普通からはみ出た私達

星空夢叶

普通でいたい私と普通じゃない君

"普通"とはなにか。私はどれだけ考えただろうか。友達がいて、彼氏がいて、両親は2人で仲が良くて、成績は3~4で、運動もそれなりに出来て…。それが世界が決めた普通なのだろうか。


虹七ななー。何してるの?行くよー。」

「あ、はーい。」


私は今日も普通にとらわれて生きていく。





「それで山センがさ?」

「あはは!やばすぎ!」

「虹七?聞いてる?」

「うん。聞いてるよ。カツラがズレてたんだよねwwww」


そう私が言うとまた笑い出すみんな。これって面白いことなのかな?え、なんか申し訳ないんだけど?そんな事言えるわけない。言ったらどんな事が待ち受けているか分からないし、私は"可哀想な子"だと思われたくない。


「今日放課後プリ撮りいくっしょ?」

「あ、やば、かな君持ってくるの忘れた…。」

「私持ってるよ。どーぞ。」

「がち!?虹七まじ神ー!!」


こうやって放課後プリに行くのも、男性アイドルグループに推しがいるのも全部普通なのかな?


「石垣さん達ー!!文化祭の準備手伝ってー。」


実行委員の声が響く。あ、今日からか、文化祭の準備。でも今日プリ行くって言ってたしな…。


「えー、めんどくさ。どする?」

「え、今日はプリ撮りいきたい。」

「え、だよねー。虹七ー、今日準備出てくんない?」


……え?私だけ?でもいつもそうか。


「ごめん!今日うちら絶対プリ撮りたいし、虹七が出てくれたらみんな安心するしさ?」


私だけ仲間はずれもいつも通り。


「今度一緒に行こーよ。ね?今日だけおねがーい。」

「ほら、またいいんちょに呼ばれたらめんどいから行ってきて。」

「え、あっ…。」


私の背中をおしてそのまま出ていってしまった。


「あ、今井さん。あれ、花里さん達は?」

「なんか用事あるみたいで…。私がやるね。」

「ほんと?もう今井さんはあの3人とは違うね。」


ありがとう。とお礼を言って作業に戻った委員長。違う………。それはあの3人の普通になれてないってこと?いや、違う。そうじゃない。大丈夫、私は今日もちゃんと友達だったはず。


「私、必要な材料先生に貰ってくるね。」


そう言って教室を出た。さっきの考えをかき消すように早足に階段をおりて、職員室まで行く。


「あ、先生。材料を貰いに…。」

「おお、そうか。そこに置いてあるものなら使って大丈夫だからな。持ってけ。」

「ありがとうございます。」


………こんだけあれば大丈夫かな?私は両手にダンボールを抱えて階段を上がる。…どうしよう。下があんまり見えない。こけそう。それはフラグだったらしい。私は階段から足を踏み外した。


「っ……!!」


あ、やば。死ぬ………。でももういいか。スローモーションになる視界が天井をとらえながら頭の中では冷静にそう考えていた。別に私がいなくなったって…。


「っぶね!!!」

「きゃ……っ。」


私の体に何かがぶつかる感覚がした。地面?じゃない……。


「大丈夫ですか!?」

「……………………あ、れ。」


痛くない……。ってか声?私はその声がする方向へと目を向けた。そこには両耳に数個ピアスを開けていて、金髪に髪を染めている男子がいた。


「どこか痛いですか?」

「え、あ、いえ。あ、ありがとうございます…。」


この人が落ちた私を受け止めてくれたのか…。ぺこっとお辞儀をしてダンボールを集める。


「…手伝います。」

「あ、ありがとうございます。」


見かけによらず優しい…。ピアス片耳3つ開けてるし、金髪だからてっきりヤンキーとかかと…。


「………なんでですか?」

「はい?」


金髪男子が口を開いた。


「なんで、死のうと思ったんですか?」

「……は、…?」


ばっと顔を上げる。金髪男子はじっと私の顔を見る。瞳に私の顔がうつって思わず顔を背けた。


「本当に足を滑らせただけですか?」

「え、はい。本当です。」


どうしよう…死のうと思ってしまった、なんて言えない。あ、足を滑らせたのは本当だし…。


「俺、1年の能登山遥緋のとやまはるひです。」

「あ、えと、2年の今井虹七です。あの、ありがとうございました。手とか痛めてないですか?あの、慰謝料……。」

「先輩、俺の事ヤンキーか何かだと思ってます?金取りませんから。別にどこも痛めてないですし。」


ほっと息をはく。ヤンキーじゃなくて良かった。あ!もちろん怪我がなくて良かったのもあるけど…。


「はは!先輩、心の中忙しいですね。色んな情報流れてくる。」

「へ、え?心?」


能登山君が私の視線に合わせてしゃがむ。


「ヤンキーじゃなくてほっとした?怪我なくてよかった?」

「え!?な、なななんで………。」

「俺が先輩と手を繋いでるからだよ。」


ん……?手?私は自分の手に目線を落とす。


「ひえっ……。」


手が握られてる!!!あぇ…男の人と手、繋いだことな……。


「先輩…ふふ。また、心の中……渋滞しすぎ……ははは!」


とまた笑い出す能登山君。っていうか心の中って?なんで手繋いでるんだろ?自然すぎて気づかなかった。っていうか恥ずかしいから離して欲しい…。


「おぉ、おぉ。いっぱいですねー。先輩が思ってる事。」

「へ?あ、え?あ、もしかして手繋いでると心が読めたり……?」

「するんですね。これが。」


え、どゆこと、ここって現実だよね?ファンタジーの世界にいたっけ?いやいや、でも実際私の思ってること筒抜けだし、死のうと思ってしまった事だって…。


「現実ですよ、先輩。俺はなんか昔から体のどこかが触れた誰かの心の中を読み取ることが出来るんです。」


別にいらないんですけどね。と小さい声で呟いた。………いらない、か。私もそんな能力いらないかも。だって体のどこかが触れてしまったら聞きたくないことまで分かるんだよね。そんなの……。


「…つらすぎる。」

「…………先輩は優しいんですね。」


能登山君が切なそうに笑う。なんでそんなに悲しそうなの…?分からない。ん?ってかまだ手繋いでるんだった。私の思ってる事伝わってしまった?でもいっか。会話しなくてもいいし。もう、めんどくさい事に巻き込まれたくない。会話したくない。誰かといる時は普通でいないといけないから。


「…普通?」

「え、あ…そっか。伝わっちゃうんだ…。ごめんね、私めっちゃ考えちゃうからさ。疲れるよね。助けてくれてありがと。もう行くね。」


能登山君の手を優しくはらって階段を駆け上がった。能登山君は私と違う。普通じゃない。




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