第36話
順調に進んでいたセカンド達の前に、四十層最大の難所である断崖絶壁が行手を阻まんとばかりに待ち構えていた。
「……ここを登ろうとすると、火食い鳥が群れをなして襲ってくる死の絶壁……。どうしてもと言うなら秘密の迂回ルートを────」
ナビアの話も耳半ばに、ピリンキが大鷲の姿に変わるとナビアを掴んで飛び始めた。
それを見たセカンドも飛行モードに移行して瞬時に飛び上がった。
「それにしても塔は凄いな。どうやったらこんな広大なフィールドを具象化出来るんだ?」
『……もうやだ。この一人と一匹……』と嘆いていたナビアが、セカンドの質問にバッと顔を上げた。
「……ふふん、やっと私に頼る時が来た。どうしてもと言うなら優しいナビアが答えてあげる」
セカンドは『面倒くさいな』と思いつつも、ナビアの機嫌を損ねない様に丁寧に相手をした。
「どうしても。お願いしますよナビア様」
「……ふふふふふ、じゃあ教えてあげる。最初はこんなに広くなかった……。私とアドミンが長い年月をかけて────」
ナビアが長々と語り出した内容は、この【星降りの塔】がいつからあったのかは分からないが、ナビア達の自我が芽生えたのが約千年前との事。
それからは本能に動かされるままに階層の調整や整備、拡張などを休み無く
「約千年か……じゃぁナビア嬢なんて呼んだら失礼だな。これからはナビアおば……うお! 危ないじゃないか!」
セカンドの失礼極まりない発言に、ナビアが最大出力の
「……それを言ったら……あとは戦争しか残らないじゃない!」
「そうです。今のはセカンドが悪いですね。謝りなさい」
セカンドは『わるかったよ』と言いながら襲って来た火食い鳥の群れを超圧縮空気砲銃エアですべて撃ち落とす。
「……セカンド、魔法使いより魔法使いしてるよ。もう魔法なんて使えなくてもいいんじゃない?」
「うっせ、サイボーグと魔法は男のロマンなんだよ。
見た目より子供っぽいセカンドに溜め息を吐くナビアだった。
そしてセカンド達が断崖絶壁を楽々と登り終え、40層の終わりを告げる次の階層に繋がる扉が見えて来ると同時に、ナビアのお腹が盛大に鳴り響いた。
「……セカンド、さっきのお詫びがまだ。昼食で許してあげてもいい」
「はいはい。仰せのままに、ナビア様」
本来なら食べなくても良いセカンドとピリンキはノンストップの強行軍をする予定だったが、四十層まで送ってくれた事を思えばお釣りが来るなと思い直した。
そして扉の前に陣取ったセカンドはすぐに昼食の準備を始めた。
「……いい匂い。それはワイバーンの肉?」
「おお、よく分かったな。もう少し待てよ、後はバターを乗せて……ほら、完成だ」
渡されたワイバーンのステーキを受け取ったナビアは、もう我慢できないとばかりに勢い良くかぶりついた。
「……! ……セカンド、もっと焼いて。あと五枚はいける」
「……はいよ」
まるで飢えた獣の様に食べまくるナビアは結局、十枚ほど食べたところで満足した様だ。
ナビアはケプッとゲップをしながらお腹をポッコリと膨らませて横になっている。
「……もう食べられない。セカンド、褒めて使わす」
ようやく自分の分を食べる事ができたセカンドは、怒りをなるべく表に出さない様に頑張った。
「それはようござんしたね、ナビアお嬢様。さーて、気を取り直して行くか」
ステーキを食べ終えたセカンドが素早く後片付けを終えると、勢いよく立ち上がった。
「……もう行くの? この状態でさっきみたいに激しく動いたら……吐くよ?」
我が儘姫に頭を悩ませたセカンドは、ナビアの扱いをピリンキに丸投げした。
「ピリンキ、揺れない様にキッチリ固定してやれ」
「……了解」
背中を卵形のカプセルに変形させたピリンキが、ナビアをその中に強制的に収容した。
完全に閉じたカプセルの中から何やら声が聞こえるが、セカンド達は聞こえないふりをして意気揚々と出発した。
「ピリンキ、少しゆっくりめで駆けるぞ」
「何やかんや言ってもお優しい事ですね」
セカンドは『うるせぇ』と返事をしつつ、目の前にある扉を開け放った。
開かれた扉の先は、先程より更に険しそうな景色がセカンド達を待ち受けていた。
「おいおい、アクションゲームかよ。溶岩で足の踏み場も無いじゃないか」
「所々岩が隆起しています。それに飛び乗って行けと言う事でしょう。セカンドは飛んで行ってもよろしいですよ」
そう言いながらピリンキは背中にいるナビアを気遣う様に軽やかに岩に飛び乗った。
「そんな訳にはいかないだろ。こんな場所にも……ほら、魔物さんは黙っていてくれないみたいだぜ」
溶岩の海からダツの様な魚の魔物が高速でセカンド達を串刺しにしようと飛び出して来た。
セカンドはその突撃をかわすと同時にその尖った鼻を切り裂いた。
「セカンド! 私達は先行します!
久しぶりに聞くピリンキの焦る声のする方を見ると、何十、何百ものダツの魔物が一斉に飛び出してくるところだった。
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