第52話


「まあ、俺も昔は色々あった────『そんな月並みの言葉はいらないんですよ!』」


 「お、おう……」


 セカンドは、ソフィアの鬼気迫る気迫に負けそうになっていた。

 どうやらこのソフィアという女性は、とてもストレスが溜まっているようだ。


 「まったく……この前ガルムに殺されそうになったと思ったら、すぐに輪廻に襲われるし……。その後は大塔礼会議……修行もキツかったし……。えーい! やってられるかぁー! あのー店長! 唐揚げもう無いですよ! 早くして下さいよ!」


 セカンドは小さく『誰が店長だ……』と呟くと、無心で唐揚げを揚げ続けた。

 

 セカンドが大量に揚げられた唐揚げを貪り食うソフィアを睨んでいると、倒れていた女性達の一人が目を覚ました。


 「ソフィア……さっきからうるさい……。って、誰よその男……。ていうかなに一人で美味しそうな物食ってんのよ」


 「フォスカちゃん! もう大丈夫なの!?」

 

 楽しそうに会話をする二人を見つめながら、セカンドはこれからどうするかについて考え始めた。

 

 「進むべきか……戻るべきか……。こいつらはどうするか……。そうだ! ワープ装置があるじゃねぇか!」


 セカンドはすぐにリュックをあさってワープ装置が入っているカプセルを探したが、何故かいつも入れていた場所に入っていなかった。


 「っかしーな? 何処行きやがった? ピリンキのやつに預けたんだったかな……」


 最終的に、リュックをひっくり返してもワープ装置が見つかる事はなかった。

 そんな意気消沈しているセカンドに、会話を終えたらしい女性二人が話しかけてきた。


 「セカンド……さん……でよかったかしら? ソフィアから話は聞いたわ。仲間が世話になったみたいね。お礼を言うわ」


 「ああ、気にするな。俺は基本、気まぐれで動いてるからな」


 と言ったものの、いまだに唐揚げをリスのように頬張るソフィアを見て、セカンドは少し血管が浮き出てていた。


 「そう……。ならお言葉に甘えて、気にしないで質問するわね。本当なら恩人にこんな聞き方をしたくないんだけど……。貴方は何者なの? どうやってここまで来たの? 目的は何?」


 セカンドが、フォスカの質問にどうやって答えようか悩んでいると、さっきと同じカメレオンの魔物が数十もの群れをなして自分達を取り囲んでいる事に気がついた。


 「待て……。質問は後だ。走れるか?」


 「きゅ、急にどうしたのよ……。まだ万全じゃないけど、走るくらいなら……」


 「なら俺が合図を出したら走れ。……今だ! 行け!」


 セカンドがフォスカ達の進行方向にアグニスの超高火力弾を放ち、進路場にいたカメレオン達を消滅させていった。


 それに驚いたカメレオンの群れが、一斉に擬態を解いて姿を現した。


 「ど、どひゃー! いつの間に! デュクシ鳥二号と三号はルシアちゃん達を運んでぇぇぇぇ!」


 ソフィアはデュクシ鳥達に命令をすると、自分はデュクシ鳥四号に乗って我先に逃げた。


 「ちょ、ソフィア! まったくもう! アンタも早く逃げるよ! ほら!」


 セカンドは、フォスカから差し出された手を一瞥いちべつすると、逆方向を向いてルクスを構えた。


 「いいから行け。俺はこいつらを殲滅する」

 

 「馬鹿! ……勝手にしろ! あの遠くに見える枯れ木のとこで待ってるからね! 逃げるんじゃないわよ!」


 『気の強い女だな』とセカンドは一つ笑みを溢した。

 そして、まるでフォスカ達がいなくなるのを待っていたかの様にカメレオン達が満を辞してセカンドに襲いかかる。


 セカンドは最初、カメレオン達には手を出さずに攻撃を避ける事だけに専念した。


 「やはり、四十五層にいた時よりも更に身体のコントロールにブレが出るな……。一ミリ程度の誤差にまで修正しないと……」

 

 数分後には、紙一重でカメレオン達の鋭い攻撃を避け続けるセカンドの姿があった。

 十分に満足したセカンドは、もう用は無いとばかりにカメレオン達を殲滅し始めた。

 

 「肉は……いいか。早くあいつらを追わないとな」


 折り重なったカメレオン達の死骸から目を逸らし、およそ1km先に見える枯れ木に視線を移す。

 そしてすぐに飛行モードに移行すると、枯れ木に向かって高速で飛行した。


 「おっ、どうやら王女様も目を覚ましたみたいだな。ん? あの枯れ木……動いてないか?」


 女性達が寄りかかっていた枯れ木の枝が不自然に伸び始め、女性達と鳥達を捕獲しようとしていた。

 

 セカンドはすぐにアグニスを取り出すと、動く枯れ木に向けて撃ち放った。


 「きゃあぁぁぁぁ! なになに!?」

 「あ、あんた! いきなり何してくれてんのよ!」


 ソフィアとフォスカはまだ枯れ木が魔物だと気付いていないのか、宙に浮かぶセカンドに怒りをあらわにした。


 「待て二人共……。どうやらこの木は……トレントの亜種だったみたいだな。私達は彼に助けられたんだよ。それに……貴方は……」


 王女……ルシアは、宙に浮かぶ黒い鎧の様な物を着た黒髪の男に目を奪われていた。

 

 セカンドもその視線に気付いていたが、素知らぬ顔で地面に降り立った。


 「驚かせてすまない。その枯れ木が動いてるのに気がついてな。それよりあんた、足の方は大丈夫か?」


 セカンドがしゃがみ込んでルシアに目線を合わせると、ルシアは恥ずかしそうに下を向いて、視線を逸らしてしまった。


 「だだだだ、大丈夫だ! ソソソソ、ソフィアの回復魔法がよく効いてるから! ……だが、足が無いのはこの先不便だがな」


 そう自嘲気味に笑うルシアを見て、セカンドはお馴染みの再生薬を取り出した。


 「おい、口を開けろ」

 

 「きゅ、急になんだ……。こ、こうか?」


 セカンドは、大きく開いたルシアの口の中に向けて、再生薬を指で弾いて放り込んだ。


 「ゴクン……。な、何を飲ませ……があぁぁぁ!」

 

 「ちょ、ちょっとあんた! ルシアに何をしたの────」


 セカンドは、キャンキャンと吠えるフォスカの頭を二回ポンポンと叩いて黙らせると、いまだに目覚めない筋肉質な男の方へと向かい始めた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る