第33話


 アドミニストレータに促され、セカンド達はリビングの中央にあるテーブル席に腰掛けた。

 ピリンキもナビアに抱えられたまま、一緒に椅子に座る。


 「すいませんねぇ。丁度、お茶菓子を切らしてまして」


 その言葉を聞いたセカンドが、お茶のお礼にとリュックから様々な種類のケーキを取り出した。


 「食ってくれ。俺も色々聞きたい事があるしな。ナビア嬢も遠慮しな────」


 セカンドが言うか早いか、ナビアは既に両頬をリスの様に膨らませてケーキでパンパンにしていた。


 「ナ、ナビア! はしたないですよ! しかも私の分まで食べましたね! あんなに美味しいそうな菓子は見た事無いと言うのに! 今日と言う今日は許しません!」


 「……私は知らない。アドミン……決め付けはよくない。私は深く傷ついた……」

 

 目に涙を溜めて俯くナビアに、アドミニストレータは一瞬狼狽うろたえたが、突然空中に映し出された映像を見て顔を般若に変えた。


 「これを見なさい! 貴女が盗った様子がハッキリと……って、何ですかこれは……魔法?」


 「いいえ、これは私が録画した映像を写し出しているだけです」


 ピリンキが目から光を放出しながら簡潔に説明した。

 ナビアは『モンタピレーテに裏切られた……』と嘆いている。


 「まぁまぁ、ケーキくらいで喧嘩しなさんな。まだまだあるからよ。それより、俺達も少し急いでてな。そろそろ本題に入っていいか?」

 

 今度はしっかりとケーキを確保したアドミニストレータが笑顔で頷いた。


 「これはお恥ずかしい所を……。私も聞きたい事が出来ましたし、お互いに質問交換会と洒落込みましょう」


 ケーキを一口食べて『うーん、美味い』とはにかむアドミニストレータに苦笑しつつ、セカンドが最初に質問を投げ掛けた。


 「俺が聞きたい事はそう多くない。ここが塔の中なのは……さっき聞いたな。あんた等はどうしてこんな場所で暮らしてるんだ?」


 「ふふっ、どうしてと言われても……此処が私共の家だからとしか言えません。ですが、それでは納得しないでしょう? ですから、ずは私共がどの様な存在かを説明しましょう」


 少し冷めたお茶を飲みながら、セカンドは続く言葉に耳を傾けた。


 「……私達は気付いたらここに居た。親も知らない、友達も知らない。毎日顔を合わせるのは陰険で口うるさいアドミンだけ……。私は不幸……」


 「こ、こほんっ! 今ナビアが言った様に、私共は少し変わった出自をしておりまして。恐らくですが私とナビアは、塔……またはそれに準ずる何かに創造された……【擬似人類クロピエンス】何だと思います」


 そう言い終えたアドミニストレータの顔に、少し寂しげな影が差したのをセカンドは見逃さなかった。


 「……『思います』って事は誰からそう断言された訳じゃ無いんだな?」


 「……はい。ですが何故かのです。まるで魂に情報を書き込まれているかの様な……。私とナビアは誰に言われるでも無く、この塔で己が果たすべき役割を完全に理解しています」


 「……そう、私は常に昼寝をするのが仕事……。なのにアドミンが邪魔してくる……」


 アドミニストレータが『当たり前です!』と鋭いツッコミを入れた。


 「ふっ、二人は良いコンビだな。まぁ、俺とピリンキも負けてないけどな」


 セカンドが得意気にピリンキを見るが、ピリンキはサッと目を逸らす。


 「ふふふ、セカンド……モンタピレーテはもう私の物……。代わりにアドミンをあげる」


 「勝手に贈呈しないで下さい。セカンドさん、次は私が聞いてもいいですか?」


 セカンドは『いいぜ』と一言返す。


 「私が聞きたいのは一つだけです。貴方達は何者ですか?」

 

 「……私も聞きたい。二人には、生き物なら皆んな持ってるはずの魔力が全く無い。普通なら死んでる……。お化け……?」


 ナビアがピリンキを持ち上げて足があるか確認し始める。

 持ち上げられたピリンキはナビアの手から逃げ出すと、身体を猫の姿に変えてセカンドの肩に飛び乗った。


 「……見ての通りだ。俺達も少し変わっていてな。実は、俺達はこの惑星の人間では無いんだ」


 驚き戸惑う二人に追い討ちをかける様に、セカンドがピリンキに目配せをして合図を出す。

 瞬時に理解したピリンキが、先程と同じ様に空中に映像を写し出した。


 「……何ですか、この青くて丸い物は?」

 「……綺麗」


 ピリンキが写し出したのは地球だった。

 二人は惑星と言う概念を知らないのか、それが何かを理解してはいなかった。


 「これは地球……。俺とピリンキの故郷だ。それで、今映っているのが俺が生まれた国だ」


 二人は次々と写し出される街並みを食い入る様に見つめている。

 その眼からは涙が溢れ落ちようとしていた。


 「これが、塔の外の世界……なのですか?」

 「アドミン……違う。これはセカンド達の世界……。私達には……」


 ナビアはそれ以上言葉を紡げない様だった。

 

 「まさか、塔の外に出た事が無いのか? ……いや、出られないんだな?」


 「……お察しの通りです。先程も言った様に私達は塔によって創造された存在……。塔の為に生き、塔の為に死ぬのです」


 


 ハッキリとそう断言するアドミニストレータに、セカンドもそれ以上何も言えなくなってしまった。


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る