第47話 ★


 転移の罠のおかげで何とか危機を脱したルシア達は、荒くなった呼吸を正そうと地面に座り込んで休憩をとっていた。


 「ロイロさん……大丈夫かな……」


 ソフィアがそう呟くが返事を返すものはいなかった。


 「ソフィアちゃん、先にルシアちゃんを回復してくれる? 私とフォスカちゃんは辺りを見てくるから」


 「そうね、どこに飛ばされたのかも分からないしね。すぐ戻るわ」


 悲しげに俯くソフィアを残して、フォスカ達は探索に出かけた。

 しかし、どこを見渡してもフォスカ達の記憶にある階層とは結びつく事は無かった。


 「ヴォル……あんたはここが何処か分かる?」


 壁にびっしりと備え付けられている青い炎を放つ松明を見ながらフォスカが問いかけた。

 

 「いいえ……。でも転移の罠なら何処に飛んでもおかしくはないわ……」

 

 

 幸いな事に辺りに魔物の姿は無く、一通り辺りを探索し終えたソフィア達は一度ルシア達の所へ戻る事にした。

 

 「あっ、ルシアも目を覚ましたみたいね」


 フォスカ達が戻ると、ソフィアに回復されたルシアが丁度目を覚ましたところだった。


 「フォスカちゃん! ヴォルちゃん! だ、大丈夫だった? すぐに塔から出れそう?」


 「無理ね。私もヴォルもここが何階層か分からなかったわ。ルシアは心当たり無い? ……ルシア?」


 フォスカ達がルシアを見ると、ルシアは顔を膝に埋めて塞ぎ込んでいた。


 「すまない……。私が王になんかなろうとしたばかりに……。お前達にはもう合わせる顔も無い……。それにロイロ殿まで……死なせて────」


 弱音を吐くルシアの頬を、ソフィアが思いっ切り叩いた。


 「謝るな! 前にもう謝らないって言ったばかりじゃない! ロイロさんだって、今のヘタれなルーちゃんのために犠牲になった訳じゃないよ! 本当に悪いと思ってるなら……王様になってから謝りなさいよ!」


 ソフィアに力いっぱいビンタされたルシアは一瞬呆然としたが、ソフィアの言葉に更に涙が溢れだした。


 「ソフィアの癖に生意気よ。まぁ、言ってる事は間違ってないけどね」


 「ふふっ、ソフィアちゃんも成長してるのね。……これは皆んなが落ち着くまで、動けそうにないわね」


 それから数時間後、ようやく落ち着きを取り戻し、ある程度回復も終えたルシア達は己の現状について話し始めた。


 「皆、心配をかけたな……もう大丈夫だ」


 まだ涙の跡も乾ききらぬ顔をなんとかつくろいながら、ルシアがそう言った。


 「もう、しっかりしなさいよ! ホントに……出会った時から変わらないんだから」


 「ルシアちゃんも、フォスカちゃんも、今は昔話してる場合じゃないよ! 私はね……お腹が空いたんだよ!」


 ズサーとずっこける三人を横目に、ソフィアのお腹の鳴る音が盛大に響き渡った。


 「でも実際、食料があまり無いのは問題よ? ここが何層かはまだ分からないけど、今ある分だけじゃ、とても出口までは持たないわ」


 ルシア達は、いつも塔に入る時に常備している二日分の食料しか持っていなかった。


 「狩るしか無いか……。どのみち塔を出るなら魔物との戦闘は避けられんしな」


 「えー? 魔物なんか捌けないよー。それに塔の魔物は倒したら消えちゃうじゃん」


 「馬鹿ソフィア……それは三十層以下の弱い魔物だけでしょ。四十層以上の強い魔物は暫くの間は消えないで残るって、ギルドの資料に書いてたでしょーが」


 フォスカの説明に、ソフィアは『そーだっけ?』と首を傾げた。


 「ほらほら二人共、何があるか分からないんだから、早く食べちゃいましょう」


 ルシアとヴォルヴァリーノはすでに干し肉を食べており、それを見たソフィアとフォスカも食事を開始した。


 四人は短く食事を済ませると、意を決した様に出口へと歩き始めた。


 「皆、いつ何処で何が襲って来るか分からないからな。気を引き締めてくれ」


 ルシアの言葉に、三人が言葉なく頷いた。

 

 「それにしても長い通路ね。他に道もないし……どこまで続くのかしら」


 壁に備え付けられている青い炎の松明の明かりだけを頼りに、長い一本道を歩くこと十数分、ようやく道の終わりが見えてきた。


 「扉……よね?」


 「ええ、それ以外に見えるなら治療院に行った方がいいわね」


 ルシアの質問に答えたフォスカの返事に、皆が笑った。


 「開けるしかないよね? 他に道も部屋もなかったもんね」


 「そうね……。もしかしたらここは、転移の罠でしか来られない、特別な階層なのかも知れないわね」


 ルシア達は少しの間、扉の前で固まっていたが、ルシアが意を決して扉に手をかけた。


 「行こう……。何があっても、お前達となら乗り越えられる」


 「ふふっ、当たり前よ。例え死神が相手でも負けるつもりはないわ」


 「流石はフォスカちゃん! 私はフォスカちゃんに任せて、ここで待ってる……嘘です! 嘘だからねフォスカちゃん!」


 「ふふふっ、絶対生きて帰りましょうね。生きて帰ってまた四人でピザが食べたいわ」


 軽口を叩きながらも、残りの三人もルシアに並んで扉に手をかけた。

 そして四人は頷き合うと、同時に力を入れて扉を開け放った。


 「暗いな……」


 開かれた扉の先は真っ暗で何も見えなかったが、ルシア達が一歩中に入ると大量の松明が燃え始め、部屋の中を照らし出した。


 照された部屋の中は、何処かの王城の中の広い一室の様な部屋で、みすぼらしい玉座がポツンとあるだけだった。


 「敵は何処にいるのよ……」

 

 「わ、わかんないよ……」


 「み、みんな! あそこに誰かいるわよ!」


 ヴォルヴァリーノの指差す方に視線を向けると、部屋の奥の方にあるボロボロの玉座に、茶色のフードをかぶった座っていた。


 その品定めする様にルシア達を見渡した。

 

 そしてルシア達にゆっくりと手をかざすと、何やら呪文を唱え始めた。


 

 「皆! 防御魔法を……えっ?」




 ルシアが指示を出した瞬間、右隣にいたフォスカの身体の半分から上がずれ落ちた。


 

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