第9話 目標と実績
「何故、こうも上手く行かぬのか……某は人を疑ってばかりで、信じる心を忘れていたようでござる」
「あぁいや、なんというか……すまん。アイツ等いつも金がねぇって騒いでるの見てたら、てっきり噂通りかと思ったんだが……マジでごめん」
何かのイベントかって程に、ポッと出たオーガを性玩具で爆散した後。
俺達は非常に渋い顔を浮かべながらボヤいていた。
だって、シスターが組んだ二人良い子だったし。
盗み聞きしていた内容が本当なら、彼等は実家と故郷に仕送りを繰り返していたからこそ出費が激しい。
喧嘩が多いのは事実の様だが、確かに故郷を潤す為に働いているというのに、知った顔で金の使い方をアドバイスされれば腹も立つだろう。
と言う事で、あの二人は無害。
むしろあの少女を気遣ってばかりいた。
それは俺からすれば非常に親近感の湧く童貞ムーブ。
可愛い女の子がパーティに入ったのだ、そりゃもう大切にするだろう。
何が何でも優遇しようとするだろう。
分かる、分かるよ。
何度そう言いたくなったか。
それくらいに、彼等は“紳士”だった。
俺の様な“変態紳士”と違って。
「でもさ、こんな街の近くにオーガって結構ヤバくね?」
「そうなのであるか? 拙者、見つけた相手は爆散して来たもので……近くに鬼が出ようが蛇が出ようが、全て排除してきたので良く分からん」
「ちなみに、最近この手の奴等見たか? ギルドに報告は?」
「少し前に、多分。ヴィナーさんには報告しているでござる」
「多分て、街の近くに巣でも拵えたのかねぇ。でもまぁ、ムギだけの話じゃ全面的に対処は出来ねぇわな」
そんな会話をしながら、肉片となったオーガを見つめていれば。
木々の奥から、幾多の巨漢が現れた。
ほう、コレはまた。
飽きもせず、多い事だ。
新人三人は運が良いのか悪いのか、先に出て来たのが一匹だけで良かった。
急にこの数に囲まれては、流石に逃げる事すら叶わなかったであろう。
そして間違いなく、このオーガ達は運が悪い。
こっちに居るのは、二人共チート組なのだから。
実力を隠す必要のある存在が周りに居ないのなら、一切負ける気がしない。
全て、塵に返してやろう。
「シスター相手に興奮したか? 悪鬼どもめ。生憎と拙者、そう言う薄い本は受け付けない主義でありまして。これより先は通さぬ」
「ハハッ、ムギは意外と硬派ってか? ま、新人の元へ行かせる訳にもいかんし。やるか、久々に。お前と組んでると楽で良いよ」
そう言いながらこちらは性玩具を、相棒は長剣を構えて一歩踏み出した。
相手にとって不足なし。
此方より遥かに巨大、そして軍勢。
で、あるのなら。
「先鋒は某が、誰かの後に続くのには慣れておりませぬ」
「OKOK、俺もムギの前に立つのは御免だ。後片づけはやってやるから、お好きにどうぞ? 存分に暴れな、侍」
それを聞いて安心した。
雑に爆破しても、彼が後に続いてくれる。
これだけで、安心感が段違いというモノだ。
何たって、“仲間の心配”をする必要が無い。
「では……“抜き”捨て御免」
そこら中を爆散しながら、相手の内を走り抜けた。
爆炎よりも速く、我が“天牙”の爆発よりも速く走れ。
そうすれば、全てが終わる。
残ったモノに関しては、“彼”が片付けてくれるのだから。
「ムギ! もっと残してくれても良いんだぜ!? 暇すぎて欠伸が出ちまいそうだ!」
「生憎と、調整が難しいモノで」
「だはは! 苦労するねぇ“爆炎”は!」
「“疾風”と呼ばれる其方が羨ましいでござるよ」
そんな言葉を交わしながら、俺達は戦場を駆け巡った。
爆撃、追撃。
ソレだけを繰り返し、見る見る内に相手の数は減っていく。
多分殲滅するだけなら、この組み合わせが一番効率的だろう。
しかしながら、こちらは変態。
俺と一緒に日々を過ごしていては、彼も何かといらぬ噂が立つ事もあるだろう。
だからこそ普段は、お互いある程度距離を置く。
しかし、こういう時に手を貸してくれるのは非常に有難い。
いざという時は、これ以上ない程頼もしい御仁なのだから。
そして何より、お互いに気を使う必要が無い。
強化された異常な個体なのだから。
「ウッヒョォォ! まさに、“俺等”ツエェェ!」
「あまり天狗にならない事を勧めるでござるよ。“こちら側”には、想像もつかない相手が居る。努々忘れぬ様、頭の片隅に置いておくでござる」
「わぁってらい! 次何かあった時は、ムギが俺に手を貸せよ!?」
「借り一つ、でござるな。必要があれば、拙者の刀を貴殿に預けよう」
「刀は要らねぇからお前を貸せ、戦力が桁違いだ」
「であれば言葉通り、某が足を運ぶ他ありませんな」
そんな会話をしながら、俺達はオーガの群れの中を駆け抜けた。
爆炎、烈風。
それらは全てを飲み込み、魔物達を全て焼き尽くしてみせた。
雑に爆発させても、続く烈風が威力を相手に向けさせる。
無駄な被害を出さずに、敵だけに威力を集中させている。
非常に効率的で、とても派手な戦闘になった事だろう。
しかしながら、俺が使っているモノは……哀しきかな、性玩具なのである。
相方と比べて、非常にどうしようもない見た目。
「諸行無常、俺色情。欲望投げるが、俺は虚無。この戦場に、残るは無情。いざ行かん、欲を枯らした虚無の大地へ」
「何で急にラップ? どうしたムギ、情緒不安定? いやちょっと俳句っぽいけど」
「たまには、バグりたくなるのでござる……こんなもので戦っている自分を客観視すると余計に」
ソレだけ言って、走りながら相手にオ〇ホを投げつけるのであった。
もう少しまともな能力であれば、恰好が付いたのであろうが。
哀しい事に、俺に出来るのはこの一点のみ。
まさに無情、異世界に来た瞬間社会的に殺された。
本当に、もう少しマシな能力はなかったのだろうか?
