第3話 あたたかい晩御飯


 食事の時間になると、周りにいた人達も一部を除いて集まってきた。

 ルリンさんが言うには、見張りの人たちは交代交代で食事を取るのだそう。

 その話の延長で気になっていた事を聞いてみた。


「あのー、なんで鎧を着ている人と、着ていない人がいるんですか?」


「あーそれはなぁ、うちらは遺跡の研究者で、鎧を着とんのは、うちらが雇った傭兵さんやからやでー」


 傭兵……、父から昔聞いたことがある。

 国にも冒険者組合にも所属しないフリーの兵士で、個人個人と契約を結ぶ個人主義の人達であると。


 その為イメージとしては、寡黙な一匹狼というイメージをしていたのだけれど……。


「おい、そっちの肉の方がでかくねぇか?! 少し分けてくれよ」

「嫌ですよ!? 何でボクが」

「身体は俺より小さいんだから、食べる量も俺のほうが必要だろ?」

「あー! 人が気にしてることを……!」


 ジックスと、先程まではいなかった小柄で肩上くらいまでの銀髪を持つ少年がわーわーと揉めている。

 他の傭兵さん達も楽しそうに食事をとっている。

 人に聞くのと実際に見るのとでは違うんだなと思ったが、実はこれが特殊であることを知るのは私がもう少し大きくなってからの事だった。


「なーなー、メアちゃん。うちも、質問してええ?」


「ん……はい、何でしょうか」


 口に入れていたスープを飲み込んでから答えると、ルリンさんはニコッと笑顔になる。


「メアちゃんは、今いくつなん?」

「えと……、今年で十歳になります」

「へー、まだちっちゃいのに、一人で生活しとったなんて、偉いなぁ」


 ルリンさんは私の頭を優しく撫でてくれる。

 こうやって頭を撫でられながら褒められるのは随分と久しぶりだった。

 否が応にも父の事を思い出してしまう。

 気づけばポロポロと涙が溢れて、手元のスープにポタポタと落ちていた。

 ルリンさんは何も言わずに、私が泣き止むまで何度も何度も頭を撫でてくれていた。


 泣き止む頃には周りの人達が私のことを見ていて、なんとも気恥ずかしくなったが、皆優しい顔をしていたので心は暖かくなった。

 その後は皆と自己紹介をし合ったりしながら、楽しい晩御飯の時間が過ぎていった。


「食べ終わったなら、食器はここに並べておいてね」


 先程の銀髪の少年が、皿を空にしたのを見てか声をかけてきた。

 名前はたしか『カルア=ホーキンス』と自己紹介の時に言っていたと思う。


「君もここで過ごすならいつか番が廻ってくると思うし、ちょうど今日は僕が担当だからやり方を教えてあげるよ」


 私はコクリと頷いて彼についていき、洗剤の種類や洗い方・片付け方等を学んだ。


◇◆◇◆


「教えて頂いてありがとうございます」

「いいっていいって。君が洗い物出来なくて困るのはこっちもなんだし。それから、僕にはそんな丁寧な言葉で話さなくてもいいよ」

「ん、わかった。同じくらいの年、だもんね」

「え゛……やっぱり、そう見えるんだ……」


 どうやら彼は小柄な種族のようで、成人しても人間の子供くらいの大きさにしかならないらしく、実年齢を聞くと二十二歳だというのでとても驚いた。


「まぁ見た目はほとんど人間族の子供と同じだからね、『ライトル』はよくそうやって間違えられるんだ」


 ライトルというのは彼の種族の名前であり、自然の中での探知に長けた種族らしく、それを買われて今回の遺跡調査における平地警備の任についているとのことだった。


「そうなんだ……。なら、それこそ敬語じゃなくていいの?」


「いいよ。というか、他のみんなもそう言うんじゃないかな? ここでは、団長を除いたらみんなタメ口だよ。副団長命令ってやつでね。おかげで気軽に仕事をやらせてもらってるよ。気の抜けすぎてる奴もいるけどね」


 多分ジックスのことだろうなと思って聞き返すと、言葉を濁したので図星だったのだと思う。

 そういえば、私ですら既に心の中では呼び捨てにしていたと気づくが気にしない事にした。


「あぁそうだ。寝床はノアが準備してくれてると思うから、眠たくなったらノアに声をかけたらいいよ。男女で寝るテントは分けてあるからね。流石にそこは僕じゃ案内出来ないし」


「わかった。色々とありがとう、カルア」


「どういたしまして。さて、僕はそろそろ見廻りの交代時間だから、もう行くね。また分からない事とかあれば気軽に聞いてよ。それじゃ」


 カルアは近くに立てかけてあった、身丈みのたけ程もある大剣を担いで去っていった。

 私はひと仕事を終えて少し眠気が出てきたので、早速ノアを探す事にした。

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