第4話

 角を右に曲がり、しばらく歩いていると白黒猫の言った通り大きなアロエのある家があった。


 ここを左に曲がるんだよな、確か。


 カイは白黒猫がアイを見たと言っていた道路にたどり着いた。

 二車線の道路で、少し先に横断歩道があった。平日だったが車は引っ切り無しに通る。

 カイは車が走っているのをを見たのは初めてだった。


 すげえ。TVで観たのとおんなじだ。あれ本当だったんだな。


 カイが一瞬アイのことを忘れて車を眺めていたが、すぐに我に返り、アイを探し始めた。

 とりあえずアイの匂いを探してみようと思ったが、外は色んな匂いがしすぎて、その中からアイの匂いをかぎ分けるのは至難の技だった。


 カイが警察犬よろしく地面をを嗅ぎ回っていると、高校生ぐらいの女の子が2人、カイに気付いて声を上げた。

「あっ見て。猫!かわいいー!」

「首輪してる。どっかの飼い猫かな?」

 2人はカイに近寄り身体を撫で回した。

 カイは普段は愛想の良いほうだったが、今日は他人に構っている暇はない。迷惑げな顔をして、

「オイ。俺は忙しいんだ。触るんじゃねえ」

 そう言った。つもりだったが、女子高生たちはお構いなしだった。埒が明かないので一旦ブロック塀の上に避難した。

「あーあんなところに行っちゃった」

「嫌だったのかな。ごめんねーバイバイ」

 女子高生たちは残念そうに去っていった。

 2人が完全に居なくなったのを確認して、カイは再び歩道に降り、アイの捜索を始めた。


 匂いのことは一旦諦め、カイはキョロキョロあたりを見渡したが、この道路にアイの姿はないようだ。カイは肩を落とした。


 やっぱり匂いを辿るしかないか。犬ほどじゃないが、猫だって鼻は結構いいんだぜ。


 カイはまた地面をフンフン嗅ぎ回った。横断歩道の所まで来て、花束が沢山あるのに気が付いた。


 そういえば白黒猫が横断歩道に花束が沢山あったって言ってたな。

 なんでこんなところに花なんか置くんだ?人間って不思議だ。


 その時、カイのピンクの湿った鼻が、微かに漂ってくるアイの匂いを捕らえた。

 どうも横断歩道の真ん中らへんからするような気がした。


 あの辺から匂う気がする。もっと近くまで行ってみよう。


 カイは臆せず横断歩道の真ん中まで歩いていった。カイは今まで外に出たことがない。

 だから車に轢かれることがどんなに恐ろしいことかまったく理解していなかった。


 銀色のバンを、金髪に過剰に整えられた眉毛の、柄の悪い青年が運転していた。

 青年は運転しながら電話の向こうの人物に何事かを詰問され釈明していた。

「だからそれ俺じゃねえって…チッ切れた」

 相手に一方的に電話を切られ、イラついた様子でスマートフォンを助手席に投げた。

 不機嫌に任せアクセルを強めに踏み込んだ。とそこへ、カイが横断歩道へ躍り出た。

「うわっあぶねッ!」

 青年は慌ててブレーキを踏んだが間に合わなかった。

 カイは銀色のバンに撥ね飛ばされ、宙を飛んだ。黒い毛がぶわっと舞い散り、カイの体は歩道にドサリと落ちた。

「うわー猫轢いちまった。しかも黒猫。最悪だなー縁起わりぃ」

 青年は顔をしかめてそう言った。

 先程よりはスピードを落としたものの、青年はカイには目もくれずそのまま走り去っていった。


 歩道に落ちたカイはピクリともしなかった。うっすらと目を開き、自分に何が起こったか分からぬまま、カイは歩道の脇で息絶えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る