第50話 ★



「ル、ルシアちゃん! ……テ、テメェ!! 俺の仲間に何しやがったぁぁぁ!!」


 怒りで我を忘れたヴォルヴァリーノが、己の生命力を燃やす禁断の秘術を使い、身体から赤い闘気オーラを発して白黒の騎士に突撃していった。


 「喰らい尽くせや! 赤龍の咆哮ドラグ・ロア!」


 ヴォルヴァリーノが発していた赤い闘気が龍の形に変わると、白黒の騎士に向かって突撃を開始した。


 赤龍の業火に焼かれた白黒の騎士は、身体を徐々に溶かされながらも動じずにヴォルヴァリーノの攻撃を受けきっていた。


 「く、クソ野郎が……」


 限界まで気力を使い果たしたヴォルヴァリーノは、そのまま気を失い地面に倒れ込んだ。

 それを見た白黒の騎士が止めを刺そうと、ヴォルヴァリーノの頭に尖った手を振り下ろした。


 「……?」


 しかし、振り下ろした手に手応えがなかった事を不思議に思った白黒の騎士が下を向くと、巨大なモヒカンが生えた中型の鳥がヴォルヴァリーノを担いで逃げているのを発見した。


 先程足を切り飛ばしたルシアの姿も、すでに遥か後方にあった。


 「騎士さん、騎士さん、油断は禁物だよ?」


 いつの間にか白黒の騎士の背後に接近していたソフィアが、フォスカから貰った紙を騎士の背中にペタリと貼り付けた。

 そのままソフィアは、デュクシ鳥に乗って全力で逃げながら紙に魔力を飛ばした。


 「頼むよフォスカちゃん……。これが最後の希望なんだから……。はあぁぁ……行けー!」


 ソフィアが紙に魔力を送った瞬間、激しく光輝いた紙から黒色の炎が柱の様に燃え上がった。

 黒い火柱に飲まれた白黒の騎士は、その身体をまるでバターのように溶かしていった。

 

 そして燃え続けること数分、黒炎の牢獄から逃れる事ができなかった白黒の騎士は、その身の全てを地獄の業火によって燃やし尽くされてしまった。


 「凄い……。まるで悪魔級の魔法……。あっ、いけない! みんなを回復しなきゃ!」


 ソフィアも雀の涙ほどの魔力しか残っていなかったが、仲間たちが死なない程度には回復する事ができた。


 「う、うーん。あっ、ソフィア……終わったの……?」


 ボンヤリと目を開けたフォスカが、力無くソフィアに尋ねた。


 「終わったよん! この私にかかれば、あんな敵ちょちょいのちょいだよ! でも……みんなが……」


 ソフィア以外の三人は、いくら回復したとはいえ見るも耐えないほどにボロボロになっていて、とてもすぐに出発できる状況ではなかった。


 「だ……駄目よ……。す、すぐにでも……行かなきゃ……。次の階層主が……復活しちゃうから……。私……も……手伝う……」


 フォスカはそう言い終わる前に、再度気を失ってしまった。

 ソフィアは周りを見渡すが誰も助けてくれそう人はいなかった。


 「……よーし! 頑張れソフィア! 私は凄い子! 元気な子! みんな! おいで!」


 ソフィアはなけなしの魔力でデュクシ鳥を三体召喚すると、倒れ伏す仲間達を慎重に運ぶように命令した。


 「みんな! あまり揺らさないようにね!」


 「デュクシ!」

 「デュクシ!!」

 「デュクシ!!!」


 列をなしたソフィアとデュクシ鳥隊は、白黒の騎士を倒した時に現れた扉に向かって歩を進めていった。

 途中、階層主が落としたドロップアイテムを、目を金貨に変えたソフィアが無言で回収していく。


 「デュフフフ……こ、こほん」

 

 デュクシ鳥隊にジト目を向けられたが、ソフィアは気を取り直して扉へと進んでいった。

 

 扉の前についたソフィアは、一度大きく息を吸うと、勢いよく扉を開け放った。

 

 扉の先は毒の沼地が広がっており、ソフィアが今まで体験した事がないほど禍々しい魔力に覆われていた。

 

 「み、みんな……私が先に行くから、ちゃんとついてくるんだよ?」


 しかしそのソフィアの歩みは亀より遅く、デュクシ鳥隊は何ともいえない顔を浮かべていた。

 

 「まずは休める場所を探さなきゃ……。それと魔物に見つからないように……。ああ、天聖女さま……ソフィアにご加護を……」

 

 ブツブツと何かを呟いているソフィアに代わり、デュクシ鳥隊は辺りを注意深く観察しながら歩いていた。


 暫く歩いていると、デュクシ鳥隊が十二時の方向から煙が上がっているのを発見した。


 「デュ、デュクシデュクシ!」

 「デュクシ! デュクーシ!」


 「どうしたの? 二号も三号もそんな慌てて……はっ! あの煙は……食べ物の気配! みんな! 行くよ!」


 空腹と、さっきまでの戦闘によって変なテンションになっていたソフィアは、ここが塔の深いところだという事も忘れて駆け出した。


 「デュデュクシー!」

 「デュンデュクデュクシー!」


 脇目も振らずに走り出したソフィアを、沼地に擬態した魔物が狙っているのに気が付いてデュクシ鳥隊が警告をだした。

 

 しかし、すでに目を肉マークに変えたソフィアは全く気が付いていなかった。


 「くんくん……肉の焼ける匂い……。やっぱり誰かいるんだ! ……えっ? ええぇぇぇぇ!?」


 ソフィアは、突然自分を覆った巨大な影を見て視線を上に向けると、鋭い歯を並べた巨大なワームが自分を飲み込もうとしているのに気が付いた。


 「だ、誰かあぁぁぁ! 助けてえぇぇぇぇ!」


 ソフィアの呼びかけに答えるかのように急に現れた謎の男が、右手に持った杖のような武器から何かを発射した。

 

 

 「たくっ……。うるせぇな。こっちは食事中だってのに」


 


 バラバラに吹き飛んだワームの体液を浴びながら、ソフィアは急に現れた黒い鎧の様な物を着た男に目を奪われた。

 

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