第60話
「何故魔族が神聖な王国の地に足を踏み入れている!」
ダリオが怒りのままにそう叫ぶと、出力を最大にした光の聖剣で魔族の女に斬りかかった。
「舐めるな! 人族め!」
「遅いわ! 魔族め!」
しかし、確実に当たると思われたダリオの一撃は、突如として乱入してきた仮面の男に防がれてしまった。
「サリちゃーん、ダメでしょ? ダメダメダメ駄目……。君じゃあ、そいつに勝てないでしょ? でしょでしょ?」
「も、申し訳ありません……」
仮面の男が魔族の女の髪を鷲掴みにして顔を持ち上げると、いきなり説教を始め出した。
まるで
「今の一撃を防いだだけで勝ったつもりか? 戦闘中に敵から目を離す愚かな自分を呪って死んでゆけ……。
ダリオは、いまだに説教を継続している仮面の男に向けて、岩石をも貫通する威力を持つ光のビームを数千と放つ。
「おや? おやおや? なーんでこんなに怒ってますの? まぁ、いいですわ。ほい、
仮面の男が自分の前に大きな黒い球体を作ると、ダリオの光のレーザーは全てその黒い球体に吸い込まれていった。
「やはり闇の属性持ちだったか。この魔物達を召喚してるのも貴様だな?」
「ピンポーン、正解正解ー。……で、こんな悠長に喋っていていいの? ええの? 大事な人が死んじゃうよ? 死んじゃう死んじゃう」
仮面の男が意地の悪い笑いを見せながらダリオの後ろを指差した。
「ふっ、そんな世迷言を……まさか!」
ダリオが敵から目を離さずに後ろに意識を集中させると、微かにだが女性の悲鳴の様なものが聞こえた。
「世迷言……迷い事……。迷子は誰かな? 行き先は天国? それとも地獄?」
「黙れ! 頭のおかしい馬鹿者が! 地獄に行くのは貴様等だ! 光滅せよ……
ダリオが使える最強の光魔法……
避ける事叶わぬ王臨光の青い光が段々と弱まっていくと、直撃を受けた仮面の男と魔族の女の姿は消え失せていた。
「正義の光に敵うもの無し……。はっ! 王妃様方はご無事か!?」
ダリオはすぐに来た道を戻り、王妃達がいる馬車の方へと駆け出した。
道中、沢山の魔物と部下達の死体が転がっているのを目にしたが、どの死体にも大きな切り裂き傷が付いているのが目についた。
「くっ、前に出過ぎたか……。ええい! 悔やむのは後だ! 王妃様ー! ルシア様ー! ご無事かー!」
ダリオが後悔の念を抱きながらも愛馬を走らせると、巨大な一匹の黒い地龍に襲われている王妃達の姿が見えてきた。
既に馬車は壊され、侍女長のキヤーナを中心に、運良く生き残った十数名の騎士達が地龍の猛攻を食い止めているところだった。
「貴方達! 固まってはいけません! バラけて目標を拡散させなさい!」
元宮廷魔術師であるキヤーナの実力を知る騎士達は、素直に指示に従い方々に散っていく。
しかし、そうはさせまいと地龍がその長い尻尾を振り回し始める。
「ぐはあっ!」
「た、助け……」
回避をしくじった騎士達は、地龍のその一撃で簡単に絶命していった。
「燃え尽きよ……
キヤーナの超級の火魔法が地龍の身体全体を巡る様に次々と燃やし始めたが、地龍の強靭な龍鱗には効果はあまり無いようだった。
「キヤーナ侍女長! すまない、遅れた! 追撃は任せて貰おう! ……
先程とは違い、範囲を絞った王臨光の青い光が、地龍だけを覆っていった。
「ダリオ騎士隊長! 護衛対象から離れて何処にいたのですか!」
王臨光の光に眩しそうにしながらキヤーナが吠えた。
「す、すまない……。少々浮き足だった様だ。だが、今は説教は勘弁……よ、避けろキヤーナ!」
