第57話


 ホーキンスの骸骨が目に見えない魔力波を乱暴に放ちながら近寄ってくる。


 「セカンドさん! 気をつけて! そいつは多分です!」


 「そうか……。金持ちには見えんがな」


 セカンドは軽口を叩きながらも、勘だけで相手の見えない攻撃を避けていた。


 「そっちのリッチじゃないわよ! リッチって言うのは、生前、高位の魔法使いが───きゃあぁぁあ!」


 ホーキンスは最大限に魔力を高めると、まるで嵐の様な突風を生み出した。

 

 セカンドは何とか堪える事ができたが、普通の人なら立っていられない強風にソフィアとフォスカは激しく壁に叩きつけられてしまった。


 「ガーゴイル……コロス……ユルサナイ……」


 絶え間無く放たれる魔力による突風を、セカンドは地面に刀を刺して耐え忍んでいた。

 

 しかし敵の攻撃も無限には続かず、突風が止んだ一瞬の隙をついてホーキンスの骸骨をバラバラに切り刻んだ。


 「……ふぅ。中々厄介な奴だったな……」


 終わったと思ったセカンドが、壁に叩き付けられた二人の様子を見ようと振り返ると、バラバラになったはずのホーキンスの骸骨が再生を始めた。


 「……セカンドさん……う、後ろ……」


 ソフィアから放たれた微かな声を聞き取ると、セカンドはすぐに聖水が入った小瓶を取り出してホーキンスにぶっかけた。


 「アア……ヤット……ネムレ……ル……」


 聖水をかけられたホーキンスは、まるで浄化される様に塵になって消えていった。


 「ほんっとーに今日は散々だわ! アンタも、倒せるならもっと早く倒しなさいよ!」


 ほこりを払いながら文句を言ってくるフォスカに、セカンドはとりあえずチョップを喰らわせた。


 「ぷぷっ。フォスカちゃん怒られてるー……あわわわわ! セ、セカンドさん! 私は何も言って────」


 そしてセカンドは、一番の元凶たるソフィア馬鹿に特大の拳骨をお見舞いした。


 「たくっ、あの馬鹿ナビアより手間がかかるな」


 セカンドは目を回している二人を両脇に抱えると、すぐに飛行モードに移行して来た道を戻り始めた。


 


 ───────




 ルシアとヴォルヴァリーノは今、魔王城入り口手前のガーゴイルの銅像がある芝生の庭にいた。


 二人は罠に嵌った仲間を追って行ったセカンドの指示に従って、地下深くまで続く落とし穴の入り口が塞がらない様に氷魔法で抑えていた。


 「ルシアちゃん、魔力は大丈夫? もう結構経つけれど」


 ヴォルヴァリーノが襲いかかってきた大きな目玉に羽が生えた魔物を殴り飛ばしながらそう尋ねる。


 「余裕……と言いたいところだが、少々厳しいな。ヴォルも一人で魔物の対処は骨が折れるだろう」


 ルシアがそう言っている間にも、大量の目玉達が何処からか現れてはヴォルヴァリーノに押し寄せて来ていた。


 「……ふん! ふふっ、私は大丈夫よ。やっぱりセカンドきゅんが言った事は本当だったのよ」


 「……ふむ。魔物を倒す度に強くなるといったあれか……。過去にそういった論文を読んだ事はあるが……」


 その時、ヴォルヴァリーノが殴り飛ばした大量の目玉達が合体を始めた。

 合体が終わるとそこには、五メートルを超える目玉の化け物が誕生していた。


 「ヴォル! 避けろ!」


 巨大目玉がその眼球から黒い光を広範囲に放つと、ヴォルに向けて浴びせ始めた。


 「な、何よ……この光……は……」


 光を浴びたヴォルヴァリーノの目から生気が失われ、ルシアに向かって攻撃を始めてしまった。


 「ヴォル! や、やめ……正気に戻れ!」


 ルシアは攻撃を避けるために落とし穴から離れてしまった。


 ヴォルヴァリーノと巨大目玉からの攻撃に対処する為に、落とし穴に魔力をさけなくなったせいか、徐々に落とし穴の入り口が閉じ始めていた。

 

 「くっ、このままではセカンド殿達が……。し、しまった!」


 考え事をしていたルシアは、その隙をつかれヴォルヴァリーノの足払いを受けて体勢を崩されてしまった。

 そして、それを好機とみた巨大目玉が、今度は真っ赤な光をルシア目掛けて飛ばして来た。


 「お、おのれ! ……消え去れ! 氷聖剣……スノウロンド!」


 ルシアがありったけの魔力を使い、空中に巨大な氷剣を精製すると、巨大目玉に向けて撃ち放った。


 串刺しにされた巨大目玉は、今度こそその存在を塔に還していった。

 ヴォルヴァリーノも黒い光の効果が切れたのか、意識を失って倒れてしまった。


 「はぁはぁ……。お、終わったか……。そうだ、落とし穴が……ぐっ! あ、頭が……」


 最後に喰らってしまった真っ赤な光の効果か、突然ルシアの心を抑えきれないほどの怒りの感情が支配していった。


 「に、憎い……この世界の全てが……憎い!」


 ルシアは在らん限りの魔力で庭全体を凍らせていった。

 

 ヴォルヴァリーノすらも氷のオブジェと化し、落とし穴の入り口が完全に閉じようとしたその時、派手な音と共に落とし穴の入り口が弾け飛んでセカンドが飛び出してきた。


 「ちっ、一体何がありやがった」


 暴れ狂うルシアを見て、セカンドは原因を探すより気絶させた方が早いと、ルシアに対峙した。


 「憎い……憎い……。母様を殺した───が憎い……」


 ルシアが自慢の宝剣を鞘から抜き放つと、自分の周りに数百もの氷の剣を生成してセカンドに達に向けて撃ち放ってきた。


 セカンドはルクスを高速連射モードに切り替えると、向かって来る氷の剣を全て撃ち落としていった。


 「おい! 唐揚げ女! ヴォルさんの氷を砕け! あのままじゃ死んじまうぞ!」


 「は、はい! フォスカちゃんも起きてよー!」


 「何よ……うるさいわね……。って、ホントに何が起こってるのよ!」


 ギャアギャアと騒ぐ二人がヴォルヴァリーノの方へ行くのを見守ると、新たに巨大な氷の剣を生成しているルシアに向き直った。


 「憎い憎い憎い……。返して……母様と……キヤーナを返して……!」


 かつて、セカンドが愛と言う感情を教えて貰った存在と同じ顔を持つ人物ルシアから向けられる憎しみの表情を見て、セカンドの心は深い悲しみを感じていた。


 「アンタにそんな顔は似合わないな……」


 セカンドは巨大な氷の剣をアグニスの超高火力弾で消滅させると、刀の柄の部分をルシアのお腹に思いっきりぶちかました。


 しかし、ルシアは自分の身体を氷の鎧で覆っており気絶させるには至らなかった。


 「さっきから……邪魔をするなぁぁぁ!」


 

 ルシアの精錬された一振りがセカンドの頬を薄く切り裂いた。

 セカンドの頬はすぐに氷始めようとしていたが、メビウス合金が持つ自己修復能力のおかで次の瞬間には傷は塞がっていた。


 


 「やるな王女様……。いい機会だ、稽古をつけてやる」


 

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