第5話 おやすみなさい


 私はテントに一人残りぼーっとテントの中を見渡す。

 テントの中にはランタン……のような物が複数吊るされている。

 断定できないのは、それがランタンとは基本的な構造が異なっていたからだ。

 本来油を入れて火を点けるものだけども、これは明らかに火では無くただの灯りがガラスの中に入っていた。

 また大きな木箱が置かれているのだけれど、その中には見たことがないようなおびただしい数の部品のようなものがたくさん積まれていた。


 これは遺跡から発掘されたものなのだろうか。

 どれを見ても不思議で、とても新鮮だった。

 そうこうしている間にテントに誰かが入ってくる。


「お、メアちゃんやんか。もう来とったんやねー」


 ルリンさんが、先程木箱の中に積まれていたのと同じような何かを持ったまま声をかけてきた。


「はい、ノアさんが連れてきてくれました」

「そぉかー。もう寝るとこやった?」

「いえ、物珍しい物が多くって、気になって見て回ってました」

「せやろ? まぁこのへんに転がしてるのはどれもガラクタばっかやけどな、遺跡で発掘された過去の遺物達やで」

「遺物……?」

「そうや。例えば、このランタン。普通は火と油を使うもんやけど、これは陽の光を吸収して、その蓄えた光をこうやって照らしてくれる魔道具なんや」


 魔道具……。

 そういえば、聞いた事がある。


 私達が生きている今の時代よりももっと昔に一度滅びた文明があって、その時代で使われていた魔法のような道具。

 今の技術では作る事ができない、その道具を総称して魔道具と呼ぶ、と。


 名前を言われて、父が教えてくれたのを思い出す。

 そうかこれが魔道具なのかとランタンのようなものに触れると、陽の光に当たってポカポカになったお洋服のようにほんわかと暖かかった。


「どうや? 面白いやろ?」

「うん、面白い、かも」

「そうかー、メアちゃんならそー言うてくれる思ぅたわー」


 私が面白いと言ったのがよほど嬉しかったのか、ルリンさんは私を勢いよく抱きしめるとそのままヨシヨシと撫で倒しはじめた。

 こうやって抱きしめられたりするのはむしろ心地良く感じていたので、特に抵抗はしなかった。

 そのまましばらく撫でられていると「満足したわー」と一言、私は解放されたのだった。


「時間ある時に、魔道具のこともっと教えたるわ。メアちゃんなら、ハマるんちゃうかな」

「うん、教えてほしい」

「っしゃ、じゃあ早速明日にでも時間を作って……」

「明日はレポートの作成締め切りじゃなかったですか?」

「げ……」


 ノアさんが、テントに入りながらルリンさんに苦言を呈する。


「レポート提出を先伸ばしになんてしたら、団長に怒られますよ」

「そうよなー、せやけどなー……いや、こればっかりは仕方ないかぁ。ごめんなーメアちゃん、また今度時間作るからな、堪忍やで?」

「いつでも大丈夫……今度、お願いします」

「あー、かわえーなもー」

「ちょっとルリンさん、メアさんが苦しそうですよ。締めすぎです」


 私はしばらくルリンさんの人形のごとく、抱きつかれたり撫でられたりとされるがままになっていた。


 ルリンさんが落ち着いてからは三人で寝巻きに着替える。

 私の寝巻きは、わざわざ街に行って買いにいってくれたらしい。

 本当にこの人達には感謝しかない。


 そして横になると、三人で私を挟むようにして並んで寝ることになった。

 今はルリンさんの抱き枕代わりにされている。


「ちょっとルリンさん……ずるいですよ。私だって我慢してるのに」

「嫌やったらメアちゃんは、嫌って言うもんなぁ?」

「別に、嫌じゃない、です」

「ほらみぃ。ノアも遠慮せんと、抱きしめたかったら抱きしめたらええんや」

「もう……」


 呆れ声を漏らしながらも、後ろからノアさんが優しく抱きしめてくれるのを感じる。

 前も後ろも、ほんのり温かくて心地よい。


「それじゃおやすみな、メアちゃん。」

「おやすみなさい、メア」

「うん、おやすみなさい」


 今日は、昨日までと違ってよく眠れそうだ。

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