※※※
「ムギさん、お話があります」
「な、なんでござろうか……」
黒ストスリットシスターが、まさに怒ってますって顔を近づけて来た。
とても顔が良い為、威圧感の前に「うわっ、可愛い」ってなってしまい顔を背ける。
「結局ムギさんが影で見ているのなら、というかいざという時助けてくれるなら一緒に組んでいても変わらないじゃないですか! 確かに得るモノもありました、しかし戦闘という意味では貴方と組んでいた時の方が多く経験出来た気がします!」
「より多くの場面を経験しないと、人は育たぬ。そして仲間内の警戒も、怠ってはなりませぬ。互いに信頼を築くまでは」
「二人共良い人でしたよ?」
「確かに、超良い子だった」
そんな論議をかましている俺達。
現在はギルドの食堂。
彼女はパンとサラダにスープを頼み、まさに朝食という感じ。
そして俺はチーズ牛丼という、あまりにも存在その物を形にした様な食卓が繰り広げられていた。
朝から食べるチー牛うめぇ。
「凄く良い匂いがしますね、チーズの影響でしょうか?」
「そうかもしれませんな、一口如何ですかな? なんて、ハハハ。拙者の食べかけ等――」
「あ、良いんですか? では、お言葉に甘えて」
新人冒険者は、とにかく金が無い。
だからこそ、ギルドで飯を食う事が多い。
料理の種類は豊富であり、安い物で我慢しようとすれば、どこまでも食事のランクを落せるのだ。
その為、誰かから食べるか? なんて言われれば、間違いなく新人は食いつく。
分かっていた、分かっていた筈なのに。
何故俺は、先程の様な言葉を気軽に吐いてしまったのか。
元の世界で言えば、確かに彼女の朝食はバランスが良いと言える。
しかし我々は冒険者、“こちら側”の感覚で言えば些か質素な食事と言えるだろう。
そこにもっと早く気づいていれば、こんな事を言わずに最初から何か奢っていたのに。
「いや、あの……ですな」
「チーズが掛かっているだけで多少高くなっちゃうので、新人の間は色々我慢しようと思ってたんですけど……ムギさん、ありがとうございます!」
パァっと後光が差しているのではないかという程の笑顔を向けられらてしまえば、もう後には引けない。
そんな彼女は目を瞑り、此方に向かって口を開けてしまったでは無いか。
まさか、やれというのか?
この俺に、伝説の「あ~ん」を。
何たる難易度、恐ろしい程の背徳感。
だが間違えるな、俺。
彼女はただ、俺のチー牛が食いたくて口を開けているだけだ。
他意は無い。
だと言うのに、何故こう……あぁぁぁぁ! ってなるのだろうか。
馬鹿! クソ童貞! すぐ勘違いしそうになる!
