第42話
「ナビア、てめえ! 早く元に戻せ!」
「無理でーす! 魔力が切れるまで戻れませーん!」
格好こそ違えど、同じ顔形で鬼ごっこを始める二人に、ピリンキは深い溜め息をついた。
「やれやれ。先程、Ms.ナビアの態度が神妙だったのはこの為だったのですね。おや……あの火の灯りは……」
トナカイの姿に変わったピリンキが、吹雪で視界が狭い中に数十もの松明の灯りがこちらへ向かっているのを確認した。
そして、その灯りを持った集団がセカンド達の存在に気付くと、行進を止めて綺麗に整列して止まった。
「黒い鎧を着た少女に……トナカイと珍妙な……魔物なのか?」
「隊長、どうします? 殺りますか?」
集団の中から出てきた二人がセカンド達の目の前まで来ると物騒な会話を繰り広げ出した。
フードで顔が隠れているせいで性別は分からないが、声色からして女性の様だった。
「まぁ、待てよ。そっちのトナカイは俺の相棒でな。そっちの魔物は処分していいぞ」
「お待ち下さい、騎士様。私は魔物ではありません」
ナビアがフードを取って顔を見せると、疑いの目を向けていた二人も矛を納めた。
「ふむ、双子か。それよりも貴様……何故、我等を騎士と呼んだ?」
「はい。私とそこにいる妹は、昨日の晩に第二王子の騎士を名乗る、バルトロという男とその部下二名の手当てをさせて頂きました。その時に少しお話しをさせて頂いたので……」
猫を被りまくっているナビアの話を聞いて、恐らく第二王子の手の者であろう二人が頷き合うと、フードを取って顔を披露した。
「……バルトロが世話になった様だな。お主の言った通り、私はこの第二小隊を預かる一等騎士のスイレンだ」
スイレンと名乗った騎士は、長い白髪を後ろで束ねた長身の女性だった。
「隊長の補佐を務める、二等騎士のニーナです」
未だに疑いの眼差しを向けてくるニーナと名乗った騎士は、少し小柄ながらも薄桃色の髪がよく映える綺麗な女性だった。
「これはご丁寧に、私はナビアと申します。これは妹のセカ子。そちらのトナカイはモンタピレーテですわ。それで騎士様達はどうして入り口に戻って来たのですか?」
「なんだと! ここが入り口だと! ほ、本当だ、扉がある……」
どうやらスイレンとその部下達は扉の存在に気付いていなかった様で、それまで毅然と整列していた兵士達も気力が切れたのか、膝を地に着き始めた。
「馬鹿者共! 立たんか! すぐに殿下を追わねばならんのだぞ!」
しかし、ニーナの号令も虚しく、兵士達は誰一人として立ち上がる事は無かった。
「スイレン……さん、上官なら部下の命に責任を持つべきだ。ここで無理をさせたら……必ず死人が出るぞ」
今まで黙っていたセカンドが真剣な眼差しを向けてそう忠告した。
スイレンは一瞬迷う素振りを見せたが、セカンドの意見を受け入れた様だ。
「聞け! ここで暖をとる! 雪で防風壁を築け!」
スイレンの号令を聞いた兵士達は、少し活力が戻ったのか、雪をドーム状に形成して中をくり抜いて作るかまくらを築き始めた。
「スイレン様、何もこんな寒いエリアではなく、火山エリアで休憩すればよろしいのでは? 扉も目の前にある事ですし」
ナビアの誰もが思い付きそうな提案に、スイレンは首を横に振った。
「我々は急ぎ殿下を追わねばならん。それに、その扉を開けると言う事は、また階層主と戦わねばらならんと言う事。我等だけでは……無理だ」
ナビアは忘れていた。
余りにも楽勝にセカンド達が塔を攻略するものだから、一般的な者にとって如何に塔が過酷で無慈悲なものであるのかを。
「失礼な事を聞いてしまいました。お詫びと言ってはなんですが、こう見えて妹は各地で集めた珍しい魔道具を持っていますの。きっと、この吹雪の中でも天国にいるかの様に休憩出来る魔道具も持っているはずですわ」
ナビアの『あんだろ? 出せよ?』的な血走った目を向けられ、セカンドは渋々ながらピリンキに合図を出した。
「仕方無いな。皆、上を見てくれ」
セカンドに言われ、そこに居た全員が上を向くが、雪が目に入って瞼が自然と閉じてしまった様だ。
その隙にピリンキが宇宙船から持って来ていた、【移動型マイホーム】のハウスちゃんをカプセルから取り出した。
「な、な、な、な、何なのこれはー!! ちょ、ちょっとセカ子! 何なのよコレはー!」
「な、何故ナビア殿が一番驚いているのだ? それにしてもこの魔道具は凄いな……」
【移動型マイホーム】のハウスちゃんは、部屋数五十を超える超大型屋敷モデルだった。
屋敷の中には、屋敷を管理する数多のロボット達が備え付けられている超高級品だ。
「ほら、皆んな中に入れよ。ニーナさんも、いつまで呆けてるんだ?」
「ほ、呆けてなどいません! 少し驚いただけです! 全員、駆け足! 遠慮はいらん、お邪魔させて貰うぞ!」
ニーナが兵士達に号令をかけると、兵士達は我先にと屋敷へと突撃して行った。
「セカ子殿、部下達が申し訳ない。しかし、本当にお邪魔しても宜しいのか?」
「今更ダメなんて言えないだろ。それにあんたの顔も真っ青だ。もう限界なんだろ? 早く中に入んな」
セカンドに促され、スイレンは礼を言いながら屋敷の中へと歩いて行った。
少し遅れて、セカンドとピリンキも屋敷中へ歩き始めた。
ナビアを雪だるまの中に埋めた後に……。
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