第37話


 襲いかかって来る何百匹ものダツの魔物を見て、セカンドは一つ呼吸を深く吸うと、鋭く目を見開いた。


 「主よ……我等を救い給え……ってか」


 セカンドは目の前に迫った魔物の群れを、その場で高速回転しながら右手に持っている刀で全て弾き飛ばした。

 次に、左手に持っている汎用型レーザー銃ルクスでピリンキの背後に飛び出した魔物を全て撃ち落とす。


 その後もアクロバティックに魔物を処理していったセカンドだったが、際限無く飛び出して来る魔物の対処を見誤り、ピリンキに一撃を許してしまった。


 「ピリンキ!」


 真っ逆様に溶岩の海に落ちて行くピリンキだったが、思ったより溶岩の粘性が高かったのか、着地と同時に元の足場へと跳躍して何事も無かったかの様に戻って来た。


 「セカンド、腕が鈍りましたね」


 「……返す言葉も無い」


絶対的信頼の元に後ろを任せてくれているピリンキの期待を裏切ったセカンドは、自分に大いに腹を立てたが、大幅な感情の揺らぎは抑制されている為、表には出さずにその後は完璧に魔物の群れを捌き切った。


「無事に渡り切りましたね。次は渓谷を挟むみたいです」

 

 「川があるな。一度あそこで休憩をとろう。ナビア嬢もどうなってるか心配だしな」


 溶岩溢れる山岳エリアを抜けた先に、まるで砂漠に咲くオアシスの様に、綺麗な川がゆらゆらと流れる渓谷エリアがセカンド達の目に入った。

 

 セカンド達は素早く山を降って川の近くに座り込むと、カプセルの中からナビアを解放した。

 

 「……うーん。アドミン……違うの、ちょっと手が滑って封印魔法を……はっ! こ、ここはどこ!?」


 寝ぼけ眼で辺りをキョロキョロ見渡すナビアは、どうやら先程の激しい攻防のせいで気を失っていた様だ。

 

 「Ms.ナビア、起きましたか。ここは四十一層の中間地点ですよ」


 「……良かった。無事にスナイパーダーツの血の池地獄を抜けられたんだね」


 ナビアが伸びをしながらそう言うと、一人でブツブツと何かを呟いているセカンドを見て首を傾げた。


 「ああ、気にしないで下さい。セカンドは少し反省中ですので」

 

 「……反省? 何かあったの?」


 「ええ、そのスナイパーダーツの血の池地獄とやらで少し……」



 「……あそこは、三本目の色が変わっている岩を壊せばスナイパーダーツが出てこなくなる。そうすれば後は岩を渡るだけ。セカンド達なら楽勝のはず……」


 ナビアの問題発言を聞いたセカンドがゆっくりと立ち上がると、ナビアの前に立って満面の笑顔になった。


 「どうしてそう言う大事な事を先に言わないんだ! 昼食を食べてる時にいくらでも言えただろが!」


 セカンドは怒りのままにナビアの頬をこねくり回した。


 「やめ、やめてぇー! 痛いよー! わ、私は言おうとした、言おうとしたんだよー! 言う前にモンタピレーテが無理矢理!」


 あの時カプセルの中から何か聞こえていたのはこれを言いたかったのかと理解したセカンドだったが、セカンドは八つ当たり気味に追撃を加えた。


 「セカンド、それ位にしなさい。それにあの程度、以前の貴方なら簡単に対処出来ていたはずですよ」


 『長い間眠っていた弊害が出てるのかもしれませんね」と続けるピリンキに諫められ、セカンドもナビアの頬から手を離した。


 「分かってる。冗談だよジョーダン。だが、身体のコントロールに微妙な誤差があるのも……また事実だ」


 「これから先、その誤差が命取りになりかねませんよ」


 深刻そうに話すセカンドとピリンキを見て、ナビアが顔を驚きの表情に変えた。


 「……スナイパーダーツの血の池地獄を通常ルートで抜けてきた癖に何言ってるの? 馬鹿なの? あそこは身体能力を測る場所じゃなくて、観察力を試す場所なんだよ? それを無傷でクリアしたのに、身体のコントロールの誤差? 頭狂ってるの?」


 もの凄い勢いで捲し立てるナビアを宥めながら、セカンドが優しく説明した。


 「違うんだよ、ナビア。魔物が出て来る出て来ないは問題じゃ無い。今回、俺は魔物の対処に失敗してピリンキに一撃を許してしまった。これがピリンキだったから何事も無く終わったが、これが違う人物……普通の人とかなら今頃マグマの中だ。だからこそ、こう言う小さな問題を曖昧には出来ないんだ」


 セカンドの真剣な説明を受けて、ナビアも納得したかの様に大きく頷いた。

 

 「……セカンドの気持ちは分かった。なら、その身体制御の誤差の原因について私なりの見解を話してあげる。恐らく……最大の原因はこの塔に流れている高密度の魔素────」


 ナビアが言うには、通常の人間は無意識に魔力を纏っているため気が付かないが、本来空気中に漂う魔素は人間にとって害になるらしい。

 

 だが、普通の人間は体内にある魔力で相殺しているで大丈夫なのだとか。

 しかし、魔力を持たないセカンドにはそれがダイレクトに影響を与えているんじゃ無いかとの事だ。


 「塔の魔素は外のよりも高密度だから、影響もより高くなる……か。ピリンキは何ともないのか?」


 「私は問題ありませんね。セカンドは生身の部分が残っているのでそのせいでしょう」


 意外なところから答えが分かったのは僥倖ぎょうこうだったが、今すぐどうこう出来る問題では無さそうだった。


 「……大丈夫。五十層の階層主を倒せば、セカンドのその問題は解決するかも知れない。まぁ、運が良ければだけど」


 


 そう言って意味深に笑うナビアは、それ以上喋ろうとはしなかった。

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