第35話


 セカンド達が調べた情報によると、四十層から四十四層までは火山溢れる山岳エリアが攻略者達を待ち受けているそうだ。


 「これは、生身の人間には堪えるだろうな」

 「ええ。ですが私達には関係ありませんね」

 

 『そうだな』とセカンドが答えた瞬間、すぐ近くにあったマグマの池から、とても大きな赤い蛙型の魔物が飛び出して来た。

 その蛙はセカンド達を見るなり、その大きな口から火炎放射器顔負けの炎を吐き出して来る。


 「コイツは確か……B級のマグマフロッピーだったか?」


 「そうです。ギルドの資料にもありましたね」


 セカンド達は火炎放射を受けながら悠長に会話を続けた。

 耐熱性に優れるメビウス合金にはこれ位の炎はそよ風と変わらなかった。


 「二千度位か? マグマよりだいぶ高温だな。これを体内で生成しても大丈夫なほど頑丈なら、マグマ風呂に入っても無事なのも頷けるな」


 「セカンド、とりあえず処理してしまいましょう」


 『了解』と返事をすると同時に、汎用型レーザー銃ルクスを炎を吐いてる口の中に二、三発撃ち込むと、マグマフロッピーはゆっくり倒れていった。


 「見掛け倒しだな。ピリンキ、コイツの有用な素材になる部位はどこだ?」


 「資料によると、魔石と油くらいですかね。肉は美味しいらしいですよ」



 「……あとは火炎袋も取った方がいい。加工すれば良い手袋が作れる」


 セカンドが『おお、詳しいな』とピリンキの方を見ると、そこには青い髪の少女に捕まってぐったりとしているピリンキの姿があった。


 「ナビア嬢……一体何をしているのかな?」

 

 「……勿論、仕事に決まっている。塔が私を呼んでる……かもしれない」


 『ダメだこりゃ』とアドミニストレータに助けを求める為に家があった方を見ると、既に家は影も形も無くなっていた。

 

 「おいおい、家がもう消えてしまったじゃないか。アドミンさんに怒られるぞ?」


 「……大丈夫。アドミンは封印……ゴホゴホ、少し休んで貰った」


 ナビアから聞こえた不穏な言葉には触れず、セカンドはマグマフロッピーから素材を剥ぎ取る事にした。


 「Ms.ナビア、もしかして私達に着いて来るおつもりですか?」


 ピリンキを強く抱き締めてご満悦のナビアが、首を左右に振って否定した。


 「……モンタピレーテ、それは違う。たまたま……そう、たまたま行く方向がすべて一致するだけ」


 ピリンキが溜め息を吐きながらセカンドの方を見ると、素材を取り終えて戻って来るところだった。


 「よし、行くか。ナビア嬢、俺達はさっきも言った通り少し急いでるからな。しっかりと着いて来いよ?」


 まるで着いて来るのを知っていたかの様にセカンドがそう言うと、ナビアは笑顔で頷いた。

 早速飛んで行こうとしたセカンドだったが、ナビアがいる事を思い出し、走って行くプランに切り替えた。


 「ピリンキ、ナビア嬢を頼むぞ」

 「……了解」


 再度ライオンの姿に変わったピリンキがナビアを背中に乗せる。

 身体の色は先程ナビアがカッコいいと言っていた黒に変わっていた。


 「……モンタピレーテ……Go!」


 ナビアの号令と共に走り出した一行は、もの凄い勢いで四十層を駆けていった。


 「セカンド、前方200m先に熱源を感知。銃の撃ち過ぎには注意して下さい」


 「充電にも時間がかかるからな。了解だ」


 少し走ると、ピリンキの言った通りに前から複数の牛型の魔物がセカンド達に向かってもの凄い勢いで走って来ていた。


 「……気をつけて! あれはレッドブルーム。あの強力な角から────」


 ナビアが言い終わる前に、セカンドは左手に持っている汎用型レーザー銃ルクスで両端の二頭の頭を撃ち抜いた。

 そしてすれ違い様に、中央に居た二頭の首を刀で一閃した。

 

 「牛は美味そうだが、いちいち止まるのは効率が悪い。このまま駆けるぞ」

 

 「検体が勿体ないですが、シャーリーさんの為に目を瞑りましょう」


 呑気に話すセカンドとピリンキに、先程助言をスルーされたナビアがジト目を二人に向けていた。


 「ど、どうしたんだナビア嬢? もしかして暑いのか?」


 「……違う。私とアドミンは塔による影響を何も受けない。それより、セカンドは魔力も無いのに強すぎる」


 その後にナビアは、『この世界の人間は魔物を倒す事で、その魔物が持つ魔力の根源を己の身体に吸収して徐々に強くなっていく』と続けた。


 「要するに、レベルアップみたいなものか。たしか、俺とピリンキは魔力が無いんだよな? なら、俺達が倒した魔物の根源とやらは何処にいってるんだ?」


 「……塔の魔物は塔に。塔の外の魔物は大気中に還元されている……はず」


 ナビアもイレギュラーな存在のセカンド達が起こす現象に今一つ自信を持てないでいた。


 「魔物を倒す事で成長するとは……。面白い情報ですね。データを取るなら赤子から? いや、魔物を倒した事のないの者なら……本人の資質も考慮して────」


 ナビアがブツブツと独り言を始めたピリンキを心配するが、思考に集中するピリンキにナビアの声は届いていないようだった。


 「ハハハッ、ピリンキはそうなったら中々戻って来ないぞー。それより、今思えば魔力の無い俺達は魔法を使えないのか……。残念だな」


 セカンドが再度現れたレッドブルームの群れをルクスで殲滅させながら小さく呟いた。


 「……諦めるのはまだはやい。塔には魔法が込められた魔道具や、魔力を持つ素材を触媒にして魔法を使う方法もある」


 

 ナビアの予想だにしていなかった返答が、セカンドの子供心に再度火を付けた。


 「そうか、まだ希望はありそうだな」


 内心とても喜びながら、セカンドは襲い来る魔物をご機嫌に殲滅して四十層を順調に攻略していった。

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