第13話 奥義
格好をつけて刀を抜き放った後、一気に相手の懐まで飛び込んだ。
いやぁ凄い、めっちゃ多い。
恐らく俺が見つけた巣は、ほんの一部に過ぎなかったのだろう。
そして外に出ようとするオーガに対して、サキュバスが巣に連れ戻す様な動きを見せていた。
アレは多分、数が揃うまで人目に付かない様促していた行動と思われる。
しかしながら食料は必要、その為狩りに出ていた個体に出くわしたのが、太ももシスターのパーティという訳だ。
何ともまぁ、運が良いのか悪いのか。
それはひとまず置いておくとして。
「まずは一手、挨拶代わりでござる」
一声上げながら、前面に居た相手を爆散させた。
そのまま跳躍し追撃を掛けてみれば、相手は盾を空に構えて隙間からバリスタを放ってくる。
なるほど、道具を使う頭はあるのか。
そんな事を思いつつ、更に天牙を追加し敵陣を崩して行った。
すると相手はガウガウと騒がしい声を上げながら、此方に対処するべく陣を組み直し始めたではないか。
やはり、戦略的に動いている。
全てがサキュバスから生まれた特殊個体と言う事なのだろうか?
何てことを思っていれば、今まで意識しない様にしていた、集団の先頭に立っている人物が声を上げた。
「サムライ、ってヤツなのかしら? 随分と意気揚々と出て来たけど、この数相手に一人? 馬鹿なの? さっきの風を起こした男も連れて来た方が良いんじゃなくて? 待ってあげましょうか? フフッ」
非常に、それはもう非常にエッチな格好をしたお姉さんに煽られてしまった。
もはや御褒美と言って良いのかもしれない。
ちょっと動くと危ない所まで見えそうな恰好をした、角と尻尾と翼が生えたお姉さま。
他の種族にあんな事やこんな事をされる薄い本は苦手だったが、逆ならいける。
男が他の種族(エッチな女の人)に色々されるなら、断然ドンと来いなのである。
つまり、ドストライク。
「威勢よく出て来たのに、ビビッて声も出なくなっちゃった? それとも、お姉さんが貴方の相手をしてあげましょうか? フフッ、その間に、街は酷い事になりそうだけどね?」
是非お願いします! という言葉をどうにか飲み込み、キッと正面を睨んだ。
街が落とされるのは不味い。
貸金庫には色々預けてあるし、何より“こちら側”の世界に来てからずっと過ごして来た街だ。
知り合いもいれば、友人もいる。
それらを戦火に包まれては、たまった物ではない。
と言う訳で、エッチなお姉さんだろうが魔物として対処させて頂こう。
「拙者、持田麦太郎と申す。名を聞こう」
「モティダ・ミギイターロ? 不思議な名前ね?」
「呼び辛ければ、ムギと」
「ムギ、ね。それなら呼びやすいわ。私はリーゼ、“ロード”まで上り詰めたサキュバス。よろしくね? ムギ。貴方はこれからオーガの軍勢と共に、上り詰めた上位種を相手にするのよ?」
ロード、ロードと来たか。
ナイトだとかキングだとか、そういうのは沢山聞いて来たが。
ロードは初めて聞いたな、凄い。
とても強そうだ、ゲーム感覚で言えば。
実際にどれくらい違いがあるのかは知らん、今までのも全部爆散してしまったので。
「道理で其方は美しい訳だ、此方も刀を引いてしまいそうになる」
「でも引かないって事は、“魅了”が効いていないって事よね? 貴方は何なのかしら、どう言う存在? さっきの風使いくらいに強いのかしら?」
もはや動作がいちいちエッチだ。
喋っている時に身体をくねらせるのもアレだし、喋った後唇を舐めるのは癖なのか?
