前を向いた君と立ち止まる私

能登山君に会ってから能登山君の事が頭から離れない。


「虹七?ぼーっとしてるけど大丈夫?」

「え、あ、うん!ごめんね…。」

「体調悪いんじゃないの?保健室行ってきな?」


心配そうな顔をして私を席から立たす。


「え、大丈夫だよっ!」

「うちから先生に言っとくから。今体調崩して文化祭出れなくなったら大変でしょ?」


ほらほら。と顔を覗き込んでくる。……じゃあ、ちょっとだけ休もうかな…?今日、優しいな…。


「ありがとう。それじゃ、ちょっとだけ休んでこようかな。」

「ん、そうしなー。」


私はみんなにありがとうと言って教室のドアを閉めた。正直助かった。みんなと居るの今疲れるからなー。


「あはは!やっぱ美海もそう思う!?」

「分かるわー。」


ん?みんなの声…。私のいる時はこんな感じじゃないのに。


「虹七ってさいい子ちゃんだよねwww」

「それなー。うちらの顔色伺っててほんとウケるwww」

「でもそのお陰で何でもしてくれるからここに置いてるんだけどねwww」


……………は、はは。やっぱりか。ドアから離れて壁にもたれかかる。なんとなく私はここにいるべきでは無いって感じてた。けどそう思いたくなかった。みんなの中にいてちゃんと人として生きてて、クラスのみんなから話しかけられて、普通に過ごしたかった。


「……保健室行こ…。」


私は無我夢中で階段を駆け下りた。









「失礼します。」

「あら、どうし……ベッド空いてるわ。少し休んでいきなさい。」

「はい…あ、りがとうございます。」


ボロボロと涙を流している私を見て優しくベッドに誘導してくれる。ありがたいな。布団をかぶるとシャっとカーテンを閉めてくれた。


「……はぁっ…。もうやだ……。」


ポタポタと枕に雫が落ちる。でもまだ大丈夫。今日の事聞かなかったことにすれば私は1人にはならない。大丈夫。まだ、大丈夫。普通でいられる。











「…………ん。」

「…今井先輩。」


目が覚めたら能登山君がいた。…なんでここにいるの?寝起きで頭が回らない。


「俺、よく来るんです。保健室。結構疲れるからさ…。」


ああ、そういう事…。それは分かったんだけど…。


「なんで、泣いてるの?」

「え、あ………ほんとだ。ははっ。」


袖で涙をぬぐう能登山君。そしてこう言った。


「いつも通り保健室に行ったら先輩が寝てて、なんか…今にも先輩が消えてしまいそうだったから手を握ってしまったんです。そしたら、先輩の考えてた事が全部俺の中に入ってきて…。ああ、先輩は俺と同じだったんだなって…。」


勝手に触れてすみません。と謝った。別にいい、それは。でも同じってなんだろう?私と能登山君に共通点なんかないよ?自分の好きな格好して、私みたいなやつにも優しくしてくれて、全然私と違う。


「そんな自分を卑下する言い方しないでください。俺、昔は先輩と同じだったんですよ。…………普通でいなきゃって。」

「え…。」

「みんなが言う普通ってなんだろうって。今流行りの服を着る事?友達が絶対いる事?成績は3~4で、運動はそこそこ出来る。校則はちょっと破って先生に怒られて、馬鹿やってるのが普通?当初の俺はそんな事ばっか考えてましたよ。あれ、でもこんな能力持ってる時点で普通とか無理じゃね?って思ったらなんか馬鹿らしくなっちゃって…。」


こんなになっちゃいました。と服をつまみながら言う。


「普通から外れる事って難しいですよね。そう簡単に出来る事じゃない。それって誰かから批判されたり、世間から認められなくなったりするんですから。怖いですよね、本当。みんな違って、みんないいってそう簡単に言ってんじゃねーよって俺は思います。」


………そっか。能登山君も一緒だったんだ。普通でいたいって。能登山君と繋いでる手に少し力を込める。


「そろそろ文化祭準備の時間ですね。先輩はもう帰ります?保健室居たって事は体調悪かったんですよね?」


と心配そうに顔をのぞきこんでくる。


「いや、行くよ。なんかありがとね。気、使ってくれて。」

「いや、俺はそんなんじゃ…。」

「…能登山君は優しいね。」


私もこんな人になりたいなぁ…。自分の好きな様に人生を歩みたい。そう思いながら保健室をあとにした。











「あ、虹七。おかえりー。」

「大丈夫?体調。」

「うん、もう平気。手伝うね。」


私達のクラスの出し物は演劇だ。もちろん私は出演しない。裏の方で音響をする。今日は位置の確認やリハーサルで体育館にいる。


「あ、今井さん!ちょうどいい位置にいる!ちょっと照明の確認したいから立ってくれる?」


袖の方から照明係の人が私に声をかける。まぁ、今仕事もないしいっか。分かった。と返事をして位置に着く。この学校は少し変わっていて舞台に照明まで設置されている。そして運良く照明に詳しい人がいたので照明を使わせてもらうことになった。


「すみませーん!先輩達ー!!倉庫の方から部品取ってっていいですかー!?」


ぼーっと体育館の入口を見ていたら1年生が入ってきた。


「大丈夫だよー!」


うちのクラスの誰かが返事をする。あれ、能登山君?私に気づいた能登山君が小さく手を振る。私もそれに応えるように小さく振り返した。


「虹七?今誰に手、振ったの?」

「え!?まさか彼氏!?うっそ!!」

「違う違う。後輩だよ。」


なぁんだー。そうだよねー。と笑って言われた。そうだよね、か。うん、そうだよね、私に彼氏なんか……。と考えていたら急に強風がふいた。


「きゃあー!!」

「あー!!プリントォォ!!」


窓を開けていたのでプリントが宙を舞う。そしてその1枚が私の足元に滑り込んできた。避けようとしたところまた風が吹いてバランスを崩した。


「っきゃ……!?」


その拍子にプリントで滑って転けてしまった。最悪…。膝が痛い。


「わぷっ……!」


おまけに頭の上に布まで降ってきた。なんなの……。


「虹七…めっちゃ悲劇のヒロインみたいwww」

「やばー!wwww」


と私を指さして笑った。

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