第53話


「おい、唐揚げ女。こいつにも回復魔法とやらを使ったのか?」


 セカンドが、筋肉質な男の身体を透視しながらソフィアに質問をした。

 セカンドの右目が青白く薄く光ると、筋肉男の内臓や骨などが見え始める。


 「だ、誰が唐揚げ女ですか! も、もちろんヴォルちゃんにも使いましたよ! でも……魔力が心元ないので、最低限にしか掛けてないんですぅ」


 ソフィアが暗い顔で俯きながらそう言った。


 「そうか。この、ヴォル……だったか? こいつは一体全体何をしたんだ? 身体中ボロボロなんてものじゃないぞ。最悪なのは、脳の損傷が激しい事だ。下手したらこのまま目覚めない可能性がある」


 セカンドの説明を聞いてソフィアは、ヴォルヴァリーノが最後に白黒の騎士に放った一撃を思い出していた。

 

 残り少なかったヴォルヴァリーノの魔力で、あれほどの一撃を繰り出すのに、とてつもない無理をしたのではないかとソフィアは予想した。


 「そ、そんな……。す、すぐに回復しなきゃ……。ち、治癒鳥の……あ、あれ? 治癒鳥の……。魔力がないよぉ……」


 発動しない魔法を泣きながら唱えるソフィアを見て、セカンドは額にチョップをくらわせる。


 「黙って座ってろ。俺がとっておきの薬を出してやるから」


 そう言うと、セカンドはリュックから再生薬を含めた、計五錠もの様々な種類の薬を取り出した。

 そして、意識のない人にも薬を楽に飲ませる事が出来るチューブ型のツールに薬をセットした。


 その時、ソフィアは血走った目を至近距離でセカンドに向けていた。


 「おい、そんなにガン見すんな。心配ならお前がやってみるか? そのチューブを口に入れて上のボタンを押すだけだ」


 そう言ってセカンドは、薬が入ったツールをソフィアに投げ渡した。


 「あわわわ。な、投げないで下さいよ! えっーと、この細長い部分を口の中に……。それからこの突起の部分を押すと……」


 少し手こずりながらも、ヴォルヴァリーノに薬の投与を成功したソフィアは満面の笑顔だった。

 

 薬を投与されたヴォルヴァリーノが少しの間身体を震わせると、目をカッと見開いて目の前にいたソフィアに殴りかかった。


 「キャア! ヴォルちゃん止め────」


 だが、その拳はソフィアに当たることは無く、セカンドによって軽く止められてしまった。


 「大丈夫か? どうやら記憶に混濁があるようだな……。まぁ、よくある事だ。すぐに治まるさ」

 

 少しの間、ヴォルヴァリーノは暴れようと全身に力を込めていたが、セカンドによって完全に押さえ込まれてしまっていた。

 

 「があぁぁぁ! 俺の仲間によくもおぉぉぉ……あ、あら? 私は何を……」


 「ヴォルちゃん!」


 完全に正気を取り戻したヴォルヴァリーノを見て、セカンドは押さえ込むのを止めた。

 そして先程再生薬を飲ませたルシアの方を確認すると、そちらの方も再生が終わりそうだった。


 「おい、お前ら。一度全員で情報交換といこう。進むにせよ、戻るせよお前らの考えを聞いてからでも遅くはないからな」


 セカンドの言葉に、新しく生えた足の調子を確かめようとジャンプしていたルシアが代表で返事を返した。


 「そうだな……。貴方には返したくても返せないほどの恩ができてしまった。我等に話せることがあるなら、喜んで話そうじゃないか。だがその前に……グギュルグギュウ〜」


 ルシアのお腹が口より早く返事をすると、セカンドは笑いを堪える事が出来なかった。


 「ハハハッ! 言ってなかったな。さっきの薬を飲むと、とてつもなく腹が減るんだ。ほれ、食い物ならたくさんあるから遠慮すんな」


 セカンドがリュックから色とりどりの料理を取り出して並べていった。

 激しい戦闘と傷の回復でカロリーを消費した女性陣は、我先にと料理に手を出していく。


 「美味しい美味しい! まさか塔の中でピザが食べられるなんて!」


 ルシアは周りの目も気にせず、豪快に料理をかっこんでいく。


 「ソフィア! アンタはさっきたらふく食べたでしょうが! それは私によこしなさい!」


 「ガルルルル! オイシイモノ……ワタサナイ……」


 もはや名物になりつつあるフォスカとソフィアの争いに、ルシアとヴォルヴァリーノも自然と笑顔になっていった。


 「てかアンタ、そのリュックのどこにこんなにたくさんの料理が入るっていうのよ?」


 「それだよ! 私も気になってたんだ! まさか伝説のアイテムバック……いや、アイテムリュック?」


 セカンドは驚いた、今までも何回かリュックから料理を出したが、誰にも突っ込まれなかったからだ。


 「まぁリュックにも色々機能はついてるが、料理はまた別だな。説明すると長くなるから、そういうもんだと思っといてくれ」


 料理を保管しているカプセルの事を説明するには、自分の出自まで説明する事になるので、セカンドは逃げを選択した。


 「まあ、貴重な魔道具を使ってるなら慎重になるのも頷けるな。二人共、あまり詮索しては失礼だぞ」


 「分かってるわよ。ちょっと気になっただけよ」

 

 ルシアに嗜められた二人は、何事も無かったように再度料理を食べ始めた。


 そして食事をしながら軽い自己紹介を終わらせた一行は、これまでの経緯とこれからについて話し始めた。


 


 「────そうか……。セカンド殿は、たまたま行き合ったアルス兄様の騎士小隊と行動を共にしていたのか。それを助けようとして……」


 「ああ、敵の攻撃とこっちの攻撃が派手にぶつかってな。その時に発生した爆発で、気付いたらこんな所に飛ばされたって訳だ」


 セカンドの荒唐無稽な話に、ルシア達も流石に懐疑的な目を向けた。


 「うっそくさいわね。本当は第二王子のスパイなんじゃないの? どうなのよ」


 「ぷぷぷ。フォスカちゃん、そんな聞き方して、『はい、スパイです』なんて言う人……ご、ごめんなさいですぅ! 誰か助けてー!」


 ソフィアは死んだ。


 「セカンドさんがスパイなら、私達なんて放っておけば済んだ話でしょ? それに、アンデルの友達に悪い人はいないわよ。この前アンデルがくれた薬も、セカンドさんがくれたんでしょ?」


 「そうだな……。それを言うなら、私達をエンペラーガルムから助けてくれたのも、セカンド殿……貴方だったんだな? 宙を舞い、あんな武器を担ぐ者は二人といまい」


 二人の詰め寄るような気迫に、セカンドは一つ溜め息をついた。


 「俺は、昔話はあんまり得意じゃないんだ。だから気にするな。それより、これからについて話し合いたいんだが……」


 セカンドの不器用な誤魔化しに、ルシア達は顔を見合わせて笑いあった。


 「セカンド殿がそれでいいなら、私達ももう何も言うまい。ただ……ありがとう」


 


 次々と下げられる頭を見て、セカンドは再度大きく溜め息をつくのだった。

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