その時、王臨光の光の中から飛び出して来た地龍が、その鋭い爪をキヤーナ目掛け振り下ろしてきた。
「ま、守れ! 炎層する……ギャァ!」
ダリオが反応する間も無く、地龍の爪がキヤーナの上半身を大きく切り裂いた。
「キ、キヤーナ!!」
「ま、待ちなさい! ルシア!」
キヤーナがやられたのを見た幼きルシアが、地龍がいるのも忘れて駆け出してしまった。
だがそれを確認した地龍がその無感情な瞳をルシアに向けて突進していった。
「貴様如きがルシア様に指一本触れられると思うな!」
ダリオは自身と愛馬を光のバリアで覆い、自らを光の弾丸と化して地龍に光速で突撃していった。
ダリオの突撃を喰らった地龍は身体をくの字にして大きくよろめいた。
「まだだ! こんなものでは終わらせんぞ!」
ダリオは剣を真っ直ぐに構えると、再度自身を光球に変え、地龍の心臓目掛け飛び出した。
反応する事さえ許されない光速の一撃が、地龍の心臓を深々と抉っていった。
自身の顔を地龍の返り血が濡らしていくのも気にせず、ダリオは更に剣を深く押し込むと同時に一気に引き抜いた。
地龍は立ったまま絶命したのか、その大きな身体を微動だにもしなかった。
そのままダリオは剣についた血を拭いながら、ルシアの元へと近寄って行った。
「ルシア様……こちらは終わりました。キヤーナは……」
「ダリオ……。キヤーナが……最後に……は、歯磨きを忘れるな……って……うえーーーん!!」
泣き叫ぶルシアに、自身の目頭も熱くなるダリオだったが、突然自分の腹を黒い爪が貫いた事に気がついた。
「ひ、姫様……。に、逃げ……て……」
「え? え? ダ、ダリオ?」
突然倒れた落ちたダリオに、何が起こっているのか分からなかったルシアだったが、地龍の低い呻き声が全てを教えてくれた。
「な、何で生きてるんだ……」
「ば、馬鹿! ルシア様を助けろ!」
「先に王妃様を逃がせ!」
生き残っていた数名の騎士達が行動を起こすが、地龍はそれを無慈悲に屠っていった。
「あああぁ! ル、ルシア! 逃げなさい!」
そして今まさに自分の母親が食われそうになっているのを見て、ルシアがキレた。
「ママから離れてーー!」
ルシアの艶のある金髪が、魔力の高まりにより銀髪へと変わっていく。
そしてルシアはその冷たく鋭い魔力を地龍に向けて放っていく。
氷漬けになった地龍は、今度こそその活動を完全に停止したようだ。
「みんなを返して……返してよ……」
魔力を使い果たしたルシアは、そのまま眠る様に倒れてしまった。
そして、そんな娘の力の一端を垣間見たサランバラは、複雑に心境を変化させながらも、愛おしそうに自分の娘を膝に抱いた。
「この子は……王国に変化をもたらす存在になるかも知れないわね……。魔族さん……貴方もそう思うでしょう?」
「あれあれ? 気づいてたの気づいたの? じゃあ自分が死ぬ事も知ってる? 知ってた?」
ダリオの王臨光によって消滅したはずの仮面の男が、いつの間にかサランバラの背後に立っていた。
「なら冥土の土産に、誰の差金か教えてはくれないかしら? それぐらいサービスしてくれてもいいでしょう?」
「ん? いいよ。─────だよ? じゃあねバイバイ」
仮面の男が容赦なくサランバラの心臓を剣で突き刺すと、空中に闇の渦を作り身体を入れると、すぐにその中へと消えてしまった。
「まさか───が……。ああ……私のかわいい娘……。さよ……なら……ルシア……。さよな……ら……カルバ……レン……」
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