第2話 花ノいぶき

 「花ノいぶき」のサムネイルをタップすると、すぐに配信者の姿が見えた。

 そこには、ピンク色の髪に黒い帽子、そして脇に猫を抱えた女の子の姿がいた。


「……かわいい……」


 それが俺の第一印象だった。声も優しく、聞いていて癒されるような声だった。


『えーと、◯◯さん、いらっしゃいませ。たくさんお話ししたい、了解だよ。いっぱいお話ししようね』


 とても気さくな挨拶をしてくれた。そんなふうに声をかけられるとは思わずどうコメントしようか俺は悩んだ。


「はじめまして……初見です……っと」


 結局当たり障りのない挨拶をコメントするに留まった。


『初めての方だし、自己紹介させてもらうね』


 自己紹介?そんなものがあるのか。

 先程見かけた配信と違い、なぜか俺は配信をすぐ閉じることなく、そのまま配信を見続けていた。


『はじめまして!uN.所属、ミヌエットの見習い魔法使い、花ノいぶきです♪ よろしくね!』


 …なるほど、こんなふうにそれぞれ自己紹介があるのか。そして、uN.と言ったが、そんな事務所があることにも驚きだった。


「お声かわいいですね……っと」


 本音だった。色々と声を作って配信をしているVtuberを見たことはあったが、見ている限り声を作っている感じはない。


『え〜、ほんと? ありがとう!』


 アバターの動きが激しくなる。

 なぜかそんな姿も可愛いと感じた。

 正直、慣れているような気もして初配信と感じなかった。


「ん、ギフトマークあるけど、これはYouTubeでいうスパチャみたいなもんか…?」


 とりあえず適当に開いてみると、いろんな絵文字と共にポイントが表示される。

 初心者ミッションだかのおかげで少しポイントがあった。


「試しに押してみるか……」


 そう思った俺は、『可愛い』と書かれたスタンプを押してみる。すると、すぐに配信画面に選んだスタンプが表示された。


『わー、可愛い! ありがとう!』


 画面上のアバターの子がそんな返事と共にスクショを撮る音が聞こえた。


 すごく親近感が湧く。なんとなく、YouTubeの有名Vtuberの方と比べてとても絡みやすい気がした。


「……花ノいぶきさん、か……。よし……」


 今思えば、この時点で俺はこの『花ノいぶき』をもう推していたのかもしれない。無意識に画面左上のフォローボタンを押していた。途端にコメント欄に現れる「◯◯がライバーをフォローしました」という文字。そして、他のリスナーさんから「ないふぉろ!」というコメントが見える。


『◯◯さん、フォローありがとう! いいの? そんなフォローしてもらって…』


 どこまで謙虚なんだろう。フォローすることがそんなにすごいことなのだろうか。

 正直俺はフォローという文字を押すことがそんなに重要なことだとは思っていなかった。


 ……その後、フォローした配信の中でもこまめにいくのはここだけになるのはのちの話である。



 俺は、この配信に居心地の良さを感じて、その日最後までのんびりと配信を聴きながら楽しんだ。


2話 完

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