第4話 ノアとジックス


 キャンプの敷地内を、視線を振りながら歩いていると、先端に大きな三日月型の刃のついた槍を地面に突き刺し、見張り仕事をしているノアさんを見つけた。

 先程までとは違い、分厚い繊維質のコートのような服を着ている。


 隣に目をやると、だるそうに頭を掻いているジックスがいた。

 胸元と腰回りと腕にだけ金属のついた軽鎧を着ていて、腰に剣をさしているので、剣士であることが分かった。


 様子を遠目から伺っているとノアさんが槍を地面から抜き、こちらの方向にゆっくりと振り返るのが見えた。


 そして目が合うと、身体がピリつき動けなくなった。


「……どなたですか。覗き見とは趣味が……って、メアでしたか。慣れている気配ではなかったので、失礼しました」


 これが殺気というものかと感じるくらいの威圧を槍先と共に向けられたが、ノアさんの謝罪の言葉とともにそれは無くなり、最初に会った時のようにふんわりとした優しい表情を向けてくれた。


「おいおい、ガキのくせによく立ってられたなー、こーんな暴力女の殺気なんかくらっtい゛っでぇっ゛?!」


 ノアさんが、ジックスの後頭部に柄の部分で思いっきり払う。


「ノア! いてぇじゃねぇか! 何すんだ!」


 あの勢いで、よく『痛い』で済むなと感じつつ、これが『本物の戦士』というものかとも感じた。


「ガキじゃなくて、子供と言って下さい。もしくは名前で。それに、女性に向かってその言い方は何ですか。反省してください」

「暴力振るってるじゃねぇkうぉっ?!」


 今度は、ノアさんの槍の切っ先がジックスの顔面を襲う。

 前からだったからか先程よりは少し遅めだったからかは分からないが、間一髪のところでスクワットのようにしゃがみこんでそれを回避する。


「ふざけんな! 死ぬだろぉが!」

「これくらい避けられないなら、いずれ死にますよ」

「だからって今死なす必要ねぇだろ!」

「それで、何か御用ですか?」

「おい、俺との話はまだ……」

「終わりましたよね?」


 空気が急に冷え込むのを感じる。

 こちらからはちょうどノアさんの表情が見えないが、ジックスの変わりゆく顔色を見てなんとなく察する。


「あー、俺はお前の代わりにしっかり見張っとくからな!  今のうちにメアちゃんとの用事を済ませるといいぞぉ!」

「だそうなので、どうかしましたか?」


 ノアさんだけは怒らせないよにしよう、そう誓った。


「えっと……カルアから寝床はノアさんに聞いてくれって言われたので、聞きにきました」

「あらそうだったの。それじゃあ案内するわね。ジックス、しっかり見張っておいてね」

「こちらのことはお気になさらず、しっかりと目を凝らして見張っておきますとも!」


 どんなに恐ろしい事を経験したら人はここまで従順になるのだろう。

 そんな事を思いながら、ノアさんと手を繋いでキャンプ地へと戻っていく。


 それからテントの場所を教えてもらった。

 どうやら私が今日から寝る場所は、ノアさんとルリンさんと同じテントのようだ。


 話を聞くと元々ルリンさん用の大きなテントで、睡眠時の護衛役としてノアさんが就いているそうだ。


 もう少しするとノアさん達は見張りの任から外されて、ジックスはジックスで団長のテントへと戻るようだ。


「予備の毛布を出しておいたから、これを使ってね。他にも困ったことがあったら、聞いてちょうだいね」

「はい、ご丁寧にありがとうございます」

「もう、そんなに堅くなくてもいいのに」


 先程の光景を見たばかりなので、うっかり敬語になってしまった。


「あと一時間もすれば私も戻ってくるけど、それまでは何しててもいいからね。ただ夜更かしはよくないから、寝る時は一緒に寝ましょうね」


 私がコクリと頷くと、ノアさんはニコリと笑みを浮かべた。


「それじゃ、また後で」


 そう言って、ノアさんは再び見張りの任を任されたであろう場所へと戻っていった。











*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

今日は少し短くなったので、

次のエピソードも追加公開します!


続けてどうぞ⇩

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る