やけに艶めかしい行動ばかり取って、此方としては思わず刀ではなく腰が引けてしまいそうになる。
だがしかし、背筋を伸ばせ。
今は後ろから見られているのだ、仲間たちに。
もしもコレで中腰になったりすれば、スカイ殿辺りからは永遠にからかわれる事だろう。
「では、お見せしよう。我が全力の“魔術”を」
「魔術……へぇ? 剣士だと思ったけど、実は術師でしたって事? 良いわよ? 私が相手して、貴方を無力化してから街を襲って上げる。その後は……たっぷり楽しみましょう? ムギ」
非常に股間に来るお言葉を頂きながら、こちらは上空に向けて刀を振り上げた。
魔術、それは異世界不思議能力の一つ。
人間には魔術適性という物があり、それは生まれつき決まっている上、本人の好きには出来ない。
シスターの場合で言うのなら、治癒と雷系統、それ以外にもあるのかもしれないが。
つまり、急に風魔法が使いたくなったからと言って行使出来るモノではないと言う事だ。
では適性が全くない人間は魔術が使えないのか?
そうではない。
どうやら人間にはストックの様な“余りの部分”があり、そこに好きな魔術をぶち込む事が出来る。
ぶち込むと表現したのには理由があり、外部的な、しかも結構辛い感じで体に“適性”を叩き込むのだ。
一般的に“スクロール”と呼ばれる、読めば魔術を手に入れる事が出来るという書物。
そう言った外部ツールで、人は魔術適性を手に入れる事が出来る。
その“ストック”も、人によってどれ程の容量かは生まれつき決まるようだが。
ちなみに無理矢理魔術を叩き込むと言う事もあり、酷い二日酔いの様な状態になる。
それをひたすら我慢して、俺は一つの魔術にスクロールを使い続けたのだ。
「お見せしよう、我が最終奥義の一片を」
呟きながら、夜空に向かって魔術を展開する。
夜空には波紋が生れ、緩やかな光に包まれながら普通ではない光景が広がっていく。
これが、俺の唯一使える魔法。
“収納魔法”。
俺の魔法適性は、このふざけたチートにより全て打ち消されていた。
その為“ストック”を調べた結果、何と空き枠はたった一つ。
そこにぶち込んだのが、コレだ。
まるでサブの様に思われるストック適性だが、なんと強化する事が可能なのだ。
しかし自らの適性に合っていない為、普通に過ごしていても成長したりはしない。
では何をするか、簡単だ。
同じ系統のスクロールを使いまくれば良い。
その結果。
収納魔法の容量を増やしたり、収納した時の状態のまま維持したり。
はたまた、発射する程に勢いを付けて取り出す事だって可能になった。
ヴィナーさんにお願いして、市場に出ている“収納魔法”のスクロールを言い値で買い集めて貰った結果。
俺は、“ある意味最強”を手に入れたと言う訳だ。
コレでもう、“戦乙女”のパーティと組んだ時の愚行は繰り返さない。
現地で“抜く”必要が無い程、溜めているのだから。
そして何と言っても、俺の能力は天牙を作るだけではない。
他のモノだって、無限に作り出せるのだ。
「愛する者を失った乙女が流す涙の如し、降りやまぬ雨は大地を濡らす。その湿り気は、大地を歩く者の歩みさえ阻むだろう」
「詠唱かしら? 随分と変わった文言……って、きゃぁぁ!?」
意気揚々と言葉を紡いでいたサキュバスが、急に悲鳴を上げた。
それはそうだろう。
頭の上から、急に雨の様にヌルヌルした液体が降って来たのだから。
ただしサキュバスに限らず、オーガの群れにも降り注ぐ雨であったが。
「秘剣、天牙に続き……二之形、“
「ちょっと、ちょっと!? どこが秘剣なのよ!? 何なのよこの液体!? やけにヌルヌルして……キャッ!」
先頭に立ったサキュバスさんが、盛大にズッコケていた。
それどころか、後ろの軍勢さえも滑っては転び滑っては転び。
