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「そう言えば、ユリアとヘンゲル様は師弟なのですよね?」


 緊張をほぐす意味合いもかねて、リリィは積極的に二人に話題を振った。


「仰るとおりです」


 ヘンゲルが答えた。


「ユリアがよくあなたのことを話していました」


「ユリアは、他の弟子が持っていないものを持っています。剣術も、座学も、物覚えの良さは彼女が一番だった」


「よ、よして下さい師匠」


 師匠の言葉に、ユリアは気恥ずかしさを覚える。


「リリィ様、彼女は一人前の騎士です。その実力は、間近で見てきた私が保証しましょう」


 ヘンゲルは確信を持って進言した。だが、一方のユリアは納得していない様子だ。


「それは、買いかぶりです。模擬戦では未だに、あなたから一本も取れたことがないのに……」


「そう易々と弟子に勝ちを譲る師匠がいるものか」


 教え導く立場として、ヘンゲルにも矜持きょうじがあると、彼は言いたいのだろう。


 リリィは襲撃してきた者たちのことを思い返した。


「【惑星フラーの目覚め】……。彼らは、いったい何が目的なのでしょうか?」


 すると、ユリアが鼻を鳴らしたのが聞こえた。


「リリィ様に危害を加える愚か者のことなど、考えるだけ時間の無駄です!」


 ユリアは、ばっさりと切り捨てた。

 彼女の言うことを全面的に肯定するわけでもないが、リリィは頷いて見せる。


「確かに、彼らは我々を敵視し、打倒教団を掲げています。しかし、真に平和な世の中のためと言いつつ、暴力に訴えるやり方は間違っています」


 ですが、と言って、リリィはさらに続けた。


「彼らには、彼らなりの信念があるのではないでしょうか……?」


「信念!? 人の日常を壊すことを厭わぬ者たちが信念? はっ!」


 ユリアは、馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの反応だ。リリィと繋いだ彼女の手にも、無意識のうちに強い力が込められる。テロリストに対する彼女の憎悪が、そこにはあらわれていた。


「平和への一番の近道は相互理解です。しかし、私たち教団側も、教団の教えに背く者には容赦をしません。そんな我々の強硬な態度が、彼らを刺激しているとは考えられませんか?」


「リリィ様はやさし過ぎるのです! テロリストごときにかける慈悲など、一片たりとも不必要なのです!」


「でも……」


 本当にそういうものなのだろうか? ユリアに強い言葉でそう言われると、自分の認識が段々と間違っているような気がしてきた。

 リリィの常識は、所詮はゲーティ城内で見聞きする範囲に限定されている。それが彼女の知る世界のすべてだからだ。その外側にある世界の常識が、リリィの知る常識と、なぜ同一であると確信できるのか?


「それでも、私たちの明日みらいは、人のやさしさと善意によって支えられると信じています」


 少女たちの会話を黙って聞いていたヘンゲルは、水路の先を見て口を開いた。


「お喋りの時間もそろそろ終わりです。見えてきましたよ、出口が」

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