なんて罵倒を心の中で自分に浴びせながら、此方のチーズ牛丼を一口大に取り分け、慎重に彼女の口まで運んでみれば。
「んんっ! 美味しいですね! ちょっと高くなる程度なら、私も今度から頼んでみましょうか……ご馳走様です、ムギさん」
「こちらこそ、御馳走様で御座います……」
彼女は良い笑顔を浮かべながら、俺が口に放り込んだ食べ物を普通に食べてくれた。
神よ、目を瞑って口を開けただけの彼女によからぬ妄想を浮かべたワタクシめに、今すぐ天罰を。
そう思ってしまう程に、アイリーンさんは楽しそうに食事を続けていた。
さて、切り替えて行こう。
このまま気にしていたら、絶対話が頭に入って来なくなる。
「えぇと、それで。他の人物とパーティを組ませた件でござったか?」
「ハッ! そうです! その件です!」
どうやら前回の依頼は失敗してしまったらしく、報酬を得る事は出来なかったとの事。
まぁオーガが出てきたのであれば致し方ないとは思うが、そこはお仕事。
しっかりと実績が残せなければお金は発生しないし、評価にも繋がらないと言う事で。
「正直に申し上げますと、ムギさんと組んでいた方が動きやすいです。前回は攻撃の暇もありませんでした」
「だが、それが同ランクと組む。という事でござるよ? その状況でも動ける様になれば、それは間違いなく成長と言える」
「でも死んだら意味がありません。前回はムギさんが付いて来てくれたから良いものの、普通なら死んでます。だったら私は、生きて稼ぐ為にムギさんの腰巾着と呼ばれようと気にしません」
「そこは気にして? お願い。むしろその状況になったら俺が辛い」
とんでもない事を言い始めたシスターは、感情に任せてパンを口に押し込み。
まるでハムスターかと思う程頬を膨らませながら、モソモソと咀嚼した。
多分不機嫌なのだろう。
そして、食べ終わった後。
「今はひたすら迷惑をかける存在ですが……どうかムギさんの元で経験を積ませては頂けませんか? 前回の様な形で死ぬくらいなら、私は……ムギさんのお役に立ちながら死にたいです」
何かもう、凄い事言い始めた。
外見二重丸、誰が見ても可愛いって程のシスターさんが、凄く必死に頭を下げておられる。
いや、ですから、俺と組んでばかりだとギルドからの信頼が……と、説明してみたのだが。
「要りません、そんなもの。ランクアップにどうしても必要で、そうしないとムギさんから離れないといけないって事態にならない限り、不要です。私は貴方に迷惑を掛けないかぎり、最低ランクでも良いと思っています」
凄い、この子。
意気込みを凄いが、覚悟が半端じゃない。
とにかく俺と一緒にする事が目的みたいに、男としては物凄く嬉しい事を言ってくれている。
しかし。
「いいか? 冒険者というのは、生きる事が正義だ。つまり、金を稼いで生きなくちゃいけない。この意味が分かるか?」
「先程の様な考え無しの発言は、控えろと言う事ですよね……」
哀し気な声を上げる彼女に対し、こちらは厳しい表情を向ける他無かった。
気持ちは嬉しくとも、現実はそう甘い話ではない。
実績を残し、周りから認められなければいつまで経っても初心者クエストを続ける事になってしまう。
それは彼女の未来を壊す事に他ならないのだ。
そんなもので生きていける程、冒険者という仕事も甘くはない。
「某は、孤独を進む武者。そんなモノに憧れては、其方の未来も寂しい物となってしまうのであろう。周りを良く見て、周囲に合わせる。そういう技能を身に着けるのも、世渡りのコツでござる」
それっぽい言葉を紡ぎながら、どうにかランクを上げる様促してみれば。
彼女はバッと顔を上げ、涙を溜めた瞳で此方を眺めて来た。
「私が強くなって、周りも認めてくれる様になったら……もう一度、私と組んでくれますか?」
「検討、してみるでござる」
その頃にはきっと彼女は仲間に囲まれ、俺と言う存在がどういう物なのか理解しているであろう。
しかし此方がそう答えれば、高みを目指してくれるというのなら。
しばらくの間だけ、彼女の目標となろう。
先の無い未来だと、理解してくれるまでは。
「今日も、昨日の人達に声を掛けてみようと思います」
「あぁ、それが良い。あの二人なら、きっと二つ返事で仲間に入れてくれる事でござろう」
それだけ言って、彼女は席を立った。
少しだけ寂しそうに見える背中を見送ってから、ふぅとため息を一つ溢してみれば。
「此方としては、彼女に未来の選択肢を与えてくれるのは有難いですが……随分と寂しそうですね、ムギさん」
「ヴィナーさん……」
受付嬢が、一枚の依頼書を持って近づいて来た。
そのままソレを此方に差し出してから。
「貴方と彼女は組むべきじゃない、とは言いませんよ? 私は。例え何と言われようが、それは彼女が選ぶ事です。それに、貴方自身も」
「しかし」
「でも、今日だけは正解ですかね。彼女を連れていては危険すぎる指名依頼です、ギルドからの。オーガの大群は流石に異常ですから、調査をお願いします」
ココの所彼女の心配ばかりしていたが、此方も此方でやる事が発生してしまった様だ。
久し振りに、大仕事だ。
オーガの群れの調査、現地の情報収集。
これ以上何か悪い事が起こる前に、こちらから一手を打っておくという下調べ。
流石にコレは、適当な気持ちで受ける仕事ではあるまい。
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