もはや隊列を組んでいる意味がない程に戦況は混乱している。
コレで良い。
降り続くローションの雨に打たれ、お前達は立つ事さえ出来ずに大人しくして居ろ。
と言う訳で。
「我、思う。何故、この地に舞い降りたのかと。何故、この様な力を得て人としての生を受けたのかと。もはや神の声は聞えず、自らに問いかけ、答えのない問題を天に問いかける日々……」
「待って、本当に待って? それも、詠唱? あり得ないわよね? 貴方の後ろに広がる波紋、それが全て貴方の魔術だっていうの!?」
「詠唱ではない、ただの泣き言と恨み言でござるよ」
此方の背後には、金色の水面が広がっていた。
言葉を紡ぐごとに波紋を揺らし、その大きさを広げていく。
これこそ、我が最終奥義。
「現実が変わらぬからこそ、我が変わろうと思考した結果。“収納魔法”を、武器にした末に生まれた奥義。とくと味わえ……“
俺の背後では金色の波紋が幾つも広がり、虚空の空間から顔を出すのは使用済み天牙。
数十、数千とけち臭い事は言わない。
枯れぬ欲望の持ち主となったのだ、在庫は後でいくらでも増やす事が出来る。
万以上の数を放出してやろうではないか。
「お前は……何をしている? それは、何だ?」
「味わってみれば分かるでござるよ。コレは拙者の長年の苦しみと苦悩、そして快楽の証でござる。さぁ、サキュバス……拙者と欲の数を比べようではないか。某の煩悩は、百八つでは到底足りぬぞ」
そう言い放ってから、一斉に天牙を射出した。
まるでミサイルの様に飛んでいくソレらは、相手に着弾したと同時に大爆発を起こす。
まさに爆撃、空爆とも呼べる現場になっていた事だろう。
ズドドドドッと炸裂音が響く中、先頭に立っているサキュバスだけは非常に敵意ある視線を此方に向けた。
「ムギィィィ! 貴様ぁぁ!」
「恨みたくば恨め、しかし刃を振り上げたのは其方が先。相手を呪わば穴二つ……自らの墓場も、戦場に向かう前には用意して置くものでござるよ」
それだけ言って、彼女は爆炎に飲まれた。
最後の抵抗のつもりか、オーガ達が手に持った武器が投げつけて来るが。
それらは収納魔法で収集し、此方には届かない。
その間も、背面に浮かぶオナ〇を発射し続ける水面は消える事はない。
耳がおかしくなりそうな爆発音を響かせながら、滑って転びを繰り返している軍勢を端から駆逐していく。
こうなってしまえば、在庫が切れぬ限り苦戦はあり得ない。
むしろ、消耗戦と言っても良いだろう。
此方の在庫が切れるか、相手の兵隊が居なくなるのが先か。
まぁ結果は目に見えている上に、もはや時間の問題だが。
そんな事を思っている内にも、戦場で息をしている生物は見る限り居なくなる。
天牙の乱射と止めてみれば、随分と酷い事になった大地に静寂が戻った。
「呆気ないモノだな、サキュバスロード。上り詰めた存在とは言え、所詮この程度か」
あぁ、そういえば。
サキュバスだったら倒す対象になる訳だから、コンドーさん(意味深)の機能を試しても問題ないのか……? とか、無駄な事を考えつつ。
流石にそれは無いだろうと自分で自分を収め、静かに刀を鞘に戻した。
チンッと、一番良い音が響く様にして。
これだけは、何回も練習したのだ。
周囲に鈴の様に静かに響くこの音、やっぱ超恰好良い。
「“抜き捨て”御免。しかし、今回は少々派手にやり過ぎたか?」
刀を仕舞った俺の前に広がるのは、もはや爆発痕どころじゃない。
完全に不毛の大地が広がっていた。
すみませんでした、派手にやり過ぎました。
ペコッと頭を下げてから、普段住んでいる街へと踵を返してみれば。
「ムギさんっ!」
門の前で、太ももシスターが此方に向かって飛びついてくるのであった。
止めろシスター、捗ってしまう。
捗るとどうなるか分かるか、知らんのか?
