第40話


 バルトロとその部下達は今、セカンドが取り出したワープ装置の前に整列していた。

 

 「セカンド殿……。ピリンキ殿にナビア殿も……本当に世話になった。それに貴重な魔道具まで使って貰ってしまって……」


 昨晩のうちに、セカンドはワープ装置についてバルトロに説明を終えていた。

 魔道具と嘘をついたのは、説明が面倒くさいと言う理由からだ。


 「気にするな。攻略者は助け合いだと、宿屋の先輩に言われたからな」


 「そちらのレディお二人も、身体をご自愛下さいね。あまり激しく動いては傷が開いてしまいますから」


 バルトロの後ろに並ぶ真面目そうな女性兵士が、まだ回復していないのか優れない顔で敬礼をした。


 「サラニナ一等兵であります! この御恩は忘れないであります!」


 「ミ、ミラノ二等兵です! あ、ありがとうございました!」


 諸々の挨拶を終わらせたバルトロ達とセカンド達は、最後に『余裕があれば、殿下を助けてやってくれ』と言うと、ワープ装置が作り出したワームホールの黒い穴へと消えて行った。



 「……行っちゃったね。それにしても、こんな凄い道具を持ってるなんて聞いてない。あれも科学技術……とか言うやつ?」


 「そうだ。まぁ、その話はまたゆっくりな。それよりだいぶ時間をロスしている。早く出発するぞ」


 セカンドのつれない返事にナビアは頬を膨らませたが、すぐに獅子形態のピリンキに跨ると、一行は四十二層へと足を踏み入れた。



 「凄い火山ガスだな……。それに、とても高低差が激しいフィールドだ」


 四十二層は毒ガス溢れる巨大洞窟エリアだ。

 広さの全貌はまだ見えないが、起伏が激しい一筋縄ではいかない厄介なエリアになっていた。


 「セカンド、五十層まではマッピングが終わっています。ここは迷いそうですのでマップのチェックをお忘れ無く」


 「そう言えばドローンを飛ばしていたな。やっぱり五十層より先は無理なのか?」


 『ドローンってなに?』とうるさく聞くナビアを無視し、セカンド達は会話を続ける。

 前回、ピリンキが飛ばしたナノテクドローンは五十層に入った瞬間に全て破壊されてしまったのだ。


 「無理ですね。ですが、昨日のMs.ナビアのあの話を聞いてある程度の予想は出来ています」


 「ナビアの……? もしかして魔力うんぬんの話か?」


 「そうです。セカンドに搭載されている、精密で精巧な自立制御装置にすら影響を及ぼす高密度な魔力……。五十層より先はさらに魔力の影響が濃いのかもしれません」


 会話をしながらも先へ進んでいたセカンド達の前に、バルトロ達を苦しめたと言うエンペラーガルムの群れが現れた。

 しかし、前回相対したガルムよりも圧力が無い事をセカンドは不思議に思った。


 「おい、本当に前回と一緒の種類か? 大人と子供くらいの差があるぞ」


 セカンドは、既に十頭は斬り伏せたエンペラーガルムの亡骸の前でピリンキに問いかけた。

 しかし、その問いに答えたのは無視されてシクシクと泣いていたナビアだった。


 「……私は、魔力を持つ者なら誰がいつ塔に入ったのか分かる能力がある。多分、セカンド達が前に会ったと言うエンペラーガルムは誰かの使い魔だと思う」


 「……そうか。それは……面白く無い話だな……」


 最後に突撃してきたエンペラーガルムの親玉の首を刎ねながらセカンドがそう呟いた。

 

 ナビアが言う様に、あのエンペラーガルムが誰かの使い魔だとしたら、ルシアとその仲間達は故意に狙われたと言う事に他ならない。

 セカンドはそれが面白く無かった。


 「バルトロさんも言っていましたが、第三王女も塔に入る予定との事です。セカンド、貴方が今回の件に首を突っ込むつもりなのかは知りませんが、私達の目的を見失わないで下さいね」


 「分かってるよ。それに王だの貴族だの、面倒なのは勘弁だ」


 明らかに嘘だとピリンキは見抜いたが、それに突っ込むほど、セカンドとは短い付き合いでは無かった。

 

 その後、セカンド達はマップを頼りに順調に進んで行った。

 幸いな事に洞窟エリアはさほど広くは無かった。

 

 正解の道さえ分かれば、時間を使う事無く階層を攻略する事が出来た。

 そして四十二、四十三層を抜け、さらにその先の四十四層の山頂エリアにある火山口に、階層主のヴォルケーノ・ドラグフィッシュがマグマの中を遊泳していた。


 「あれが火山エリアのボスか。不味そうだな」

 

 「ゲテモノほど美味いのはこの世の真理ですよ。それより、戦いに適した足場がありませんね」


 セカンド達は山頂にいる為、今は階層主のヴォルケーノ・ドラグフィッシュを見下ろしている形で立っていた。

 降りる事は可能だが、降りた先はマグマの大海原になっているので、まず間違いなくマグマの中を泳ぐ羽目になりそうだった。


 「……ふふん、遂に私に土下座をして教えを乞う時が来た。セカンド、くるしゅうない……おもてをあげい」


 数分後、顔をパンパンに腫れあがらせたナビアがそこにはいた。


 「姫様……。この愚かなセカンドに是非教えを賜りたい」


 「ぐぬぬ……。私のほっぺに何の恨みが……。それよりほら、あの岩を見て」


 ナビアが指差す方を見ると、円形の火山口の中に明らかに不自然な色の岩が隆起しているのが見てとれた。


 「あれか。あそことあそこと……全部で四つか。あれを壊せばいいんだな?」


 セカンドは言うや否や、返事を待たずに汎用型レーザー銃ルクスで、真っさおに染まったその岩を撃ち抜いた。


 破壊された岩がマグマに飲まれると、激しい煙を出しながら溶けていった。

 

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