第34話


「あんた達の人生だ、好きに生きればいいさ。だけど……そんな悲しい顔するのは違うんじゃないか?」


 いまだに写し出される映像を、二人は渇望するかの様に見つめていた。

 ピリンキはすかさず、地球から今いる王国の街並みに映像を切り替えた。


 「アドミン……お家があるよ。これが私達の世界……」


 「ええ、外から我が家を見るのは初めてですが……私達にはこれが我が家だとハッキリと分かります」


 それから暫く王国の街並みを堪能した二人は、十分に満足したのかピリンキにお礼を言って映像を映すのを止めて貰った。


 「どうだ? あんた達の国は綺麗だったろ? まぁ、今は少しゴタゴタしてるらしいが、それが落ち着けばもっと良い国になるぞ」


 『きっとな』と続けるセカンドにアドミニストレータも笑顔でお礼を言う。


 「はい、今日はとても良い日になりました。この出会いに感謝を……。そう言えば御二方はどうやってこの家に来たのですか? この場所は特別でして、普通には来れないはずなのですが……」


 「ああ、ワープ装置を使ったんだよ。転移って言えば分かるか?」


 セカンドは続けて偶然にこの家にしまった事と、科学技術についてもざっくりと説明した。


 「なるほどです。つまりは魔道具と似て非なる物ですね。先程ピリンキさんに見せて貰った映像とやらに沢山映っていた様な」


 「モンタピレーテもその科学技術……? で作られてるの? ライオンさんにもなれる?」


 ナビアの要望に応え、ピリンキは自身の姿を獅子に変えた。


 「Ms.ナビア、私はその中でも奇跡の代物です。決して一緒にしてはいけませんよ?」


 しかしナビアは興奮して話を聞くどころでは無く、すぐにピリンキに跨った。


 「ナビア嬢は凄いな、ピリンキを手玉に取ってやがる。ああ、それと大事な事を聞き忘れるところだった。アドミンさん、実は───」


 セカンドはシャーリーを治す為の秘薬がこの塔に存在するのか。

 もし存在するのなら、何層にあるのかをアドミニストレータに確認を取る。

 塔の申し子を自称するこの二人なら知っている可能性が高いからだ。


 「結論から申しますと……あります。ですが、私が言えるのはここまでです。私共は特定の攻略者には肩入れできない……はずなんですが……」


 「セカンド達には何でも喋れちゃう……。きっと、セカンド達がこの世界の人間じゃないから……」


 ピリンキに乗って部屋の中を周回しているナビアがそう言い切った。


 「いや、あると分かっただけでも有難い。後は探すだけだからな」


 そう言うとセカンドは席を立って出発の準備を始めた。

 それに習い、ピリンキも自分の背中からナビアを降ろした。


 「モンタピレーテ……もう行っちゃうの? 私とここで暮らそうよ……」


 「Ms.ナビア……。許して下さい。私の友達が病に苦しんでいるのです。早く薬を見つけて戻らなければ……」


 猿の姿に戻ったピリンキが、泣きじゃくるナビアの涙を拭う。


 「そう言う事情がお有りでしたか。ならば、引き留めるのはご迷惑になりますね。あー、ここからは独り言なんですけど、今この塔にかなりの数の強者が集まっています。その強者の魔力に当てられ、塔が活性化して魔物が普段より凶暴になっているかもしれません」


 アドミニストレータは己の矜持を曲げてセカンド達に塔の情報を渡そうとしていた。

 セカンドはその心意気に深く感謝し、心の中で頭を下げた。


 「モンタピレーテ……私も独り言……。さっきのライオンの姿もカッコよかったけど、はもっとカッコいいんだよ? 探せばきっといい事がある」


 それだけ言うと、ナビアは二階へと走り去ってしまった。


 「ふふっ、ナビアを許して下さい。初めて出来た友達との別れが辛いのでしょう。さて、私も四十層に用があるのを思い出しました。セカンドさん達にはご迷惑かも知れませんが、今家を出ると四十層からになってしまいますね。……どうします?」


 まるで『私に出来るのはここまでです』と言わんばかりのアドミニストレータに、セカンドは再度深く感謝を示した。


 「アドミンさん、ありがとな。この借りは必ず返すよ」


 「私からも感謝を表明します。Ms.ナビアにもお礼を言っといて貰えますか?」


 二階にあるナビアの部屋から何やら物音が聞こえるが、一階に戻って来る気配はない様だ。


 「ええ、しっかりと伝えておきます。セカンドさんとピリンキさんに塔の祝福があらん事を願います」


 セカンドはアドミニストレータと握手をして別れを告げた。

 そしてセカンドが家のドアを開くと、そこには四十層の火山エリアが広がっていた。


 

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