爆発してしまうのだぞ。
「怪我してないですか!? 大丈夫ですか!?」
「ご安心なされよ、擦り傷一つ無いでござる。サキュバス共々、全て焼き払った。もう、大丈夫でござる」
そう言って微笑んでみれば、彼女は涙を浮かべながら更にくっ付いて来た。
だから止めてくれ、捗ってしまう。
「おっつかれぃ、ムギ。今回も派手にやったな?」
「スカイ殿……其方が協力してくれれば、ココまで派手にやる必要はなかったのだが」
「いいじゃないの、たまには派手で。それくらいしないと、周りは認めてくれないモノだぜ?」
軽い調子で彼は肩を組み、周囲へと視線を向けてみれば。
数多くの兵士や冒険者が此方に視線を向けていた。
あぁ、そうか。
彼は俺を認めさせるために、この役を譲ってくれたのか。
中二病を患っている彼にしては、随分と粋な図らいではないか。
むしろ普段の彼なら、率先して目立つポジションを取ろうとしたであろうに。
なんて事を思いつつ、抱き着いて来たシスターを下ろし、皆に視線を投げてみれば。
「お疲れさまです、ムギさん。本当に……ありがとうございます、私の我儘を聞いてくれて」
「ヴィナー殿……いえ、気にする事ではござらぬよ。拙者は、誰かに助けを乞われれば力になる。それが侍であり、武者であります故」
全力で格好付けながら言葉を紡ぎ、トンッと刀の柄を叩いてみれば。
「今日だけは、本当におっぱい揉んで良いですよ? 存分に、揉みしだいて下さい」
「良いんですか!? じゃぁ是非!」
両手を正面に持って来て、ワキワキと指を動かしながら担当受付嬢へと迫ってみれば。
「そういう演技は必要ありません! ムギさんはそんな人じゃない筈です! だから……わざわざ下品な真似をして普通ぶらなくて良いんです!」
すぐ近くにいたシスターが、杖? 錫杖? の様なモノを俺に向かってフルスイングして来た。
きっと彼女の中では、こういう態度も俺が空気を読んだ結果、として見ていたのだろう。
もしくは自分から、“周りを寄せ付けない為に”と行動しているとか思っているのかもしれない。
でも違うのだ、ヴィナーさんは大層ご立派なのだ。
だからこそ、そのたわわな果実を両手がガシッと掴み取ってみたかった。
しかしながら。
「ぐっはぁぁ……」
「ムギ……お前呪われてんじゃねぇの? もしくは童貞の神様の祝福だな」
スカイ殿からそんな事を言われてしまう程に、多少のタッチすら許して貰えぬ。
これだけの偉業を成し遂げたと言うのに、本人の許可が出たというのに。
現在俺は、そのたわわに触れる前に顔面に強打を頂いてしまったのだ。
無念……これだけ頑張ったのに。
天牙の在庫をセール処分品みたいに、殆ど使ったのに。
待っていたのは、顔面強打だったのだ。
人によっては、御褒美なのかもしれないが。
何たって太ももシスターからの一撃なのだ、食らいたい人間は多いかも知れない。
しかしそれ以上に、俺は今。
おっぱい、を求めていた。
「クッ! ヴィナーさん……この場ではアレですので、また後程……」
「許可を出したのは今だけですよ? どうします?」
「あぁぁぁぁぁ! あぁぁぁぁ! 揉む! 揉むからもうちょっと時間下さい!」
「ムギさん! いくら目立ちたくないからって、逆に悪い噂を流す必要はないんです! 大人しくしてください! あと、下品です! それに下らない噂が更に流れてしまうではないですか! 今は治療しましょう? ね!? 絶対疲れてますから!」
這いずる様にしてヴィナーさんに近寄ってみたが、アイリーンさんによって撃退された。
痛い、めっちゃ痛い。
思いっ切りぶん殴って来た上に、今では這いずる俺の背中に乗っかって来て居る。
同時に治癒魔法も掛けて来るから質が悪い。
まさかこの子、ヤンデレか!?
とか思いつつ、彼女に視線を向けてみれば。
「今回の仕事は、それなりに成果を残しましたよ? これが評価されてランクが上がったら、ムギさんと組めますね? それとも、貴方と同ランクになるまで組んでくれませんか?」
とても良い笑顔の神官さんが、ニコニコと微笑んでいらっしゃった。
間違いない、この子はヤンデレだ。
とんでもない爆弾を懐に抱え込んでしまった。
そんな事を思いながらも、背中に乗っかる神官さんの重みを堪能するのであった。
何はともあれ、大事は終わった……。
こう言うイベントが度々発生するから、異世界は気が抜けないのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます