第3話「図書室の罰当番」
オレはやっと辿り着いた図書室のドアを、仕方なく開けた。
図書室へ来るのは、これが二度目だ。
一度目は、まだ高校に入学したてのころ、探検気分でちょっとのぞいた程度。お陰で校内の何処にあるのか、改めて確認することになった。
今までそれで、困ったことなどない。
卒業まで、縁のない場所かと思ってた。
うちの学校の図書室は、だいぶ広いと思う。オレが通っていた、小学校や中学校の図書室とはわけが違う。
まあ、そこは当然か。
小学生や中学生向け以上の、蔵書があるわけだし。区の市民向け図書館や、大型の図書館に匹敵するくらいだと思う。学校の理事長がイギリス人の血を引いているかなんかで、本の蔵書に力を入れているとかなんとか。
入学式で、学校長が偉そうに講釈をたれていた気がするが、正直、興味がなかったので、たいしたことは覚えていない。
まあ、とにかくうちの学校の図書室は“広い”ということだ。オレはその学校自慢の、だだっ広い図書室を改めて見渡した。
踏み台に乗って、棚の上の本を吟味しているやつ、コピー機を使ってるやつ、机に積み上げた本に埋もれているやつ、本棚にもたれかかって、本を熱心に読んでいるやつ、さまざまだ。
それなりに生徒に利用されているんだと、図書室と縁のなかったオレは、正直驚いた。オレは、入り口すぐ側にある貸出返却テーブルで、なにやら作業をしている、男子生徒に声を掛けた。
「あの、佐々木センセーから、言われて来たんだけど」
男子生徒は、鬱陶しそうにオレを睨むと、再び手を動かす。
「ああ、書籍整理の助っ人ね。奥の机に、担当いるから聞いて」
別にどっかの高級店みたいな、親切な受け答えを、期待していたわけじゃないが、おざなりなその男子生徒の態度に、オレはムカッと来た。
***
部屋の角を曲がると、一番奥の机に、女子生徒がボーと、窓の外を眺めながら、座っていた。
西日に照らされて映し出されるその姿は、ある種、幻想的と言えなくもない。
なんっつって。
てか、こいつ、どっかで見たことが。
オレは視力が悪いわけでもないのに、目を凝らした。
ああっ。思い出したっ。同じクラスの女子だ。クラスで一番の巨乳、
えーと名前は……
何だっけ?
悲しき男のサガか、城内百花の巨乳しか、頭に浮かばない。オレが頭をフル回転させていると、当の女子生徒は、オレの気配に気が付き、視線をこちらに向けた。
「相葉君? なに突っ立ってんの?」
「えっ、えっと……」
まだ、名前が思い出せない。
「もしかして、佐々木先生が言ってた助っ人って、あなた?」
「あっ。うん、そう」
オレは近づきながら、そ知らぬ顔で女子生徒の胸元を見やった。お世辞にも、そそられる胸とは言えない、じゃなくっ。胸元のネームプレートに視線をずらす。
“一年A組 三十九番
ああ、そうそう!
「渡辺が書籍整理とかいうのの、担当?」
「そうよ」
渡辺は窓のすぐ側にある、なにやら書類が散乱している机に向かい直した。オレは、渡辺を改めて頭から眺めて、がっかりした。渡辺は良く言えば、スラッとした体形だが、ぶっちゃけ貧相だ。
せめてこの担当図書委員が、超美少女か、スタイル抜群の女子か、城内百花みたいな巨乳……もしくは城内だったら、今日の惨めなオレや、これから書籍整理とやらを手伝わなければならない、オレの未来が、少しは慰められる気がしたのに。
世の中って、まったくうまくはいかないものだ。
つづく
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