第2話 遺跡調査キャンプ
優しそうなお姉さんに手を引かれていく。
たまにお姉さんの方を見上げると、私よりも濃い紫色の肩髪をふわりとゆらしながら振り返り、ニコリと優しく微笑んでくれた。
キャンプにたどり着くと、様々な道具や、椅子やテーブル等の生活用具が多数並んでいた。
周りにはテントも複数立てられており、ここで寝泊まりをしている事がわかった。
どうやら遺跡の調査をしている集団に拾われたらしい。
団長と呼ばれていた人は見当たらないが、それ以外の人たちが物珍しそうに私の周りに集まってくるので、少し怖くなりお姉さんの後ろに隠れる。
「ちょっと、大人がぞろぞろやってきたら怖がっちゃうでしょ」
お姉さんがそう言うと、周りの大人たちは近づくのを止めて申し訳なそうに後髪を掻いている。
「そうだぞ、俺みたいな爽やかな青年じゃないと」
一緒にいた男の人が、茶色の無造作にハネている前髪をかき上げながら言うと、「貴方もよ」とお姉さんに言われていた。
「俺もかよっ!」
なんだかショックを受けているようなので「お兄さんは、大丈夫」と言ってあげることにした。
「ほらな、分かるやつには分かるんだよ。な?」
なんだかとても嬉しそうにしているので、とりあえず良かったのかなと思った。
「まったく、子供に気を使わせて……」
お姉さんは溜息をついている。
この二人は多分仲良しなんだろうな、と子供心に感じていた。
「セレメアちゃん、自己紹介がまだだったわね。私の名前は『エルノア=フォールン』よ。仲間からは『ノア』って呼ばれているわ」
お姉さんが私の視線に合うように屈んで、名前を教えてくれる。
ノアさんと、呼んで良いのだろうか。
「俺の名前は『ジックス=エイリュース』だ。よろしくな」
こっちの、鼻頭を擦りながら自己紹介をしている少し軽薄そうなお兄さんはジックスというらしい。
「こっちは別に覚えなくてもいいからね、セレメアちゃん」
「おいっ、なんでだよ、名前くらいいいじゃねえか!」
「この人、女の子大好きだから、あんまり近づいちゃダメですよ?」
「おい、小さい子に何吹き込んでんだ! それに俺が好きなのはもっとだな」
「はいはいストップストップ、子供の前でなーに話しとるん? 教育に悪いで」
二人の間に手をパンパンと叩きながら割り込んできた一人の女性が、私の元までやってくる。
「あんたが一人で遺跡におった子ぉかー。ウチは『ルリン=ベルナート』っちゅうんや。ここの副団長をしとる。よろしゅうな」
独特な喋り口調をするお姉さんは、橙がかった髪を帽子の中でくるんとまとめていて、もみあげのところだけその長い髪を垂らしていた。
ノアさんやジックスと違って、普通の服装にポンチョを被った格好をしている。
二人は、軽装ではあるものの鎧や武器を携帯していた。
父の影響で見慣れていたので驚きはしなかったが、普通の子供であったら最初の時点で怯えていたかもしれない。
「で、お名前は、なんてゆぅん?」
「……セレメア」
「それじゃあメアちゃんやなー、ここはウチらしかおれへんからな、好きに使ってくれてえーで。副団長権限で許可したる」
「え、団長が許可を出したんですか?」
ノアさんが驚いたように言う。
「あーんな偏屈ジジイ知らんわ。ま、何もゆーてこんかったし、実質黙認ちゅーことやろ? ええんよええんよ、メアちゃんは気にせんと、ここのキャンプを好きに使ってえーからな」
何故この人たちは、見ず知らずの家出娘である私に、ここまで親切にしてくれるのだろうか。
不思議に思い、私は聞いてみる事にした。
「あの……なんで、優しくしてくれるんですか……?」
ノアさんとルリンさんは顔を見合わせた。
ジックスは、少し離れたところでぼーっとしていた。
「あんな、子供がそんな事気にする必要ないんよ? それに、困っとる人を助けるんに、理由がいるんか?」
私は首を横に振る。
「せやろ? 助ける力があるんやから、助けただけや。もし、それで何か感じる事があるんやったら、その分またメアちゃんが将来誰かを助けられるようになった時、困っとる人を助けてやったらええ。そうやって、巡り巡っていくんや。」
私が今受けている優しさをまた誰かに与える……。
その言葉は、私の心に深く突き刺さった。
ルリンさん達だけじゃない、父もそうだったように私も困っている人を助けられる人になろう。
いつもとは違う、なんだか少し暖かい夜だった。
「さ、そういう訳やから早速晩御飯にしよーな。今日はちょっと量がギリギリやけど……ジックスの分減らせばええか。」
「っておい、なんで俺だけなんだよ! 全員で調整すればいいだろ?!」
「あーあー聞こえない聞こえないー」
「おい、ふざけんな! ちゃんと平等に分けろって!」
ジックスの必死の説得によって晩御飯は平等に分けられる事になった。
初日にしてなんとなく、この人の立場が分かった気がした。
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