第2話

 アイが帰ってこなくなってもう一週間ほどになる。我慢強いカイも流石に待つことに限界を感じていた。

 母親と父親の様子もおかしかった。2人とも何だか元気がない。ほとんど会話をせず、カイの毛並みのように真っ黒な服を着ていた。また真っ黒な服を着た他人が家にひっきりなしに訪れた。


 一体どういうことだ、これは。


 カイは憤慨した。ご飯は貰っているものの、それ以外まるで放置だ。退屈の極みだった。アイがいれば遊んでくれるのに。カイはとうとう自分でアイを探す決心をした。


 カイは庭に面した窓に近寄り、背伸びして鍵に爪を立てカリカリと引っ掻いた。いつもこの出っ張った部分を下に下げて窓を開けているのをカイは見ていた。猫の手は人間とは構造が違うのでかなり苦戦したが、カイは鍵を開けることに成功した。桟に手を掛け窓を開ける。上手くいった。後は外に出るだけだ。


「オイ、何処へ行くんだ」


 カイが外に出ようとしているのを見て、先輩猫のリクが怪訝そうな顔で声をかけてきた。カイとは違ってリクは白くて毛がフサフサと長い。リクは子猫の頃草むらの段ボールに捨てられていたらしいが、毛並みがペルシャ猫そっくりなので自分は高貴な猫なんだといつも自慢していた。


 カイは顔だけ振り返ってリクに言った。

「アイを探しに行くんだよ。なんの断りもなしに一週間も帰ってこないなんてふざけてる」

 リクは渋い顔をしてカイに忠告した。

「やめとけ、探したってムダだよ」

「どうして?」

 キョトンとするカイに、リクはしょうがないヤツだなとため息を吐いて言った。

「アイは死んだんだよ。アイツらがそう話してたのを聞いた」

 死んだ…?初めて聞く言葉だったので、カイは意味を理解することが出来なかった。

「死んだってどういうことだ」

 そう聞かれ、リクはめんどくさそうに言った。

「アイはもう2度と帰ってこないってことだ」

「…なんで?どういうこと?」

 首を傾げるカイに、リクは顎を上げて年上の威厳を表現しながらカイに説明した。

「お前は知らないだろうが、この家には昔、年を取った男と女が1人ずついた。そいつらもある日出かけたっきり帰ってこなくなった。そいつらも死んだらしい。死んだってことはそういうことだ」

 カイはやっぱり良く分からないという顔をして

「ってことはやっぱり外に居るんじゃないのか。探しにいかなきゃ」

 と使命感に満ちた顔でリクに宣言した。リクは呆れて

「あのなぁ」

 と鼻息混じりに呟いた。


 リクが止めるのも聞かず、カイは外の世界へ飛び出していった。遠ざかっていくカイを見て、リクは諦めてしっぽをふさふさ揺らしながら自分の寝床へ戻っていった。



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