第7話 ガラクタ

 身支度を終えてテントの外に出ると、ルリンさんが焚き火を囲んで朝食を取っていた。

 焚き火の周りには、丸太を加工して作られた特設ベンチが置かれていて、昨日もそこに座ってご飯を頂いていた。


 周りを見渡すと、昨日挨拶だけ交わしていた傭兵さんが二人見張りをしている。

 一人は普通の人だったけど、もう一人はだいぶ変わった人だったな……。


「お、下ろしたままも可愛ぇかったけど、整えるとえらい可愛いなぁ」


 ルリンさんが私に気が付き、髪のセットを褒めてくれる。


「……ありがとうございます」


 例のことが気がかりだったので、素直に喜ぶのはためらわれた。


「あ、あの……ちょっと聞きたいんですけど」


 私はルリンさんの横に座り、周りの傭兵さんたちには聞こえないように囁く。


「ん? どうしたん?」


 ルリンさんが普通のボリュームで話すので、「声抑えて下さい……」とお願いする。


「あの……寝てる時、私、その……ニオイませんでしたか……?」

「なんや、聞きたい事ってそゆことか」


 まだ声のボリュームが少し大きいような気がする。

 もしかして、聞く人を間違えただろうか。


「安心し。むしろウチはええにおいやったと思ったわ。それにウチら全員水浴びくらいならしとるけど、まともにお風呂は入れとらんから。そんなこと気にしとったらきりがないで?」


 やっぱり少し声が大きい。

 聞こえてやしないか傭兵さんたちを見ると、一人と目があってしまった。

 うう……気まずい。


「せやから、安心してええで。って、メアちゃんどしたん?」


「いえ、安心しました。もう大丈夫です、はい……。」


 気になっていたからすぐに確認したくてルリンさんに聞いてしまったが、ノアさんに聞くべきだったと後悔しても時既に遅し。

 次からは秘密の相談はルリンさんにはしないようにしようと誓った朝だった。


「あれ? どないしたん? もしもーし」


◆◇◆◇


 それからルリンさんと一緒に朝食を取った私は、ルリンさんに連れられてとあるテントに連れて行かれて、このキャンプでのお仕事を教えてもらう事になった。


 そこには団長さんもいて、私の事を何やら睨んでくる。

 私が気に入らないのだろうかと少し怯えていると「こら! メアちゃんが怖がっとるやろ、睨むん禁止!」とルリンさんが団長さんを叱った。


 役職名的にルリンさんの方が下なのではと思ったが、ルリンさんの方が態度が大きい。

 私個人としては助かるのだけれど、それでいいのだろうか。


 団長さんは一つ溜息をついて、そのまま手元の資料に目を落とした。


「それじゃっ今日のメアちゃんのお仕事は、この調査済み兼ガラクタ確定の魔道具の残骸を、馬車の荷台まで運ぶお仕事や。荷台はこのテントを出て西の方に行けば置いてあるから、その上に載せていくだけでええ。重たいんもあるから、この……小さな……っと、荷車を使うんや」


 そう言って、ルリンさんが小さな荷車をテントの奥から引っ張りだしてくる。

 私が入れるくらいのカゴのついた荷車だ。

 このくらいの大きさなら小さい私でも取り回しがききそうだ。


「わかりました。ここにあるやつは、全部運んで大丈夫ですか?」

「このラインよりコッチ側はまだ未調査やから、注意してな」


 魔道具の山の境に、白いテープが貼られている。


「気をつけます。それで、荷台に運んだらどうするんですか?」

「その後はそれ担当の御者がおるから街に運んでもろて、分解していろんなもんの原材にしてもらう為に売る感じやな。まとまって売ればそこそこな金額になるんや。そんでもってそのお金つこーて街で買い出しっちゅー流れや」

「ここの食料は、そうやって賄ってたんですね」

「たまに狩りをすることもあるんやけどな。基本は街で仕入れやな」

「それじゃあ大事なお仕事ですね、頑張ります」

「おお、頑張ってな。ただ、怪我せんよーに気ぃつけてな」

「はい、ありがとうございます」


 こうしてここでの仕事を与えられた私は、ここの一員に加わったのだと実感が湧いてきて少し嬉しくなる。

 口元が緩みそうになるがルリンさんにからかわれそうなので、それを必死に抑えながら魔道具を荷車に乗せて荷台へと運び続けた。


 そしてお昼休憩を挟んで夕方になる頃には、無事今日のノルマ分の最後のガラクタを荷車に積み終えた。


「お、それで終わりやん。ちょっと気が早いけどお疲れさん」

「ありがとうございます。……あの、ちょっと相談なんですけど」

「ん? どしたん?」

「この小さなやつでいいので、貰ってもいいですか?」


 私は、荷車に乗せた小さなガラクタ魔道具を手に取り、ルリンさんに見せた。


「ん? まあそのくらいならええんやない? な、ええやろ団長」

「私に聞くな。好きにしろ」


 相変わらず団長さんは愛想なくこちらを見ようともしない。

 片手にカップを持ちながら、仕事をしている。


「好きにしてええみたいやから、貰っとき。何に使うん?」

「いえ。使うというよりかは……記念、でしょうか」


 ルリンさんは首を傾げていたが、団長さんは理解したようで「そんなガラクタ、邪魔なだけだぞ」と忠告される。


「いえ、でもこれがいいんです」

「……フン」


 ここの一員になった記念すべき初めてのお仕事。

 それを忘れない為に、このガラクタは大事に取っておくのだ。


 人にとってはガラクタでも、きっと未来の私にとっては宝物になるはずだから。

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