Love is over
マツダセイウチ
第1話
世界を包み込んだ夜空に日が差し出した。
黒猫のカイは朝の訪れを感じて目を醒ました。
朝だ。だがアイを起こすのはまだ早い。
カイは起き上がって伸びをして、トイレを済ませると1階に降りて水を飲んだ。そしてソファに登ってゴロゴロしていると、カイのお腹がグゥーと鳴った。
俺の腹時計が鳴ってる。そろそろアイを起こしてやるか。
カイは猫だから時計は読めない。何時も何となくとかお腹の減り具合で時間を計っているが、それがあまりにも正確なのでアイとその家族には実は時計が読めているのではと疑われる程だった。
階段を登り、アイの部屋へ直行する。この家は全部の部屋のドアに猫用ドアがついているので、カイはどの部屋でも好きに行き来できる。
アイの部屋に入ると、薄暗い部屋の中でベッドに横たわったアイがスヤスヤと眠っていた。カイは枕元にジャンプして登り、アイのほっぺたをザリザリと舐めた。
「うう、痛い…。カイ、アラームが鳴るまで寝かせて」
アイがそう言った次の瞬間、枕元の目覚まし時計が不快な電子音を立てた。
アイは起き上がり、時計のアラームを止めると寝ぼけ眼でカイを抱き上げた。
「おはよう、カイ。今日も時間ぴったりだね。ホントにカイっておりこうさん」
カイは当然だとばかりに鼻をフンと鳴らした。
「そんなことはねえよ。時計がなきゃ時間が分からないのは人間くらいのもんさ」
カイはそう言ったつもりだったが、アイには通じていない。アイはカイを抱っこしたまま階のリビングに降りていった。
リビングのテーブルにはすでにカフェオレとバタートースト、目玉焼きが準備されていた。アイの母親がコーヒーの入ったケトルを持ったまま言った。
「おはようアイ。またカイに起こしてもらったの?」
アイはまだ眠そうにふにゃりと笑った。
「うん。アラームが鳴る直前に起こされちゃった。ギリギリまで寝ていたいのに」
「カイもお腹が空いてるんだよ。早くご飯にしてあげなさい」
猫のご飯の準備はアイの役目だった。アイは戸棚からキャットフードを取り出しスプーンで量をきっちり計ってお皿に盛った。お皿は2つ。カイの分と、先輩猫のリクの分だ。リクはカイと違って朝が遅いので、この時間はまだ両親の部屋のベッドで寝ている。
「リクはお寝坊さんだね。カイに全部食べられちゃうぞ」
アイはキャットフードを運びながらブツブツ言った。カイは心外だとばかりに鳴き立てた。
「俺はそんな意地汚くないぞ。自分の分は弁えてる」
母親がクスクス笑いながら見当違いのことを言った。
「ほら、カイが早くって言ってるよ」
人間に猫の言葉は分からない。微妙に噛み合わない会話もカイにとってはいつものことだ。
エサ台にお皿を乗せると、カイは待ってましたとばかりにキャットフードをモリモリ食べ出した。アイもその後朝食をとる。それがこの2人のルーティンだった。
朝食を終えたら、カイは念入りに毛繕いをし、アイは自室に戻って制服に着替え、鞄を持って1階に降りてくる。カイはそれを玄関で待ち、アイが学校へ行くのを見送る。
出掛ける前、アイは靴を履きながら、
「じゃあ、行ってくるね」
とカイの頭を撫でてから出ていく。すべていつも通りの1日の始まりだ。
だがその日学校へ行ったきり、アイが帰ってくることはなかった。
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