第56話


 セカンド達が毒の沼地を出発してから十日、順調とは言えないが何とか塔を進んでいた一行に、最大の難所が待ち構えていた。


 セカンド達は毒の沼地を抜け、深い森を抜け、刺々しい山々に囲まれる魔王城の中に足を踏み入れていた。


 「ぜぇぜぇ……。どうして……こんな事に……」


 「どうしたも……こうしたも……ないわよ……! アンタの……せいでしょう……が!」


 ソフィアとフォスカは今、大量のゴースト達に追われていた。

 しかもどれもギルドの資料に無い高位のゴースト達だ。


 「わたし……は……悪く……ないよ! えい! お祓い鳥の夜泣きヘブンズボイス!」


 ソフィアの中級神聖術式がゴースト達の動きを一瞬止める事に成功した。

 二人はその隙に、丁度目に入った脇部屋に逃げ込んだ。


 「はぁはぁ……。何とかいたようね。ほんとに……アンタが変なボタンを押すからこんな事に……」


 「しょ、しょうがないよ……。ガーゴイルの銅像の鼻があんな形になってたら……普通は押すよ!」


 「……」

 

 二人だけが逸れた原因は、どうやらソフィアが城の入り口前にあった落とし穴の罠の仕掛けを押した事でこうなってしまったらしい。

 

 フォスカは怒りのままにソフィアを折檻したあと、今いる部屋の様子を見渡し始めた。


 「早くルシア達と合流しないと……。それにしても暗い部屋ね」


 「ちょ、ちょっと待ってね。えい、光球ライトボール!」


 ソフィアが生活魔法の光球ライトボールで部屋を照らすと、薄暗かった部屋の全貌が見えてきた。


 「うわっぷ。こんなに埃っぽい部屋だったのね。って、ぎゃー! 骸骨ー!」


 部屋の窓際の椅子に座っていた骸骨を見て、フォスカはソフィアに飛び付いた。


 「キャァァァァァ! ってかフォスカちゃんの顔の方が怖いよ! それよりあの本は何だろうね?」


 ソフィアが骸骨の膝に置いてあった本を恐る恐る掴み取った。


 「うわ、よく触れるわね。は、早く開きなさいよ」

 

 「もう、急かさないでよ。ひ、開くね……」


 本の中身は、誰かの日記のようだった。


 『1555年 火の月の5日

 塔の60層に辿りついたが、どうやら罠に嵌り仲間とバラバラにされてしまったらしい。

 くっ! ガーゴイルめ!』


 『1555年 火の月の10日

 あれからゴースト達の目を盗みこのフロアを探索してみたが、どこにも出口が見当たらない。どうやら、あの罠は対象を別の空間に隔離する罠だったのかもしれない』


 『1555年 火の月の25日

 もう食料が尽きた。私はもう長くは無いだろう。魔導王の再来と言われた、このホーキンスが……。仲間にも済まない事をした。破滅の悪獅子が纏う闇の衣を剥がす光の宝玉は私が持ったままだ。くっ、ガーゴイルの鼻さえあんな形でなければ!」


 

 日記はここで終わっている。


 

 「……馬鹿ね。うん、ホーキンスは馬鹿よ。待って……どっかで聞いた事ある名前ね」


 「うん、私もどこかで……あっ! 魔法学校の七代目の校長だよ! ホーキンス・ワイズマン!」

 

 しかしフォスカはもう興味がないのか、ホーキンスが着ている着衣から持ち物を物色し始めた。


 「あ、あったあった! これが光の宝玉ね! 他には……」

 

 フォスカが乱暴に骸骨の持ち物を漁っていると、不意に骸骨の目が青く光だした。


 「フォスカちゃん! 離れて!」

 「何よ、急に……きゃぁぁ!」


 ゆっくりと立ち上がったホーキンスの骸骨が手をゆっくりと前にかざした。

 

 すると部屋の扉が勢いよく開け放たれ、ソフィアとフォスカも部屋の外へと吹き飛ばされてしまった。


 「いたたたた……。フォスカちゃん、だ、大丈夫?」

 

 「大丈夫じゃないわよ! なんなのよ! ホーキンスのやつ! ……ん? なんか寒気がするわね」


 二人が恐る恐る後ろを振り返ると、先程撒いたはずのゴースト達が、待ってましたとばかりに襲いかかって来るところだった。

 

 「ぎょえあー! に、逃げ……ぎゃあぁぉ! こっちにもー!」


 「お、落ち着きなさいソフィア! って、私の方に来るんじゃないわよ! 食べるならソフィアを────」


 ホーキンスの骸骨とゴースト達に挟まれたソフィアとフォスカは、絶体絶命とばかりに抱き合って目を閉じていたが、いつまで経っても攻撃が来る事はなかった。


 「……どうしたのかしら?」

 「シッ! 喋ったらダメだよ! ……って、あれれ?」


 二人が恐る恐る目を開くと、ゴースト達はある一点を見つめたかと思うと、勢いよく視線の先にいる人物に襲いかかった。

 

 しかしその人物が振るう、水が滴る刀によってゴースト達はなす術なく成仏させられていった。


 「凄い効き目だな……。あの爺さんには今度礼を言いに行かんとな。あっ、こんな所にいやがったか。たくっ、世話かけさせやがって」


 自慢の愛刀に聖水を垂らしながら、セカンドがぶっきらぼうに言い放った。

 数百はいたゴースト達もほぼ壊滅して、後は片手で数えられる位にしか残っていなかった。


 「セ、セカンドさーん! お、遅いですよー!」


 「ふ、ふん! 来るならもっと早く来なさいよね!」

 

 これだけ迷惑をかけても全く変わらない二人の態度に、セカンドの口から溜め息が溢れた。

 

 「いいから戻るぞ。上の二人も待ちくたびれ────!」


 セカンドが残りのゴーストを処理し、フォスカ達の方へ歩き出すと、背後から来る強力な攻撃の気配を察知した。


 

 「……ガーゴイル……ユルスマジ……」


 


 見ると、ホーキンスの骸骨が怒りのままに魔法を撃ち放っているところだった。

 

 

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