第54話



 セカンドは、寝袋に入って休む四人を見ながら今日起きた事について思考を逡巡していた。


 「おかしい……。あまりにも出来過ぎている。同じ人物の危機を救う……あり得るのか? 偶然が三回重なれば、それは必然と言うらしいが……」


 セカンドは、今回の一連の流れがまるで誰かに仕組まれているかの様な不自然さを感じていた。

 ルシア達がこの階層にたどり着いた経緯は聞いたが、時を同じくして自分が同じ場所に飛ばされるなどあり得ないと、セカンドは結論づけた。


 「まるで、誰かが俺たちを引き合わせたいみたいだな……」


 「誰が……どうしたと?」


 セカンドの独り言に答えたのは、いつの間にか寝袋から抜け出してきたルシアだった。


 「眠れないのか? 明日も何が起こるか分からないんだ。しっかり寝とけ」


 「ふっ、セカンド殿だけに見張を任せておけないさ。そろそろ交代の時間かと思ってな」


 セカンドに睡眠が必要ない事を知らないルシアは、さも当然と言う顔でそう言った。


 「俺は過去に負った傷のせいで、睡眠の必要のないになっちまったんだ。だから気を使う必要はない。それより、本当に六十階層を目指すのか? 俺は、お前達だけでも戻る方が賢明だと思うがな」


 「それは何度も話し合ったじゃないか。セカンド殿は知り合いの病気を治すためにを探してる。私達は六十階層の階層主を倒したい。それで、その階層主の名前が……」


 「「破滅の悪獅子カタストロイオン!」」


 同時に階層主の名前をハモった二人は、堪えきれず吹き出してしまった。


 「破滅の悪獅子だぜ? めっちゃ黒っぽそうな名前だよな? いや……赤もいけるか?」


 「いや、セカンド殿……紫も捨てがたいぞ? って、そんな事を言いたいのではない! よーするにだ! 私が言いたいのは……」


 しかし、それ以上は言いづらいのかルシアは口淀んでしまった。


 「分かった分かった。しっかり護衛してやるよ。まぁ、目的が同じなら仲間は多い方が楽だからな。な……。足手纏いはいらないぞ?」


 「ふっ、言ってくれる。ならば足手纏いにならぬ様、お言葉に甘えてもう少し寝かせて貰うとするか。セカンド殿……。そ、その……お、おやすみ……」


 そう言って寝袋の方へ去っていくルシアを見送り、セカンドも余計な事を考えずに、塔を攻略する事だけに注力すると決めた。



──────

 


 翌朝、昨日の疲れが嘘みたいになくなっていた女性陣は、セカンドから振る舞われた朝食を食べ終えると出発の準備を整え始めた。


 「よし、そろそろ行くぞ。朝食の残り香に魔物が寄ってくる可能性があるからな。長いは無用だ」


 セカンドの指示にルシア達も大人しく頷いた。


 「賛成だ。それと昨夜も言ったが、今私達がいる階層は五十階層より上の階層の可能性が高い……。これより先は、未知の魔物と領域が我等を待ち受けるだろう。くれぐれも気を抜かぬようにな」


 「もう、分かってるってば! それよりどっちに向かうの?」


 フォスカの疑問にみんなも周りを見渡すが、360℃似た様な景色が広がっているだけだった。


 「ピリンキがいないんじゃドローンも飛ばせないしな……。しょうがないマッピングしながら地道に進むぞ」


 そう言うとセカンドは、飛行モードに切り替えて空に浮かぶと、何か進む先の目印がないか探し始めた。


 「ほえー、空を飛べるのは便利ですねー。私も、もう少しすれば上級の召喚術を会得できそうなのになー」


 「そう言えば……アンタのあの変な鳥のせいであのフードの奴を怒らせたのよね……。お仕置きよ……」


 ソフィアとフォスカが鬼ごっこを開始したのを見て、セカンドが空からゆっくりと降りて来た。


 「何やってんだあいつら……。ああ、王女様とヴォルさん、北北西の方向、数km先に森が見えた。とりあえず行ってみないか?」


 「わ、分かった。当てがあるだけでも気が楽と言うものだ。ヴォルもそれでいいな?」


 「ええ、勿論よ。そうと決まれば早速いきましょう。二人共ー! 出発するわよ……あれ? 二人はどこに行ったのかしら?」


 追いかけっこをしていたソフィアとフォスカの姿が無いのに気づいた三人が辺りを見渡したが、何処を見ても二人の気配を感じる事が出来なかった。


 「まさか!」


 何かに気づいたセカンドがすぐに目を赤外線モードに切り替えると、案の定透明なカメレオンに飲み込まれている二人を発見する事ができた。


 セカンドはすぐにルクスを取り出すと、カメレオンの眉間に向けて撃ち放ち、二人を救出した。


 「た、たひゅかった助かった……」

 「ゲホゲホ……。し、死ぬかと思ったわ……」


 激しく咳き込む二人を見て、セカンドはこめかみを抑えて溜め息をついたが、説教はルシア達に任せる事にした様だ。


 「……馬鹿者! あれほど気を抜かぬようにと言ったばかりじゃないか! 大体二人はいつもいつも────」


 般若の顔をしたルシアの説教に、セカンドはどこか懐かしい記憶が蘇ってきていた。


 「ルシアちゃん、それくらいにしてあげて。二人も十分に反省したわよ。それにあまり大きい声を出すと魔物が寄ってくるわよ?」


 ヴォルヴァリーノの言葉に、流石のルシアも溜飲を下げざるを得なかったようだ。

 

 「ぐぬぬ。まぁ、いいだろう。ほら、行くぞ二人とも。セカンド殿が言うにはあっちに森があるそうだ」


 「ええー。私、森は苦手なのよね」

 

 「私もですぅ。虫さんがちょっと……。はわわわわ! な、なんでも無いです! ほら行くよフォスカちゃん!」


 顔を鬼神に変えたルシアを見て、二人は我先にと逃げ出した。

 それを追いかけるルシアとヴォルヴァリーノを見て、セカンドは再度溜め息をついた。


 

 「やれやれ……。先が思いやられるぜ」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る