第6話 『おはよう』と『身支度』
「ん……」
半目を開くと、外から小鳥のさえずりが聞こえる。
いつのまにか眠ってしまっていたようで、かなり熟睡していたみたいだ。
身体を動かそうとすると、ルリンさんに抱きしめられたままであることに気がつく。
どうやら一晩中抱き枕にされていたようだ。
後ろには既にノアさんはおらず、視線を動かしているとテントの隅で髪をといているのが見えた。
流石は傭兵というべきか、視線を向けただけで気づいたようにこちらを振り返った。
「おはようございます、メア。そんな状態でしたけど、よく眠れましたか?」
「おはようございます。うん、よく眠れたよ。熟睡」
「それは良かった。ルリンさんのせいで眠れなかったなんてかわいそうですからね。あ、無理やり剥いでもいいんですよ? それ」
それというのは、恐らくルリンさんの事だろう。
こうやって普通にノアさんと話しているにも関わらず、ルリンさんは気持ちよさそうに寝息を立てている。
きっと朝は苦手で、いつもノアさんに起こされているんだろうなと思った。
「でも、気持ちよさそうに寝てますし……」
「そろそろ起きないといけない時間ですから、起こしてもらって大丈夫ですよ」
「それなら……」
試しにと、ほっぺたを指でつついてみる。
「ルリンさん、起きて下さーい」
「んん……むにゃむにゃ……えっへへ……」
どんな夢を見ているのだろう……、だらしなく口元を緩めて笑っている。
このくらいではどうやら起きそうにない。
「ルリンさーん……」
今度は軽く揺さぶってみるが、一向に起きる気配がない。
次はどうしようかと考えていると、ふと思いつく。
ルリンさんの頭に顔を近づけて、耳元にそっと、か細い息を吹きかけてみた。
「……ふーっ」
「ひゃうっ!?」
ルリンさんがビクりと短く身体を痙攣させ、変な声を上げて飛び起きる。
目は開いたがまだ半開きの状態だ。
「な、なんゃ……?」
「へぇ……なかなかやりますね。ルリンさんを起こすのは、今度からメアの役割にしましょうか……」
何やら変な事で褒められている。
そんなにいつも寝起きが悪いのだろうか。
「めっっちゃぞわわわーってしたんやけど、うちに何したんや?!」
「おはようございますルリンさん、そろそろ起きる時間みたいですよ」
「あぁ、おはようさん……てちゃうちゃう。うちが聞きたいんはな」
「そんなことより、早く準備しないと、また遅刻しますよ」
そういってノアさんは慣れた手付きで置き時計をルリンさんに向けて放り投げると、ルリンさんも慣れたようにそれを受け取る。
「うわやっば。もっとはよ起こしてやー」
「起こしました。頑なに起きないのはいつもそちらですよ」
「しゃーないやん。朝は弱いんや」
ルリンさんは、自分の頭をくしゃくしゃと揉む。
あ、やっぱり朝弱いんだ。
「ほらこっち来て下さい。髪、とかしてあげますから。その間にそれ以外は整えて下さい」
「堪忍やでー、ノアぁ……」
先程までノアさんが座っていた椅子にルリンさんが慌ただしく腰かけると、ノアさんがルリンさんの髪をとかしはじめる。
昨日見た時のおしゃれな身なりは全てノアさんの苦労の元生み出されていたものなのだと、たった今理解した。
その間に、ルリンさんは用意してあった二つの小さい桶に入った水で顔を洗ったり、歯を磨いている。
そのせいで結構ルリンさんの頭が先程から動いているのだが、それでもうまく髪をまとめているノアさんは、ただただ凄いとしか言えない。
そうやって平行運転を続けているうちに、なんとか時間内に身支度が整ったようで……。
「今日もありがとなー助かったわー!」
「そう思うなら、次からもっと早く起きて下さい」
「それは無理やな!」
「堂々と言わないで下さい……」
ノアさんが呆れている合間にルリンさんはテントを後にした。
「さて、メアも身支度を整えましょうか。……自分で出来ますか?」
「うん、それくらいは」
「そう、ですよね……普通は……」
ノアさんの気苦労は計り知れない、と思った。
◆◇◆◇
私が一人で身支度が出来ると知って、ノアさんも仕事へと向かった。
私の髪は、伸ばすと脇腹辺りまで伸びている。
ノアさんが用意してくれた水桶で頭と顔を洗ったら、しっかりとタオルで水気を取り、ある程度髪が乾いてからまずは全体をしっかりと櫛ですいて整える。
ずっと雨水で洗っていたので髪が痛んでいて、度々髪がくしに引っかかって痛かった。
それからツーサイドアップ状に髪の毛を分けて、それを黒いリボンで結び留める。
前髪は、中央部分だけ目元にかかるかかからないか位のアシンメトリーだ。
もみあげは肩くらいまで伸びているのを前に垂らしている。
後ろ髪はそのまま真っ直ぐ下ろしたままにして完成。
家出をしてからは、初めてこのスタイルに戻すことが出来た。
家を出る時に櫛も鏡も無かったので、全部下ろしたままにしていた。
今後はまたちゃんとお手入れをしないといけないなと、鏡を見ながら思う。
今更だけれど、昨夜自分は臭くはなかっただろうかと今更心配になる。
ずっと野宿生活だったので、あまり衛生的には良くない状態だったと思うのだけれども……。
後でひっそりと確認してみることにした。
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