第62話



「セ、セカンドど……の……?」


 急にセカンドに覆い被られたルシアは少し顔を赤らめたが、セカンドの背中に突き刺さる自身の魔法を見てすぐに顔を青くした。


 「フハハハ! 脆い……脆いぞ! 小さき者共よ!」


 ご満悦なプロテゴスは攻撃の手を緩め、見下した様な目をセカンド達に向けている。


 「OKだ……。coolに行こう」


 そう呟くと、セカンドは吹き飛んだ自分の手を探し拾い、それを付け根に合わせて右腕を再生させていく。


 「あ、あんた……。何よその身体……」


 フォスカがまるで化け物でも見る様な目をセカンドに向けたが、セカンドにそんな事を気にしている余裕は無かった。


 「ふむ……。貴様、ただの人では無いな? フハハハ! 面白い! かかって来るがよい!」


 「行くぞ……デカブツ。……コードNIN002……制限解除」


 セカンドの心臓部に埋め込まれているファースト・コアと言う永久機関が青く光り輝いたかと思うと、すぐに燃える様な赤に変わっていった。


 それに伴い、セカンドの身体中から余分なエネルギーが放出されてバチバチと雷電を放ち出す。


 「セカンド殿……。貴殿は一体……」


 しかしルシアの問はセカンドに届く事は無かった。


 次の瞬間、音を置き去りにして消えたセカンドはプロテゴスのデカい頭を蹴り上げていた。


 「ぬ、ぬぅ……。み、見えぬ……」


 憤ったプロテゴスが感を頼りにセカンドに手を伸ばすが、今のセカンドにとってプロテゴスの攻撃は止まっているも同然だった。


 「あまり小さき者人間を舐めるなよ?」


 いつもより少しばかり気性が荒くなっているセカンドが、サンドバッグと化したゴーレムの身体を打撃でボコボコにしていった。


 「ククク……アーハッハッハ! 強い! 強いな貴様! これ程の強さは勇者以来だ!」


 「そうか。それは勇者とやらも苦労しただろうな」


 セカンドは相手の会話に乗りながらも、この硬い相手にどう致命傷を与えるか模索していた。


 「うむ……。奴は強かった……いや、強すぎた。だが……貴様となら良い勝負が出来そうだ」


 そう言うとプロテゴスは自身を縛る鎖を全てねじ切った。

 すると楕円形だった身体が変形していき、まるで巨大な人の様な形の外骨格に変わっていった。


 プロテゴスの頭は角の生えたヤギの骨の様な形になり、その口からは瘴気の様な黒い煙が吐き出されている。


 「本当に悪魔みたいになりやがったな」

 

 「……では無い。我こそが! 悪魔大将軍赤反魔鉱の悪魔プロテゴスである! では小さき者よ……参る!」


 セカンドの速さに対抗出来るまで身軽になったプロテゴスが、捻じ切った鎖を青龍刀に変形させ、セカンドに高速で肉薄する。


 「調子に乗るなよ……」

   

 プロテゴスの猛攻を凌ぎ切ったセカンドは、右手にアグニス、左手にコキュートスを構えるとゴーレムに向かって連射した。


 アグニスもコキュートスも普段なら連射なんて真似は出来ないが、ファースト・コアの出力を上げている今の状態がそれを可能にしていた。


 「チマチマと……そんな攻撃、我には通じぬわ! それにしても、何故お主の魔法は跳ね返らんのだ? この赤反魔鉱に触れた魔法は例外無く……グハァッ! な、何が起こった!」


 プロテゴスは自身の吹き飛んだ左腕を見て呆然としていた。


 「知ってるか? 熱した物を急激に冷やすと爆発するらしいぜ? まぁ、多少コツはいるけどな」


 熱による膨張と、冷やす事による縮小が物質を破壊するという科学反応の初歩がプロテゴスの身体を破壊する事に成功した。


 「クックック……。アーハッハッハッ!」


 驚きの余り棒立ちしていたプロテゴスが吹き飛んだ左手を拾い、先程のセカンドと同じく付け根に合わせて左腕を再生させると、何処までも響く高笑いをあげた。


 それを見たセカンドも顔に笑みを見せた。

 

 そして……死闘は始まった。

    



───────


 


 「ルシア! もっと離れるわよ! ほらソフィアも!」


 人智を超えた化け物セカンドと悪魔の対決にルシア達は目を食い入るように傍観していた。


 「あ、ああ……。そ、そうだな。セカンド殿の邪魔になってはいけないからな」


 今日一日、セカンドの足を引っ張ってばかりのルシアが気落ちした様に呟いた。


 「ルシアちゃん、大丈夫よ。セカンドきゅんはきっと怒ってないわよ」


 「そうだよルシアちゃん! セカンドさんはすぐ手を出してくるけど、口も悪い……ですね? あれ? いいところある?」


 ソフィアは思考の迷路に迷い込んだ。


 「みんな正気なの!? さっきのアレを見てなかったの!? なんで千切れた腕がくっつくのよ! 何で身体が光って雷が出るのよ! もしかしたら魔族かもしれないのよ!? なんでそんなお気楽でいられるのよ!」


 フォスカの心からの叫びに、他の三人は温かい眼差しでフォスカを見つめた。


 「フォスカ……。セカンド殿が人間かどうかなんて、明日の朝ご飯よりどうでもいい事じゃないか……」


 「ルシアちゃん! 朝ご飯はどうでもよくなくないよ! 明日はミソスープとおにぎりを予約してあるんですから! それには……セカンドさんがいないとダメなんです!」


 「そうね……。ねぇフォスカちゃん、今私達四人がこうして笑っていられるのも……全てセカンドきゅんのおかげなのよ? その事実だけで、私は魔族とだって親友になれるわよ」


 みんなの思いを聞いて、フォスカの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。


 「み、みんな……ご、ごべんなざい。ま、魔族は……に、兄さんの仇だがら……づ、つい……。ほ、本当に……ごべんなざい……」


 涙と鼻水で破顔したフォスカを全員で抱きしめて慰め合った。


 しかし、そんなルシア達を現実に戻したのはこの世の終わりとも思えるほどの激しい爆発だった。


 「キャァ! な、なになに!?」

 「皆! 伏せろ! 何がとんで来るか分からんぞ!」


 ルシア達は地面に身体を擦り付ける様に伏せると、爆発で起きた黒煙が晴れるのを待った。


 「セカンドきゅん……。大丈夫かしら……」

 「大丈夫よ……。アイツなら……きっと……」


 

 しかしヴォルヴァリーノ達の願い虚しく、黒煙が晴れた先には、身体を半壊させたプロテゴスと、同じく身体の右半身が欠損して地面に倒れ込むセカンドの姿があった。


 

 

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