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 突如現れた刺客は、相手を翻弄する素早い動きでリリィたちに接近してきた。得物は一対の短刀だった。

 しかし、ユリアの持つ槍の間合いに対して短刀は不利なはず。それを理解してか、刺客は数度攻撃をした後すぐに距離を取った。


「貴様、何者だ!」


 ユリアの問いに、刺客が答えることはない。奇襲の優位性を捨てて無策に突撃した正面の刺客に違和感を抱いていると、背後からも、迫りくる同様の殺気を感じた。


──正面の刺客は陽動か!?


「リリィ、動くな!」


 とっさのことで、不覚にも主人を呼び捨てにしてしまった。ユリアは、身体は正面の敵に向けたまま、槍の矛先をくるりと反転させ背面へと突き出した。その瞬間、槍が腹を貫いた感触が手に伝わってくる。


「がはっ……」


 男のくぐもった声がした。


「ひっ!?」


 リリィは小さく悲鳴を上げた。いつの間にか、死角から、目と鼻の先まで接近していたもう一人の刺客に、彼女は恐怖して後ずさる。


 ユリアは、ぐったりとしたもう一人の刺客から槍を引き抜くと、血を払ってもう一度正面の刺客に構え直した。


「どんな小細工をしようが、騎士の前では無力だ。貴様のような悪党は、正義を前に屈するのだ!」


 残された刺客はなかなか攻めようとはしない。気配だけで的確に仲間を仕留められた光景を目の当たりにしたのだ。ユリアに怖じけるのも無理はない。

 それでも意を決したのか、刺客は声を上げ、自らを奮い立たせながら再度突撃した。


 ユリアは常に、刺客とリリィとの間に立つように位置取りながら戦った。敵は隙を見てユリアをすり抜け、背後にいるリリィを仕留めようと狙っているのがわかったからだ。


 騎士と言えどもユリアは、刃を通さない重厚な甲冑は身につけていない。彼女の戦い方は、師匠の影響を多分に受け、機動性を重視した独特なものだった。

 それゆえに、動きの妨げとならない必要最低限の防具だけを着用した軽装備を好んだ。


 だから刺客の持つ鋭利な刃物は、一撃一撃が致命傷となりうる。切っ先がかすめただけで皮膚を裂き、わずかな判断の誤りで肉を削ぎ落とされることだろう。

 ユリアには、一瞬の油断も許されない戦闘が続いた。


 刺客は存外に手練れであった。ユリアの研ぎ澄まされた突きの軌道を見極めると、短刀を交差させて受け止めたのだった。金属と金属がぶつかり合い、激しく火花を散らした。


 だが、ユリアには奥の手があった。突然彼女は、なんの躊躇いもなく刺客のほうへと大きく踏み込むと、槍の先端部分の装置を起動し引き金を握った。

 顔の半分を隠した刺客だが、その目が驚がくに見開かれる。

 瞬間、ユリアは勝利を確信した。


ぜろ……」


 槍の先端に備えつけられた銃口が火を吹いた。雷鳴にも似た銃声が響いたとき、刺客の頭部は跡形もなく吹き飛んでいた。


 ユリアの武器はただの長槍ではない。旧文明の技術を織り混ぜて試作された、散弾銃と槍が一体になった武具だった。装填できる弾数にこそ難はあるが、的確な場面で撃てば、文字通り切り札となりうるのだ。


 ユリアが銃身部分を前後に操作して吐き出された空薬莢が、石畳の上で跳ねてからんと音を立てた。

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