第41話


「今よ! マグマは今、あの青い岩の効果でとても不安定な状態になっているの! さあ、あそこに氷属性の魔法を撃ち込んで!」


 ナビアが仰々しく手を前に出しながら叫ぶ姿を、セカンドとピリンキは白い目で見ていた。


 「Ms.ナビア……私達には魔力が無い事をお忘れで?」


 ピリンキの言葉を聞いたナビアは、自分の手の平をポンと叩いて一目散に逃げ出した。


 一分後、先程よりさらに頬を腫れあがらせたナビアが地面に倒れていた。


 「仕方無い……虎の子とっておきを使う」


 ナビアを成敗し終えたセカンドがそう呟くと、自身の腕に搭載されているカプセルホイホイから、一つの大きな銃を取り出した。


 「ねぇセカンド、それは?」


 いつの間にか回復したナビアが、取り出したばかりの銃をベタベタと触っていた。


 「こいつはコキュートスだ。少しクールな奴だから取り扱いには注意しろよ」


 そう言うと、セカンドはすぐに飛行モードに切り替えて空を飛んだ。

 そして階層主のヴォルケーノ・ドラグフィッシュを真上から見下ろす位置で停止したセカンドは、【瞬間氷結銃コキュートス】の銃口を真下に向けた。


 「モンタピレーテ、あの武器は何なの?」

 

 「……あれはセカンドが持つ、六つの銃のうちの一つ、瞬間氷結銃コキュートスです。完全に均一な波長のレーザーを発射する事で冷凍効果を得る事が出来ます」


 『なるほど……』とナビアがまるで全て理解したかの様な雰囲気をかもし出しながらセカンドの方を見ると、今まさにコキュートスの引き金を引こうとしている所だった。


 「充電率……98……99……100……チャージ完了。いけるな? コキュートス」


 セカンドが引き金を引こうとした瞬間、今までマグマの中を回遊していたヴォルケーノ・ドラグフィッシュが宙に浮くセカンドの存在に気付き、もの凄い勢いで飛び出して来た。


 眼前まで迫った階層主の牙がセカンドに届くまで後一歩に迫ったところで、セカンドはコキュートスを発射した。

 

 発射された冷凍ビームならぬ、冷凍レーザーが階層主とその下にあるマグマの海を瞬時に凍らせていった。


 「……凄い。王級……いや神級くらいの威力がある」


 遠目から見ていたナビアの目に、氷漬けのオブジェとなった階層主が、凍ったマグマの地面に叩きつけられてバラバラになる姿が映し出された。

 

 「終わりましたか。しかし、途中で出会うと思っていた第二王子達はいませんでしたね」


 ピリンキが独りごちっていると、セカンドが階層主の魔石と銀色の宝箱を持って戻って来るところだった。


 「見ろよ、ピリンキ。宝箱ゲットだぜ」


 見るからに上機嫌なセカンドの背後からナビアが宝箱を横取りすると、躊躇なく開けて中を確認し始めた。


 「ゴミ……ゴミ……これは普通……あっ! これは!」


 勝手に中身を地面に投げて酷評しまくっていたナビアが、一つの腕輪を見つけて天高く掲げた。

 しかし、怒り心頭のセカンドはナビアの頭を鷲掴みにしてにっこりと微笑んだ。



─────


 「それで……この腕輪は何なんだ?」


 シクシクと泣きながら地面に倒れ込んでいたナビアが、セカンドの質問に正座をしながら答え始めた。


 「はい。これは変化の腕輪です、セカンド様。この腕輪に、変化したい人物に魔力を込めて貰うと、その人そっくりの姿になれます」


 「そうか、便利そうだが今は必要無いな。……それより、なんだその喋り方は?」


 セカンドによる度重なる折檻によって、ナビアは心を入れ替え従順になった様だ。


 「いえ、お気になさらずに。さあ、次の階層に進みましょう。モンタピレーテも行きますわよ」


 何かを企んでるんじゃ無いかとセカンドとピリンキは顔を見合わせたが、特におかしな行動も見られなかったので、言われるがままに次の階層の扉を開けた。


 


 「うお、見るからに寒そうなエリアだな」


 扉の先は、一面の雪景色に覆われた銀世界だった。

 絶え間なく降り続く吹雪が、セカンド達の視界を奪っていく。


 「Ms.ナビア、寒くはありませんか?」


 「大丈夫よ。前も言ったけど、私は塔による環境の影響を受けないの」


 ナビアは、見てるこっちが寒くなりそうな薄着一枚で楽しそうに雪だるまを作っていた。


 「ほれ、これを着ろ。他の奴に見られたらおかしく思われるだろうが」


 照れ臭そうにセカンドがそう言うと、リュックに常備していた防寒着をナビアに手渡した。


 「……ふっ、やっとセカンドが私にデレる時がきたのね。ありがたく受け取るわ……ねぇ、何これ?」


 壊滅的なファッションセンスのセカンドから渡された防寒着は、全身が虹色のコーデで上着のフードの部分がどこかの星の怪獣の頭になっていた。


 「何って……フリューゲル星のマスコット怪獣アブちゃんだろ。ちまたじゃ人気なんだぞ」


 そうニッコリと笑うセカンドを見て、全てを諦めたナビアが言われるがまま防寒着を着始めた。


 「Ms.ナビア、とてもお似合いですよ」


 「ハハっ、本当によく似合ってるな! SNSに載せればバズりそうだ!」


 その時、雪原に佇む虹色の珍妙な生物ナビアの堪忍袋の緒が切れた。


 「ムキー! もう許さないんだから! 変化の腕輪よ! 持ち主の姿を変えよ……モシャド変化!」


 ナビアがそう叫ぶと、セカンドの腕に嵌められていた腕輪から魔力のモヤが溢れ出してセカンドを覆い始めた。


 「な、何だこれは!」


 「オーホッホッホ! 私を舐めるとこうなるのよ!」


 セカンドを覆っていた魔力のモヤが晴れると、セカンドの姿はナビアそっくりに変わっていた。

 

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