第4話 ウイスキーボンボン 〜高2の冬〜 序

初めての梅酒を飲んで中3の冬にタイムスリップして、数週間が経った。

今では、「変えたかった過去を変えれた!」なんて能天気な気持ちはすっかりおさまって、アルコールにびっくりした身体が、刹那の幻覚を起こしたのだと思うようになった。


しばらくはお酒に関わる機会もなく、冬休みを終えて高校生活を慌ただしく過ごしていた中、2月も中旬を迎えた。この頃から私のクラスの女子は忙しくなる。

バレンタインデーの準備だ。


女子は手作りお菓子を用意することになり、私もそれに沿ったお菓子を考えるが、結局毎年プレーンとココアのクッキーになる。

前々日にレシピを調べて、材料を揃えて、前日の放課後生地を作って、一晩寝かせて。

当日早起きして型抜きして、焼いて、クラスの女子の人数分と、クラスは違うけど部活が同じ女子の人数分に等分して、100均の可愛い袋に入れて。

余った分は朝食のデザートに。甘い匂いに耐えてきた分、本当に美味しかった。


やっとこさ登校したら、思わぬ誤算。一部の男子がお菓子を持ってきている。今年のホワイトデーが休日だと気づいた時にはもう遅い。クッキーは足りなかった。男子からお菓子を貰ったら、その分今日もクッキーを作らなければならない。


断ろうと思った。


ところが、その男子達の持ってきたお菓子が魅力的過ぎた。一人は手作りのシフォンケーキ、他の二人は某ブランドのウイスキーボンボン。


食べたい。今食べなきゃ当分、下手したら一生食べない。


結局両方受け取り、シフォンケーキとウイスキーボンボン一つはその場で食べた。両方とも、再度のクッキー作りを惜しみたくない美味しさだったし、どこかの世界に飛ばされることもなかった。


再び時間が飛んだのは、家に帰ってもう一つのウイスキーボンボンを口に入れた時。フルーティな匂いとアルコール特有の甘みが広がったと思うと、見慣れた広場に立っていた。


今日帰ってきた、高校の正門前広場だった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る