔力」が貫通できたな……離れた場所も位置指定できたのか……知らなかった……「白波海波」、君の知識のおかげだな……)
(いえいえ……記憶と思考を共有できるって便利だね……って、犯罪の片棒担いでいるから複雑な気分だよ……)
海波は前世の盗賊時代では手で触った場所から力を発して粉にしてきたが、現世の知識と融合させたことにより、自分の能力が離れた場所の「座標指定」でも発動することを実践しながら確認していた。
(これを知ってればあの時の依頼も楽にできたのに……くそっ……)
彼は学校も娯楽もない前世の環境、無学すぎた前世のゼフの頭では発想できなかった事を悔いていた。
海波は音もなく鍵の無くなったガラスのドアを開けると、土足のまま部屋に入り、部屋全体を見回す。
そうすると、またもや海波に強い頭痛が起きて心音が高まる。彼の頭に自分の声が強く響き渡る。
(あぁ! やっぱり駄目だ! 入っちゃだめだ! 犯罪だ! 泥棒だ! 不法侵入になる! 人の家に勝手に入っては駄目だ!)
(……なぜ胸の鼓動が早まるんだ……そうか、「白波海波」の感情が……入り混じっているのか……不思議な感覚だ……)
海波は勝手に高鳴る心臓に戸惑い立ち止まる。精神統一をして一瞬にして心を整え、少し考え直す……自分の記憶と人格、「白波海波」に対して開き直った返答をする。
(あれだ、バレなければ良いんだろ? 君もこいつのことを憎んでいたではないか……)
(……そうだけど……)
(納得してくれたようだな……)
海波の頭痛と感情の起伏が収まるのをみて作業を再開する。データが保存されていそうなPC、タブレット端末などを発見すると、躊躇なく『物質を粉に変える能力』を使って粉に変えていく。座標指定の練習もかねて景気よく粉に変えていった。
ふと、土足のまま部屋に入ったので、きれいなフローリングの床に自分の足跡がくっきりとついている事に気が付く。
(あ……目立つな……しくじったか?)
(こちらの世界だと土足から……靴の泥とか足跡からなんか判定できたと思うよ?)
(なんでこんなことを知っているんだ? 一般人ではなかったのか?)
(テレビの犯罪ドキュメンタリーとか、あとは名探偵のアニメとかかな……)
(ああ、そうかテレビ……娯楽の詰まった映像からか……ああ、覚えている……それにしても不思議な感覚だ。経験していないのに記憶があるとは……)
海波は、現代の知識と前世の知識を動員して、「白波海波」のためにも証拠を残さない方法を考えていた……が、そこまで時間をかけられないと判断し、開き直って直ぐに行動を始めることにした。
(なぜか知らないが、魔力がものすごい多い体みたいだな……やってしまうか)
(え? なにを? え? まさか!)
海波は体の魔力を高め、ギフト『物質を粉に変える』を使って窓ガラスを全部粉にして、部屋の通気性を良くしていく。
フローリングをソーマの枕で拭いて足跡を消しながら後ろに戻り、電子機器などが入っていそうな部屋の家具などをまとめて粉に変えていく……
(すごいな、まだまだ魔力残っている……この世界の人間は魔力が高いのか?)
(あ……そんな……こんな事が……)
海波は自分の「現在の体」の状態を確認して感動していた。「白波海波」は無慈悲に粉になっていく部屋を見て唖然としていた。
海波は取られた金を回収すべく、金目の物が無いかいろいろ確認しながら作業をしていたが、ほとんど現金などが無い事、電子機器などは売買で足が付くことを思い出していた。
(ネットオークションとやらに流すとしても足が付くんだっけ……ああ、面倒だ!)
諸々を考慮して慎重に作業をしていたが途中で面倒に思い、途中から部屋の家具全部を粉に変えていた。
(……めちゃくちゃだよ……)
(そうか? 楽しい気分になっているのを感じるが……)
(……君は意地悪な人間だね)
(よく言われる)
海波は元何かの製品だった粉の山が大量に存在する部屋を見て満足げにうなずく。
すると両手を合わせて魔力を手の間に集中させる。
(なにをするの?!)
(粉がこのままだとバレるからな……まとめて吹き飛ばす)
海波が何やらこの世界でない言葉を紡ぐと、魔力から強い風が巻き起こり、部屋の外へと大量の粉が吹き飛んでいく。
(すごい! 風の魔法!!)
(ふぅ……思ったより威力が強いな……この世界でも単純な魔法も使えるのが確認できたが……)
(何か問題があるの?)
(そうだな……いろいろと違和感を感じた。後で検証だな……)
海波は周りを見回し、部屋に物質を粉に変えた跡が残っていないのを確認する。
(フム、これくらいでいいか……さて、あと三軒か、あいつ等が帰る前に手早く回らないとな……あ、これを置くの忘れてた……)
(そこまでするの……)
(時間稼ぎだ。警察に連絡を入れるのを躊躇させればいい)
(警察に話されたら終わりじゃないの?)
(撮られた状況を話すことになったらどうなる? それにこの世界の常識で、部屋に物が無くなって粉になっている……と言ったらどう思うんだ?)
(……夢か……薬でもやってるんじゃないかと思われるね……)
海波は先ほど撮影した、ソーマの裸の写真を部屋の真ん中に置いて部屋を後にした。
もちろん写真の裏に「次はおまえだ」と。前世でよく書いていた、受け取り側でいろいろ解釈が取れるメッセージを添えて置いた。これでしばらく不良学生達の動きが封じられるだろうと海波は考えていた。
海波は次のターゲットへと、街の家の屋根を高速で飛び回って移動していった。
召田宗麻の部屋では風の魔法で吹き飛ばされずに残った粉が外から自然の風が吹くたびに舞い散っていた。
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