二章 新米冒険者編
第10話 水と花の都 フロスオルトス
『フロスオルトス』の街は花咲く丘の西側に位置する港街で、漁業や漁船関係者、それから研究者と冒険者が多い街だ。
街を上から見た時に十字状に刻まれたようなカタチで、整備された川が流れている『水と花の都』だ。
また、街の北には城を構えていて王政が敷かれている。
城のすぐ前には貴族たちの屋敷が多数構えていて、そのエリアと一般住居の間には門があって、許可の無い人は入れないようになっている。
門を抜けた先には多くの花々に囲まれた大噴水があり、その周りを囲むように複数のベンチが置かれていて、街の人々の憩いの場となっている。
祭り事や催事等が行われる時にも、この場所がよく使われている。
また、周囲には神々を
国に使える兵士たち――『オルトス騎士団』の兵舎や詰め所もこの中央の区画に存在する。
そこから南に向かえば造船所や漁港・魚市場、それから歓楽街があり、西側には住宅街が広がっている。
そして今私達が向かっているのは東側のエリアにある冒険者区画と呼ばれているエリアだ。
ここには、冒険者組合に属している『クラン』が多数存在し、武器や防具などを販売している店もこのエリアに最も多い。
クランごとに掲げている信念や目標、価値観や冒険者の特色が異なり、新米冒険者はまず様々なクランを巡って、自分に合うクランを探すところからスタートすることになる。
クランにさえ入れれば、衣食住のうち食事と住まいに関しては保証される為、クランに所属するメリットはあれどデメリットは無い。
ただ今のところ事前調査もしていない為、もし今日中に決まらなければ一旦旅人用の宿に寝泊まりするしかなくなるので、その為の費用は念のため貯めてきていた。
「さ、後は一人で大丈夫ですね」
街の門を抜けたところで、ノアさんが口を開く。
「そうですね、なんとか今日中に見つけられるよう頑張ります」
「どうしても無理だったら、帰ってきてもいいですからね?」
「流石にあれだけ別れを済ませてきてすぐ戻るのは、恥ずかしいんでNGですって」
「その時はジックスと一緒に笑ってあげますよ」
「いじわるだなー。今から若者が大きな一歩を踏み出そうとしているのにー」
「メアにとっては、これくらいはまだ小さな一歩ですよ」
「それってどっちの意味ですかー?」
後ろ手を組みながら、口をすぼめてジトりとノアさんを見るが、「そのままの意味ですよ」と、いつもの柔らかい笑顔で誤魔化される。
「ほら、早く行かないと日が暮れてしまいますよ」
「……それもそーですね。ノアさん、ここまで見送り……ありがとうございました」
「いえいえ、頑張ってくださいね」
名残惜しいけれど二度と会えなくなる訳でもなし、話もそこそこに切り上げて、ノアさんが門を出るまで見送ってから、クラン巡りへと向かう事にした。
◆◇◆◇
元々住んでいた街ではあるけれど冒険者区画に立ち寄る事は無かったし、キャンプの仕事でも武具屋に寄るのは別の人の仕事だったから、見知った街でも新鮮だ。
この区画だと街行く人も冒険者ばかりのようで、みんな何かしらの武装をしている。
私も一応それっぽくはなっていると思うので大丈夫だとは思うけれど、浮いてしまってないか少しだけ心配になる。
ただ、おのぼりさんみたく見られるのは嫌なので、出来るだけ堂々と歩く。
クランらしき建物を見ていくと、大小様々なクランが立ち並んでいる。
私個人としては、出来ればなるべく大きいクランに入りたいと思っている。
大きいクランと小さなクランでは、舞い込んでくる仕事の質が違うからだ。
依頼は全て冒険者組合に一度登録され、それらの仕事が各クランの主たちに割り振られたり、実績によって自ら手に入れたりして、クランに所属する冒険者へ仕事として割り振られる仕組みになっているらしい。
これは元冒険者で今は傭兵をしている、あの変人『ファルン』の相棒役を務めている『ルフィユ』さんから聞いた話だ。
◆◇◆◇
「いいですかセレメア、小さい冒険者クランではそのクラン内で出世する事は用意かもしれませんが、仕事の質自体は大きなクランには及びません。まだ実績が足りていないからこそ小さいのです。ですから、セレメアの求める冒険者像を追い求めるのであれば、大きいクランに入る方が近道と言えるでしょう」
「でも、大きいクランでも最初から新人には仕事を渡してくれないんじゃないの?」
「いいえ、大きいクランのほうが大小問わず様々な仕事を斡旋してくれますから。新人たちも仕事が無くて困るといったことになりにくいのです。何より、小さいクランは歴史の浅いところもあって、冒険者へのケアが弱かったり、潰れてしまうという危険性もありますから」
「そうなんだー。ってことはルフィユさんは、大きなクランに所属してたの?」
「私が所属していたのは――」
「おーいルフィユー! ルフィユいるかー? おーい、岩を持ち上げる訓練してたらうっかり岩の下敷きになっちまったー。抜け出すのを手伝ってくれー」
「……はぁ。ちょっと行ってきます」
「大変だね、いつも……」
「ハッハッハ、失敗したなー。ハッハッハ」
そして救助されたファルンは何故か無傷であった。
「ハッハッハ、やはり筋肉は全てを救う! ハッハッハ」
◆◇◆◇
――途中から関係ない回想が混ざってしまったけれど、冒険者についての知識はルフィユさんがある程度教えてくれたので助かった。
大きなクランを軸に探していると、いくつか候補が定まってきた。
一つ目は『
この街で一番歴史のある冒険者クランだ。
規模も二番目に大きい。
二つ目は『
戦闘系に特化したクランで、規模としては一番大きなクランだが、粗暴な人も多いようだ。
三つ目は『
女性のみで構成された特殊なクランだが、実力は折り紙付きとのこと。
規模は三番目に大きい。
四つ目が『
滴水の花弁亭から派生したクランで、規模は四番目に大きい。
最後に『
この中では最も新鋭だが成長率が著しく、既に規模は五番目に大きいとのこと。
悩むとすれば、この五つになる。
ただ、粗暴な人が多いと噂の大槌亭に関しては、規模としては最大だけれど、この中だとあまり選びたくはないかもしれない。
ひとまず大槌亭以外のクランについては、一度立ち寄って話を聞いてみる事にした。
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