第51話


 セカンドは夢を見ていた。

 

 両親に捨てられ、一人孤独をさ迷っていた少年時代の頃の夢を。


 セカンドは人を憎んだ。

 

 セカンドは国を恨んだ。


 セカンドは世界を呪った。


 触れるもの全てが敵だと。

 そう思わなければ心が壊れてしまいそうだった。

 

 生きるために、犯罪にも手を染めた。

 

 しかし、一つ罪を犯すたびに自分の世界から光が消えていくのを感じ始めた。

 

 それでも、飢えを凌ぐためにと心に蓋をした。

 

 そんな日々を生きていると、遂にセカンドの世界は真っ暗になってしまった。

 

 「もういい……。暗い……真っ暗だ。どうやって歩けばいいのかも、俺には分かんなくなっちまった……」


 全てを諦めたセカンドは、飲食を止め、動くのを止め、ただ"死"が迎えに来るのを待った。

 

 しかし、セカンドを迎えに来たのは終わりではなく、希望始まりだった。


 

 「ふん、散々人様に迷惑をかけやがって。簡単に死ねると思うなよ? 少尉! こいつを連れて行け!」


 

 セカンドの世界に、再び光が差し込んだ瞬間だった。





─────────────



 「ぷはっ! ……緊急生命維持モードになるなんていつぶりだよ! そうだ、あいつらは……」


 スリープ状態だったセカンドが、今の状況を確認しようと辺りを見渡した。

 しかし、さっきまでいた雪原エリアではなく、草が生い茂る毒の沼地が広がっている事に気がついた。


 「嘘だろ? そうだ、ピリンキ……応答しろピリンキ」


 セカンドの体内に搭載されている無線機で連絡をとるが、応答は無しのつぶてだった。

 

 「くそ、どうなってやがる。……まぁ、ピリンキがいればあっちはどうにかなるだろ」

 

 そう呟くセカンドの背後から、擬態して隠れていたカメレオンの魔物が長い舌を高速で飛ばしてセカンドを捕獲しようとする。

 それに瞬時に気づいたセカンドは、サッと横に避けると、カメレオンの額をルクスで撃ち抜いた。


 「弱いな……。やはり、あのマンモスの強さは異常だな。それより、カメレオンって食えるのか?」


 好奇心に負けたセカンドは、プロ顔負けの技術でカメレオンを素早く解体していった。

 

 数十分後には、にこやかにカメレオンの肉を唐揚げにするセカンドの姿があった。


 「唐揚げにすれば大抵は美味いだろ! 少し硬めの肉だから本当は煮込みたいところ……気のせいか? 悲鳴の様なものが……」


 セカンドが聞こえた声を頼りに辺りを見渡すと、少し離れた所に巨大なワームに襲われている一行を発見した。


 「おお、やっぱり気のせいじゃなかったか。それにしてもデカいワームだな」


 セカンドがすぐに駆け出すと、ルクスのレーザー光線を複数発放ってワームの動きを止めた。


 しかし、襲われている女性はワームが止まった事に気づいていないのか、杖を無茶苦茶に振りながら目を回していた。


 「誰かあぁぁぁぁ! 助けてえぇぇぇぇ!」

 

 セカンドはそのまま高速で移動してワームの至近距離まで近づくと、持ち替えた【超圧縮空気砲銃エア】でワームの身体をバラバラに吹き飛ばした。


 「たくっ、うるせぇな。こっちは食事中だってのに」


 今まさにワームに捕食されようとしていた女性は、ワームの体液でびしょびしょになっていた。

 それとは真逆に、エアの反動で瞬時に距離を取ったセカンドの身体は綺麗そのものだった。


 セカンドが助けた女性は、しばしボーッとしていたが、急にせきを切ったように喋り出した。

 

 「……ハッ! あ、ありがとうございますぅ! 食べられちゃうところ……あ、あれ? あなたは……」


 「ん? どっかで見た顔だな……。ああ、思い出した。あんた、アンデルさんの店に食事に来ていたな。お仲間はどうしたん──」

 

 セカンドが喋りながら辺りを見渡すと、変な鳥に運ばれている傷だらけのルシア達を発見した。

 セカンドは衝動的に変な鳥からルシアを奪って抱き抱えると、ルシアの左足首から下がない事に気付いて顔を怒りの形相に変えた。


 「ル、ルシアちゃんを離し──『誰がやった?』」


 「えっ?」


 「誰がやったんだ!」


 セカンドの威圧に、泣きそうになった女性だったが、なんとか声を絞り出す事に成功した。


 「み、みんな……階層主に……。とっても強い……鎧の騎士で……。何とか……倒して……」


 セカンドは、女性のつきはぎの説明を聞いて、何とか状況を理解すると威圧を止めた。


 「……そうか。怒鳴ってすまなかったな。俺はセカンドだ。……よかったらあっちで一緒に休まないか? 丁度食事を作っていたんだ」


 食事、という言葉を聞いて、ソフィアは顔をほころばせて何度も頷いた。


 「い、いきます! ほらみんなダーッシュ!」


 「おいおい、仲間を置いて行くなよ……」


 セカンドは、いまだ自分の腕に抱かれているルシアを見ながら苦笑した。

 

 そしてすぐに先に行ってしまった女性を追いかけると、すでに女性と鳥たちはカメレオンの唐揚げを口いっぱいに放り込んでいた。


 「モグモグ……うーん、少し匂いがあるけど……バクバク……美味しい肉です……ムシャムシャ……」


 「デュクシ! デュクシ!」

 「デュンデュクデュクシッシー!」

 「……デュマイ美味い

 

 セカンドは少し既視感のある光景に頭を抱えそうだったが、何も言わずに追加の唐揚げを揚げ始めた。


 「なぁ、あんた……ここが何処だか教えてくれないか? 俺は四十五階層にいたんだが、気づいたらこんな所にいてな。少し困ってたんだよ」


 セカンドの質問に答えようとした女性が、無理に唐揚げを飲み込もうとして喉を詰まらせた。


 「み、水……。しにゅ死ぬ……」


 セカンドはまたしても頭を抱えながら、すぐにリュックからカプセルを取り出し、飲料水の入ったパックを女性に渡してやった。


 「ほら飲めサリナ」


 「ゴキュゴキュ……プハァ! た、助かりました! ……って、サリナってどこの女ですか! 私はソフィアです! ソ・フィ・ア!」


 「すまんすまん。どこぞのギルド職員に似てたもんでな。それより、落ち着いたんなら質問に答えてくれないか?」


 少し不機嫌なソフィアは、残っていた水を勢いよく飲み干した。

 

 「質問に答えたいのはやまやまですけどね! 知りたいのはこっちの方ですよ! 私達はですね! 本当なら……本当なら! 今頃、美味しいご飯に舌鼓を打っているところだったんですよ! それなのに……それなのに! どうしてこんな目にあわなくちゃいけないのー!!」


 


 セカンドは、怒りのままに叫び散らかすソフィアに、暫くの間呆然とするしかなかった。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る