第61話



 全てを語り終えたルシアの目から大きな雫が一つ、また一つと溢れていった。

  

 「……すまない。久しく忘れていたんだがな。あの目玉の魔物せいでしっかりと思い出してしまったようだ」


 無理して笑うルシアを見て皆が押し黙っていたが、沈黙を破ったのは我等が特攻隊長ソフィアだった。


 「ふあぁぁ〜。よく寝た〜。あれ? みんなどうしたの? お葬式みたいな顔して? あっ! 分かった! どーせまたフォスカちゃんが……サノバビッチ!」


 ソフィアは死んだ。


 「……まったく。ソフィアには困ったもんだわ。それで、ヴォルはなんで兵士をやめちゃったのよ」


 しかし、フォスカのその質問はセカンドによって止められてしまった。


 「おい、お喋りはここ迄のようだ。すぐにそこの寝坊助女を起こせ」


 そう言うとセカンドはルクスを構えて立ち上がった。


 「どうしたのだセカンド殿、急に改まって」

 「そうよそうよ、もう少し休みましょう」


 察しの悪い二人に構わず、セカンドは魔王城の入り口に視線を向ける。

 すると城の中から、五メートルを超える巨大なゴーレムが身体に巻かれた鎖を引き摺りながらセカンド達の方へとゆっくりと歩いて来るところだった。


 「みんな! ゴーレムよ!」


 ヴォルヴァリーノの驚いた声を聞いて、のほほんとしていたルシアとフォスカも状況を把握した。


 「ヴァルさん、ゴーレムとやらの弱点と対策は知ってるか? 知ってるなら簡潔に教えてくれ」


 セカンドは今までに感じた事のない威圧感をあのゴーレムから感じっとっていた。


 「セカンドきゅん……。二十層にでる岩のゴーレムなら風属性の魔法を使えば簡単なんだけど……。あんな真っ赤な金属のゴーレムなんて知らないわ……」


 「そうか……。なら手当たり次第だな」


 セカンドは小手調べとばかりルクスのレーザー光線をゴーレムに発射した。


 しかし、予想通りと言うべきかゴーレムにレーザー光線は効果が無いのか、身体の表面に当たると拡散された様に消えてしまった。

 

 「セカンド殿! 離れて! 氷聖剣……スノウロンド!」


 宝剣に魔力を溜め終わったルシアが巨大な氷の聖剣を生成し、ゴーレムに向かって撃ち放つ。


 確実に当たると思われたその一撃は、迎撃されるでも無く、避けられるでも無く、予想外な方法で防がれてしまった。

 

 なんと、氷の聖剣がゴーレムに当たったと同時にルシア目掛けて高速で跳ね返ってしまったのだ。


 「ルシア! 危ない!」


 技の反動で棒立ちしていたルシアを、すかさずフォスカが押したおして危機を逃れた。


 「痛たたた。た、助かったよフォスカ。それにしても、今のはなんだ?」


 「分からないわ。確かめてみるしかないわね」


 そう言うとフォスカは爆弾型魔道具を取り出すと、ゴーレムに向かって投げ放った。


 フォスカの攻撃は跳ね返る事なくゴーレムに命中したが、まるで効果は無さそうだった。


 「硬いな……。中々に厄介な相手みたいだな」


 様子を伺っていたセカンドがそう呟くと、高速で動きながら自慢の銃達を順繰り順繰り発射していく。


 「グアァァァァォォ!」


 セカンドの猛攻の前に、流石のゴーレムも苦悶の声をあげた……かに見えた。

 しかし、晴れた土埃の先には傷一つ無いゴーレムの姿があった。


 「……コキュートスも、更にはデュポンも駄目か……」


 あのエンペラーガルムを瀕死に追いやった【超広範囲滅殺重砲デュポン】の重力グラビティ波動砲キャノンでさえダメージを与える事は出来なかった。


 「……聞け、小さき者共よ。我はこのの守護を任されている、悪魔大将軍のプロテゴスである……」


 まさか、喋ると思っていなかったゴーレムから腹の肝が冷える様な低い声を出して自己紹介を始めた。


 「そ、その悪魔大将軍が何の用事なのよ……」


 誰にでも強気なフォスカも、このゴーレムには強く出れないのか、か細い声になっていた。


 「フハハハ……。そう怯えるな小さき者よ。我の役目は数千年変わってはおらぬ……。それは……この悪魔城に侵入する不届き者を排除する事よ!」


 そう叫んだゴーレムが、自分の手首から垂れ下がる太い鎖を振り回してきた。


 「散れ!」


 セカンドの号令でルシア達は距離を取りゴーレムからの攻撃に備えた。

 

 しかし皆は忘れていた。

 ソフィアがまだ気絶中だと言う事を。


 「フォスカちゃん! ソフィアちゃんがまだ!」


 「あんの馬鹿!」


 フォスカが急ぎソフィアを回収に向かったが、それを見逃すほどゴーレムは優しくなかった。


 「まず一人目だ」


 殴りたくなるほどお気楽ないびきをかいているソフィアの上から、大木のような鎖が振り下ろされた。


 しかし、その一撃がソフィアを押し潰す事は無かった。


 「チッ……」


 「ふぁぁ〜。もうなんなんですかぁ〜? せっかくいい気分で……ああああ! セカンドさん! う、腕が!」


 セカンドは間一髪でソフィアを救い出す事に成功したが、代償として右腕は肘の辺りから吹き飛び、バチバチと音を立てて腕の中の機械が見えてしまっていた。

 

 「貴様あぁぁ! 咲狂え……千氷散花バロ・アンテ!」


 セカンドを傷つけられた事に激情したルシアが、尖った氷の花弁を数千と生み出しゴーレムに向かって撃ち放った。


 


 「馬鹿野郎!」


 



 セカンドが叫んだが時すでに遅く、ルシアの攻撃は全てルシアに跳ね返っていった。

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