第49話 ★
「皆! 散って!」
ルシアの指示に従って他の三人も素早く回避を開始した。
幸いな事に敵の攻撃はさほど速くはなく、全員が余裕を持って避ける事ができた。
「一撃でも喰らえば終わりね……。でもヒットアンドアウェイなら死聖流暗殺術の
フォスカは、腰に付いている道具入れから複雑な魔法陣が描かれた紙を数枚取り出した。
そして正確なコントロールで騎士の手足に投げ付けた。
「フォスカちゃん! 今のなに!?」
「ふふん! いいから見てなさいよ」
騎士の手足にピタリと張り付いた紙が激しく光輝くと、もの凄い音と共に爆発した。
爆発を喰らった騎士は、地面に膝をつくと共に手に持っていた巨大な剣と盾を手放した。
「すごいすごーい! 流石はフォスカちゃんだね!」
「馬鹿ソフィア! 今がチャンスでしょ! 一気にたたみかけるわよ!」
「フォスカちゃんの言う通りね。私も全力で行くわよぉ!」
「ああ! 私の魔力はまだまだ大丈夫だ! 遠慮なく行け!」
ルシアの号令に続き、ソフィアが攻撃向上術式を全員にかけた。
そしてフォスカが、時限式の爆発型魔道具を倒れている騎士の身体中に仕掛けていった。
「みんな〜危ないわよ〜。連続……獅子突き! そして……獅子王
もの凄い跳躍をみせたヴォルヴァリーノが、天高くから獅子突きの連打を喰らわせていった。
そして追撃の、落下の速度をも味方につけたの渾身の一撃が、騎士の鎧全体に亀裂を走らせた。
「よくやったヴォル! 後は任せろ!」
ルシアは、巨大な騎士の全てを包みこめるほどの大きさの氷の棺を生成して、騎士をその中へと封じ込めた。
そして、それを確認したフォスカが、時限式の爆発型魔道具に魔力を送り始めた。
「後は仕上げを御覧じろってね」
氷で密閉された事により、逃げ場のなくなった爆発の衝撃が通常より更に威力を増した。
その結果、巨人の騎士は氷の棺と共に激しく、粉々に吹き飛んだ。
「痛っ! 痛たたた! もうフォスカちゃん! 氷の破片がこっちまで飛んできたよ!」
「何よ? 何か文句あるわけ? それに氷の文句はルシアに言ってちょうだい」
「はいはい、そこまでよ二人共。最後まで油断しないの。次に何が起こるか分からないんだから」
「ヴォルの言う通りだ。階層主らしき者を倒したのに出口も現れん……。それにあのフードの奴は何処に行ったのだ……」
ルシアの疑問に、他の三人も部屋を見渡したが、特にめぼしい物は見つからなかった。
「なんもないよー?」
「そうね……。あると言えばさっきの騎士が残した巨大な剣と盾だけ……ソフィア! 離れて!」
ソフィアが触っていた剣と盾が、二メートルくらいの人型の鎧騎士に変わると、ソフィアに襲いかかった。
「えっ? えっ? どうしたのフォスカちゃん?」
しかし、ソフィアは声をかけられたフォスカの方を見ていたせいで変形した敵の存在に気づいていなかった。
「ば、馬鹿! ま、間に合え……か、かはっぁ!」
敵の攻撃からソフィアを守ろうとしたフォスカの背中を、剣の騎士がその鋭く尖った右手で貫いた。
「フォ、フォスカちゃん! い、今回復を────」
しかし、動転しているソフィアにも敵の攻撃が容赦なく降りかかった。
「ソフィアちゃん! フォスカちゃんを連れて退がりなさい!」
今まさにソフィアの心臓を貫こうとした剣の騎士の攻撃を、ヴォルヴァリーノが寸でのところで受け止めた。
「ヴォル! 合わせろ!」
ルシアが、盾の騎士の猛攻を捌きながら叫んだ。
しかし強靭な硬さを誇る盾の騎士に攻撃が通じず、ルシアも少し焦りが見え始めていた。
「ルシアちゃん! 伏せて!」
「ヴォル! 後ろだ!」
剣と盾の騎士の高速の攻撃を、ルシアとヴォルヴァリーノも長年培ったコンビネーションで対応していった。
しかし、今一つ決定打が無いルシア達の戦闘は体力だけが削られていった。
「ダメね……。このままじゃジリ貧よ。ルシアの魔力ももう持たないわ……」
「フォスカちゃん! 喋っちゃダメ! まだ傷が塞がってないんだから!」
後方に退がって治療を受けていたフォスカが、息も絶え絶えになりながら、懐から一枚の小さな黒い紙を取り出した。
「本当なら……六十層で使おうと思ってたんだけどね……。これをあんたに預けるわ……。これを敵に貼り付け……て……」
フォスカは、最後まで言う前に気を失ってしまった。
「フォスカちゃん! フォスカちゃん! 死なないで!」
ソフィアがいくら呼びかけてもソフィアの意識は戻らなかった。
ソフィアは、フォスカから託された紙を握りしめ、治療を続けながら戦闘の様子を注意深く見つめた。
ルシア達と騎士達の戦闘は佳境に入っていた。
既に剣の騎士の身体はボロボロになっており、盾の騎士の身体にも少しずつ亀裂が入ってきていた。
「ヴォル! 決め切るぞ!」
「ええ! ルシアちゃん! 動きを止めて!」
ルシアが最後の力を振り絞り、騎士達の身体を凍らせていった。
そしてその隙に、ヴォルヴァリーノが全力の獅子王拳を喰らわせた。
ヴォルヴァリーノの全力の一撃を喰らった剣の騎士は、身体がバラバラになって崩れていった。
「やったわ!」
「待てヴォル! まだもう一体が!」
身体中ヒビだらけになりながらも、いまだ原型をとどめていた盾の騎士が、バラバラになった剣の騎士の身体と融合を始めた。
「う、嘘よ……」
「あ、悪夢だ……」
数秒後、ルシア達の目の前に、身体の半分が黒と白に別れた無傷の鎧騎士が再誕した。
そして白黒の騎士は、呆然としているヴォルヴァリーノの右肩を目にも止まらぬ速さで貫いた。
「ガアァァァ! に、逃げてルシアちゃ────」
ヴォルヴァリーノの忠告も虚しく、元々満身創痍だったルシアのお腹を、白黒の騎士が容赦なく切り裂いた。
「クッ! こんなところで……終われるかぁぁぁぁぁ!」
ルシアは瞬時に傷口を凍らせて止血すると、初代国王の宝剣に最大限に魔力を込めて白黒の騎士と打ち合った。
傷をつけてもすぐに治っていく白黒の騎士にも動じず、ここ二週間に叩き込まれた剣技をこれでもかと振るっていった。
「上段からの攻撃は……横に……。中段は受け止め……。できた隙に突きを……。ふふっ、剣術が楽しいです……師匠……」
ルシアは、段々と意識が朦朧としていくのを感じたが、身体は無意識にも人生最大のキレをみせていた。
しかし、そんな時間も長く続くはずもなく、受けの一手をミスったルシアの左足首を白黒の騎士が斬り飛ばしてしまった。
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