勇気のメダリオン編

第45話 ★


 時は遡り、ルシアと仲間達は塔の十五層で修行の最終調整を行っていた。


 「殿下、お見事です。魔力を使わなくても二十層までの魔物なら、手こずる事も無くなりましたね」


 「ふふっ。ロイロ殿、世辞はよしてくれ。まだまだ師匠の足元にも及ばないわ」


 顔から滴る汗を布で拭きながら、ルシアはに染まった髪を結び直した。


 「ははっ、それは仕方ありませんよ。五神剣の名は伊達では無いのですから。あっ、ソフィアさんも終わったみたいですね」


 見ると、一対一でリザードマンとの戦いを終えたソフィアが澄まし顔でルシア達の所へ向かって来ていた。


 「恐ろしい……。自分の才能が恐ろしいわ……。ありがとう……私の天使……天聖女さま……」


 調子に乗りまくっているソフィアを見て、ロイロは『やれやれ』と首を横に振った。


 「ソフィアさん、あなたは後衛という事で、特別に一体だけなんですからね。ほら、見てみなさい。ヴォルさんとフォスカさんを」


 ヴォルヴァリーノとフォスカは、二人で二十体を超える魔物を苦も無く処理しているところだった。


 「まぁまぁロイロ殿、そこら辺で勘弁してやってくれ。私から見たら凄い進歩なんだ。あのソフィアが……」


 ルシアの脳内に、これまでのソフィアの失敗談が走馬灯の様に流れ出して少し涙が溢れた。


 「ルシアちゃん……ありがとうね、泣くほど喜んでくれて。ロイロさんも今日までありがとうございました」


 「いえ、師であるバルヒューム様の頼みですから。それより、今日の訓練が終われば……いよいよですね」


 そう言ってロイロは感慨深げに空を見つめていた。


 「今思えば、よくこの地獄を乗り切れたものだ……。何度死を覚悟した事か……。ロイロ殿、バルヒューム殿は明後日の出立に間に合うだろうか?」


 「殿下、安心して下さい。師なら何があっても間に合わせるでしょう。それは他の七聖様も同じです。そして我等も……」


 五神剣も七聖人も、その権力的な立場から様々な仕事を国から与えられていた。

 特に国境を守る五神剣に至っては、先の魔族との戦争も相まって長い間持ち場を離れる事が出来なかった。


 「すまない、自分でも分かってはいるんだ……。だが、言葉にしないと不安でな……。最近、毎晩夢を見るんだ……。皆に見捨てられ、一人塔をさ迷い……死ぬ夢をな……」


 そう呟やいたルシアの身体はブルブルと小刻みに震えていた。


 「大丈夫だよ、ルシアちゃん。何があっても、私達だけは側にいるからね。守って……水鳥の友愛ラバーズ……ほら、もう怖く無いでしょ?」


 ソフィアが唱えた精神安定術式が、ルシアを優しく包んでいった。


 「ソフィア……。ありがとう、もう大丈夫だ。そうだな……私にはお前達がいたな。ふふっ、少々頼り無い気もするがな」

 

 「あっ、ひどーい! ねぇ、ヴォルちゃん! フォスカちゃん! 今の聞いた!?」


 いつの間にか魔物を処理し終えたヴォルヴァリーノとフォスカが、ルシア達の元に集まって来ていたようだ。


 「ふん、頼りないのはソフィアだけでしょ。私は生まれ変わったのよ……。それとルシア、私達を馬鹿にしないで。私達があんたを見捨てる訳ないじゃ無い。……二度とそんな事言わないで」


 いまだ戦闘の余韻が残っているのか、フォスカが少し怒り気味に捲し立てた。


 「はいはい、喧嘩しないの。それに今日は、地獄だった訓練の記念すべき最終日じゃない。早く帰って美味しい物でも食べに行きましょうよ」


 ヴォルヴァリーノはこの短い期間も去ることながら、どれ程の鍛錬を積まされたのか、筋肉の張りと艶が凄い事になっていた。


 「うん、そうだな……。ヴォルの言う通りだ。美味い物を食べながら、一晩中私達の絆の強さについて語りあかすとしよう。フォスカもそれでいいかな?」


 ルシアの問いかけに、フォスカは恥ずかしそうに顔を逸らしながら頷いた。

 

 「殿下、良い友をお持ちになられましたね……。では、これで訓練は終わりとしましょう。今日、明日はゆっくり身体を休め、バルヒューム様達が集合する明後日に攻略を開始するとしましょう」


 ロイロの言葉にルシア達は嬉しい悲鳴をあげたが、ここ十五層から出る頃には夜になってしまうと溜め息ついた。


 「もっとこう……ビューンって来て、バヒューンって帰れる方法があればいいのにね」


 「あら、転移石があるじゃない。稀に宝箱からみつかるらしいわよ?」


 「ほら二人とも、おいていくぞ? それにフォスカ、転移石なんて本当にあるのか? 転移の罠ならよく話を聞くが」


 攻略者たちの間でもよく噂される転移石だが、噂だけが一人歩きして、いまだ実物を見たという者は名乗り出てきてはいなかった。

 

「何言ってんのよルシア、四十八層までたどり着いたSランクパーティーの【深淵】が無事に帰ってこれたのも、その転移石が……っみんな! 伏せて!」


 全員がフォスカに問いただす事もなく、瞬時に指示に従って身体を低くした。

 この短い期間に、フォスカが斥侯として目まぐるしい成長を遂げていたことを、ここに居る全員が知っていたからだ。


 そして、今さっきまでルシアたちの頭があった場所に、高威力の魔力弾が数十発と通り過ぎていった。


 「きゃあ‼ 何なのよ―! 守れ……硬岩鳥の雄叫びロック・バラード!」


ソフィアの中級防御術式がルシア達の防御力を向上させていった。


 「皆さん、第二波が来ます……備えて下さい」


 ロイロがルシア達の前に立ち剣を構えるとと、立ち昇った土煙の向こうから放たれた魔力弾を全て切り裂いた。


 「みんな! 後ろからも来るぞ!」


 ルシアが背後から迫って来ていた魔力の矢を弾きながら叫んだ。


 「横からも……いや、囲まれてるわ!」


 フォスカとヴォルヴァリーノも油断無く攻撃を捌いていく。

 そしてルシア達は死角が無い様に円になって次の攻撃に備え出した。


 「攻撃が来ない……?」


 立ち込めていた土煙が晴れると、不明だった敵の正体がルシア達の目に入り込んで来た。


 


 「り……輪廻……」




 

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