第2話
しかし、そんな彼女達でさえ我を忘れて楽しんでしまうことがあった。
「ねえ。くっつかないでくれる?」
「いやでーす」
鬱陶しい。そう腹の中で毒づく。
私と美沙は腕を組んだ状態で歩いていた。さきほどから好奇の視線に晒されている。
「あの二人、付き合っているのではないですか?」
「まさか」
「そのまさか、かもしれませんよ。珍しいことではないですから」
「確かに。うちの従姉妹も同性婚したばかりです」
「お似合いじゃないですか。応援しましょうよ」
囁き声が聞こえる。違う、と言い返しそうになった。ぎろりと睨みつけると、生徒達は気まずそうな顔で教室に入っていく。いちいち反応してしまう自分に情けなさを覚えた。
お嬢様学校の生徒達でさえ根も葉もない噂を楽しんでいる。育ちの良さは関係ないのだ。この世からゴシップの需要がなくならないわけだ。
私は自分と自分の好きなものに関する話題にしか興味がなかった。それ以外のことに時間を割くのは無駄でしかないと思っているからだ。
しかし、私みたいな考えの持ち主は少ないらしい。大多数が身近な人間や有名人の話題などに飛びつき、信じるにせよ疑うにせよ、自分の意見を添え、流布する。情報がたくさんの人間に拡散されたら、それが事実無根であったとしても、いつの間にか真実とされてしまうことがある。
今まさに、私が体験していることそのものだった。
「どこに向かってるの?」
訊くと、美沙は首を傾げた。
「さあ?」
「帰るわ」
「待ってください。今考えているところなんで」
腕に力を込めてくる。小柄で細身のわりに意外と胸があった。着やせするタイプらしい。
「絶対に帰しませんから。帰ったらわかってますよね?」
笑いかけてくる。
私は溜息をついた。例のものを手に入れるまでの辛抱だと自分に言い聞かせる。
ふと、中学時代のことが思い出された。
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