第48話 ★


「フォスカ……?」


 ルシアが、崩れ落ちたフォスカに震え寄ろうとした瞬間、次はソフィアが血を吐いて倒れ落ちた。


 「ソ、ソフィア! い、一体何が……。ヴォ、ヴォルは……」


 ルシアが後ろにいたヴォルヴァリーノを見やると、ヴォルヴァリーノは身体が萎びて干からびていた。


 「み、皆……。き、貴様か……。貴様がやったのかぁぁぁぁぁ!」


 ルシアは、ボロボロの玉座に座っている人物に向かって怒りのままに全力で魔法を放った。

 

 「皆の仇! くらえ! 千氷散花バロ・アンテ!」


 魔力で形成された、数えるのも馬鹿らしいほどの大量の氷の剣が、フードをまとった人物に襲いかかった。

 

 しかし、その攻撃はその人物に当たる直前に全ての動きを止めてしまった。

 そして、コントロールを奪われてしまった大量の剣の内の一本が、高速でルシアの心臓を貫いた。


 「かはぁっ……! く、悔しい……。み、皆……すまな……い……」


 薄れゆく意識の中で、ルシアの耳に聞き覚えのある呪文の詠唱が聞こえてきた。


 「幻影よ去れ! 聖鳥のお守りホーリーボール!」


 見ると、血を吐いて倒れたはずのソフィアが力強い詠唱を唱えているところだった。

 更には、ルシアの目に死んだと思ったはずの仲間が自分を守る様に立っている姿が映し出された。

 

 どうやら、ルシアが今まで見ていた光景は全て相手の魔法による幻覚だったようだ。


 「み、皆! い、生きてるのか!」


 「当たり前でしょ! ……って言っても、私達も今しがた正気に戻ったばかりなんだけどね」


 涙で顔がぐしゃぐしゃになっているルシアに向かってフォスカが笑顔を向けた。


 「みんな、心を強く持つのよ。心にも筋肉をつければ、あんな幻覚に惑わされる事はないわ」


 「もう、意味の分かんないこと言わないでよヴォルちゃん。私の防御術式があれば大丈夫ですー」


 いつもと変わらない仲間たちの姿を見て、ルシアも心を奮い立たせて立ち上がった。


 「ふっ、いつもいつも情けない姿ばかり見せてすまないな。どうやら、私はお前たちがいないとすぐダメになるらしい」


 ルシアたちが喋っている間に、今まで微動だにしていなかったフードの人物が何やら呪文を詠唱すると、全身鎧を装備した騎士の軍勢を召喚し始めた。


 「げえ、今日はよく大群に囲まれる日だね」

 「そうね。ソフィアの日頃の行いが悪いからよ」

 「はいはい、喧嘩しないの。ソフィアちゃんはバフをお願いね」

 「ふっ、ずいぶん余裕じゃないかお前達。頼もしいな」


 数百を超える鎧の軍勢が迫るなか、ルシア達は笑顔で迎撃の準備を終えた。


 「……いくぞ! 絆の氷アイス・チェイン!」


 ルシアの同調魔法リンクマジックにより、ルシアの膨大な魔力が仲間の三人に常に供給されるようになった。


 そしてルシアの千氷散花バロ・アンテが敵の前衛を破壊したのを合図に、激しい戦闘が幕を上げた。


 「ちょっとルシア! 私達の分がなくなるじゃない!」


 フォスカは俊敏に動きながら、小型の爆弾型魔道具を敵の鎧の中に的確に投げ入れて敵を確実に倒して回った。


 「フォスカちゃん凄ーい! はい皆んな! 受け取って! 上級能力向上術式……戦鳥の加護バトラール!」


 ルシアから送られてくる魔力のおかげで、ソフィアは魔力消費の激しい上級術式を惜しみなく使えるようになっていた。


 「ソフィアちゃん……凄いわね。力が溢れてくるようだわ。はあぁぁぁぁ……獅子突き!」


 中段に腰を据えたヴォルヴァリーノが、虚空に正拳突きを放つと、魔力で形成された獅子が拳から放たれ、鎧の軍勢の一角を喰らい尽くした。


 「みんな! こいつらさっきの輪廻の連中より全然弱いわよー!」


 破壊神のごとく活躍するヴォルヴァリーノに触発され、ルシアも気合いを入れ直した。

 

 「ふっ、私も負けてられんな!」


 ルシアは、持ち前の火力を全面に押し出し、無限に押し寄せてくると錯覚するほどの鎧の軍勢の半分を、一人で壊滅させていった。


 「皆んな! あと少しだよ!」

 「ソフィア! 回復、三秒遅い!」


 こんな時にでも喧嘩をする二人を見て、ルシアとヴォルヴァリーノも自然と笑みが溢れた。

 

 そして遂に、立ち上がってくる鎧の騎士がいなくなった。

 部屋の中はバラバラになった鎧の残骸と、いまだボロボロの玉座に座る謎の人物を残すのみとなった。


 「不気味な奴め……。一言くらい喋ればどうだ」


 「ルシア、ダメよ。あいつを挑発しないで。あいつはヤバイ……」

 

 「同感よ。あれを見てると、恥ずかしながら震えが止まらないわね」


 「でも、このまま立ち止まっていられないよ! 私にまかせて! いけ! デュクシ鳥!」


 先走ったソフィアが、巨大なモヒカンを携えた中型の鳥を召喚すると、謎の人物にむけて特攻させた。


 「馬鹿ソフィア! なにやって────」


 フォスカが止めるのも間に合わず、突撃していったデュクシ鳥は、謎の人物が放った強力な魔力波によって塵一つ残さず消し飛ばされてしまった。


 「デュクシ鳥ぃぃぃ!!」


 ソフィアの悲痛な叫びに構う暇もなく、今まで座っていただけの謎の人物が、少し怒りをみせながら立ち上がった。


 刹那、立ち上がれないほどの魔力の重圧がルシア達を襲い、ルシア達は地面に倒れ伏した。


 「ググッ! な、なんだ……こ、この魔力……は……!」


 「馬……鹿ソフィ……ア。あん……たが……怒らせ……るか……ら……」


 喋るのもやっとな状況が一分たらず続くと、不意に魔力の重圧が消え去り、自由になったルシア達は瞬時に立ち上がった。


 「あれ!? あの人はどこに行ったの!?」


 ソフィアの言葉に釣られて玉座の方を見ると、謎の人物は影も形も無くなっていた。


 「油断しないで! 何処から出てくるか分からないわ!」


 フォスカの言葉に皆が頷き、お互いに背中を合わせて死角なく身構えた。

 その時、部屋の床に散らばっていた鎧の残骸がワナワナと動き出した。


 「なに!? なに!? 次は何なの!?」


 しかし、誰もソフィアの疑問に答える事はできず、今起こってる状況をただ眺める事しかできなかった。


 「合体……してる?」


 鎧の残骸は、磁石のように次から次へとくっ付いて重なり合っていった。

 そして、最終的に十メートルを超える巨大な鎧の騎士が誕生した。


 「嘘……よね? これと戦うの?」


 「やるしかなさそうね……。みんな! 気を抜いたら死ぬわよ!」


 


 ヴォルヴァリーノがげきを飛ばすのと同時に、巨大な騎士が右手に持っていた巨大な剣を振り下ろしてきた。

 


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