第2話 梅酒 〜中3の冬〜 破

その瞬間、私は玄関に向かって駆け出していた。

確認せずとも、扉の向こうの相手は分かっている。


「おばさん!」

「あ、こんにちはー、お家に帰ってたのね。」


思った通り、同じマンションに住む同級生のお母さんが立っていた。私をとても可愛がってくれていて、私が小学生の頃は「ウチの息子のお嫁に欲しい」とまで言ってくれていた人だ。


「ねえ、あの子今お家にいる!?」

「いるけど、どうしたの?」

「ちょっと伝えたいことがあって。ピンポンしたら出てくれるかな」

「そうなの。出てこなかったら、教えて。おばさんも行くわ」

「分かった、ありがとう!」


そのまま私は靴を履いて階段を下り、彼の家の前に立った。

深呼吸をして、インターホンを押す。

応答ボタンを押した時の、ピッという音がした。


「ね、プリント届けてくれてありがとう!ちゃんと受かったよ!向こうでも元気でね。」


口籠ると切れてしまいそうなのが怖くて、早口で言い切った。

インターホンからは何も聞こえなかった。

私も私で照れくさくて、うつむく。


赤くなっていく顔を手で押さえて、目を閉じた。


目を開けると、女の子達の笑顔が飛び込んできた。

見回すと合宿場所の食堂の風景だ。

私の手には、空のグラスが握られていた。




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